第106話 召喚精霊


 ミケアの家に謝りに行った翌日は狩りに来た。

視線の先ではジュエルタートルの〝シキ〟が、蛇の魔物を食べている。


 ミケアの家族は俺の謝罪を受け入れてくれた。だが今後に関しては、やはり少し考えるそうだ。

それに関して俺は平謝りしか出来かった。

そりゃーねぇ、八人って話をつけて借りたのに、勝手に六人押しかけて来てるしなぁ。

離れの中には入れなかったが、だったらその前に広がる庭部分でなら良いだろうとか勝手な事言い出して居座ろうとされた。

良い訳あるかと激怒する羽目になった。

 最終的に巡回していた兵士に任せて、村の外の野営が許されている場所に追い出したのだが。

それについても文句を言われたし。なんで日本人というだけで許されると思うのか理解出来ない。

 別に俺がしなくても、兵士のお世話になっていただろう。

あそこは街の外だが、それでいて街の一部でもある。

街中より兵士の巡回率が高い。

騒いでれば目につくし、許可を得ず居座ればお縄になるのは当然だろう。

その前に移動させたんだから、感謝こそされど文句を言われる筋合いは無い。


 人数が増えると強気なる、悪い事をしても見逃されると思うのは駄目な考え方だと思う。

日本人という括りで集まると強気になるのも、どうかと思う。


 固まっていると訪ねてきそうなんで、当面はレベルが上がって増えたスキルの確認作業をやろうと思う。

 

 それでシキが蛇を食べている、という訳だが。

差し当たり召喚魔法の確認を行っている。


 実は一つ、伏せて試していた事がある。嘘を吐いていた、になるかも知れないが。

俺もアオバもなんだが、集まる時は常時召喚して傍に置いていた。

何言ってるか分からねぇと思うがそうなのだ。

おそらく契約し、レベルが上がってスキルとして発現するとその魔物は見えなくなる。


 この事をアオバは、彼氏のナグモにだけ教えている。

俺はアオバとナグモを除く五人にクジを引いてもらい、当たりを引いた一人にだけこの事を話している。

 他の四人にはしばらく確認して、ある程度分かってから話すつもりだ。

そうしないと意識してしまい、本当に見えているのかどうなのか分からなくなる。それでは意味がない。

出来るだけ普通の状態で、教えてない者がどういった反応になるかを確認しておきたい。


 最も先日六人ほど押しかけて来たおかげで、誰も見えてないのは分かったが。

俺の傍に浮いている亀にも、アオバの肩に乗った烏にも、誰も気づかなかった。


 今もマドロアさんには見えていないらしい。

俺が殺した蛇が消えていく様を不思議そうな顔で見ている。

 別に1人で来ても良かったんだが、昨日ミケアとも約束したので声をかけてみたところ、着いて来た。

目の前で仕留めた魔物が消えていく現象について、説明しない訳にいかないので、新たに覚えた召喚魔法の実験という事は説明してある。


今の所分かっているのは。

・契約した魔物は見えなくなる

(召喚獣ではなく召喚精霊という扱いになるので、それが理由だと見ている)


・ルーム内では人間の食べ物を食べるが、ルームから出ると食べれなくなる。

(見つけた日に用意した物は何も食べられなかったが、翌日ルームに戻ったらどれも食べられた)


・召喚しなければ常にルームでのんびりしている。特に不便は無いらしい。

(呼ばない限り勝手には出て来ない)


・現状での召喚魔法時の能力は

召喚時、水魔法スキル能力UP

威力とか詠唱時間短縮でなく、水魔法の扱いが上手くなるようだ。

ようだというのは主観だから。これも確認が必要。

隠れステータスアップは筋力値・敏捷値・耐久値・器用値 のよっつ。これが素直に凄い。

なので早めにスキルレベルを上げたい。一気に四つのステータスが上がるのは大きい。


 今の所分かってたのはこれくらい。

今日は分かっているが、やっていない事を試しに来た。

 アオバの烏も同じらしいが外で召喚すると、そのタイミングで三種類の魔物を教えてくれる。

例えば『今日は蛇か蛙か猪が良いみたいカメ』とか『今日は虎かオーク、もしくは蛇カメね~』って感じで。

ゴブリンの時もあった。最もゴブリンを狩る仕事する日をにゴブリンが出る事はなかったが。

また明らかにまだ無理だろ、と思う魔物が出る事も多い。


 いまのところ毎回必ず〝蛇〟が入っている。

なので今日は試しに蛇の魔物で試してみる事にした。

蛇は街周辺にも多く、食用になる種も多い。なので見かけたら狩るようにしているので生息地はだいたい把握している。幸いなことにここいらには毒持ちはあまりいない。狩りやすい相手である。

ただし魔物と魔物では無い種の境が微妙な魔物でもある。

魔物でなくても食べられるので売れる。

何でも良いなら良いのだが、そうでない場合は探しまわる事なる。


 グリーンスネークという三十センチほどの弱い蛇の魔物がいたので、戦わせてみる事にした。

だが拒否しやがった。

それでも試しにやってみろと言ったのだが、どうやら実体が無いらしい。


 ではどうするんだと聞けば、俺が仕留めた魔物を食べる、のだと。

ざっくり首を落とした蛇の胴体を亀の姿のシキが食べているところだ。


 これで何か変化があるのか? と期待して見ているとシキが蛇の魔物を食べる毎にみるみるうちに俺の筋肉が大きく強くなっ・・・・・・・たりはしなかった。


特に変化は無し、と。


『うん、うん。まだ食べれそうな感じカメ』


 一匹では満足しないようなので、今日は割り切って続けてやった。

結局この日はグリーンスネークを7匹と、レッドスネークという毒持ちの蛇の魔物を4匹、魔物では無い蛇を7匹仕留めた。

 魔物と動物の違いは体内に魔石があるかどうか。シキは魔物では無い肉は一切口にすることがなかった。

食べるのは魔物だけ、という事なんだろう。

この件は今後は別の魔物の種類が出てくるだろうから、何処に何が居るかをしっかり把握しっかりしなければならない事だけは分かった。


 あまり驚かなくなったマドロアさんは、途中から薬草の採取をしてくれた。

俺も合間に別の魔物をちょこちょこと仕留めたので、その日は二人の割にはそこそこ稼げた。


 清算後、狩りに付き合ってくれたので試しに夕飯に誘ってみた所、かなり驚かれた。

しばらく固まったままだったが、行くと言ってくれた。

知り合って少し経つが、二人きりで食事に行くのは初めてだ。

当面はこんな感じで過ごすのも悪くないかもな、なんて思ってたら


「アキノはん。条件を飲むさかいに、足を治したってくれまへんか?」


 冒険者ギルドを出ようとしたところで、待ってる奴がいて声を掛けられちまった。

新しい流れになりそうでちょっと良い気分だったのに。


台無しだ。

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