悪態を吐きながら異世界で

第93話 汗臭い僕らが

「おっ、おつかれさま。先に戻ってたか」

「あら、おかえりなさい」

　冒険者ギルドに戻ると二手に別れ、俺とござるは酒場に直行した。

お手伝い系のクエスト（依頼）は固定報酬なので清算は必要無い。

今日は会議室に泊まる日だ。

揃ったら会議室を借りるのに受付に行く。合流してから良いだろう。

　集まるまで軽く飲んでる事にした。酒場に直行した所、サユリサが先に来ていた。

男子チームを全員、俺が連れ出しているので女子チームも今日も手伝いクエストをやっていた筈だ。

「何してるの？　こっちに一緒に座ればいいじゃない？」

　少し離れたテーブルを確保しようとした俺たちに、リサリサが自分たちが座っているテーブルを指して言う。

「いや、やめとくよ。今日はかなりきつかった。汗だくなんだよ。シャワーを浴びてないからな」

　物凄く汗臭い。自覚がある。

冒険者ギルドにもシャワー室はある。

あるが有料で、別料金な癖に設備がイマイチだ。

現代日本のモノを再現している〝ルーム〟のシャワーとは雲泥の差で、どうせこの後〝ルーム〟に入る。

どうせ浴びるのなら、シャンプーやリンスを常設しているそっちで浴びたい。

ちょっとだけ我慢だ。

　この後、ホクトとナグモも合流する。汗臭い四人で座れば良い。

二人は連絡を取る為に先に一度受付に行った。これも練習の一環。

彼らは普段四人で行動しているので、受付を介して連絡を取る機会が少ない。

ナグモとホクトが、今日は女子組と連絡を取る事になっている。

となると行き違いが発生してるが、大した問題でもない。

「今更何言ってるの？　こっちに来なさいよ」

「そんなの気にしないネ」

　そうは言ってくれてもだね。身体中ベタベタだし。

何て言って断ろうかと思ったが、ござるが引き寄せられるようにそっちのテーブルへと行ってしまった。

姫とござるの関係だからなぁ。そうなるか。

　そうすると俺も行かない訳にはいかない訳で。

仕方なく追いかけて、ちょっと椅子を引き気味にして身体を離して座り、店員を呼んで注文をした。

　酒場に直行組で分かるようにござるも飲める。結構飲める。

注文したお酒を受け取って代金を払い、まずは一杯。

「ぷはぁ、生き返る」「で、ござるな」

　この一杯の為に生きてるって感じがする。

そんなこたぁないけどさ。気分だ。

「もう、おっさん臭いわね」

「実際中身はおっさんだしな。すいません、おかわりぃー」

「拙者の分もでござ」

「こっちもネ」

　追従してサユリンもグラスを空けた。

すっかり吞兵衛三人組である。

　待ってる間にサユリンが差し出してくれたおつまみも食べる。

追加で酒を持ってきた店員に「いつものを」と注文。

会う日はここが待ち合わせ場所なので、常連になりかけてるって感じかな。

　いつもいる店員には顔を覚えられて、これで通じるようになった。

最もお気に入りのメニューではなく、何とか食べられるメニューでしかないけどね。

もう少しタイミングを見て、醬油か味噌でも差し入れてみようかと思ってる。

それで新メニューとか出来たら万々歳だ。

　ただここの店は料理長が店長なんだけど、ちょっと怖いんだよね。

怒ったら両手に包丁持って追いかけて来て、捕まると中華まんにされそうな感じ。

「アオバたちは別？」

「一緒に受けられる仕事がなかったヨ」

「向こうは時間が掛かってるみたいね」

　お手伝いクエストはどうしてもね。単体か、あっても二人くらいの仕事が多い。

複数人で出来ない事は無いが、頭割りにしたら微妙な日給になる。

やるなら何件も受けて、数で稼がないとならない。

　俺たちのように四人で受ける仕事も今回くらい・・・・・・

今日作った鉄を今度は鋼鉄にするだろう。その時も呼んでくれるだろうか？

　今日までにも何回か手伝いに行ったが、今考えると今日の準備だったと思う。

主に鉄鉱石を運ぶ動線の確保と、出来た鉄インゴットを置くための片づけがメインだった。

鉄が既にインゴットの状態だと、あまり手伝いは要らないかも知れない。

「ござるは足を引っ張らなかった？」

　飲み終わりジョッキを置いたタイミングでリサリサが尋ねてくる。紹介者だもんね。全責任はあなたにある。そんな責任は問わないけど。

　引っ張りましたー。こいつもやしっ子で全然体力ないんだもん。

何て言えないっすよ。

　そんな事いちいち言わないで良い。そう思う程度には彼は合流してから頑張っていると思う。

今日も大変な中、文句ひとつ言わず働いてたし。

彼なりに信用を得ようと必死なんだろう。

　俺が土下座をやり返して有耶無耶したあの日。

ござるを含め三人に、改めてスキルの習得の方法を探る手伝いを申し出た。

その件は快諾され、それ以来一緒に色々考え、こうやって実際にやっている。

これだけ大変な日でもちゃんと働いているしな。

少なくともデータの一つにはなり、それは役に立っていると言える。

「今日は俺も結構足引っ張った気がする。それくらい大変だったよマジで」

「いやいやいや、アキノ氏には助けられたござるよ。だが本当に、大変でござったな」

　今日聞いた話をあの後色々聞いた感じでは、鍛冶スキル習得には前提条件があるっぽい。

レベル１で鉄を。レベル２で鋼鉄を。レベル３以降は分からなかったが、作る作業に携わる。

そうすると、ただ武器を作っているだけよりも早くスキルに反映するらしい。

　鍛冶スキルは習得している現地人がそれなりに多いスキルだと思う。

なので割と研究が進んでいるスキルなんじゃないかと思う。ある程度は信用して良いだろう。

いずれサユリサは勿論、アオバとマシロも鍛冶スキルを習得するつもりでいるので、早めに見極めておく必要がある。

あの作業を女子にやれって言うのもなぁ。

一回だけってことで頑張ってもらうにも、抵抗がある。

そもそも都合よく鉄を作る作業を何度も手伝う機会があるかどうか。

その辺を含めての見極めも必要だ。

「ま、何にせよこの先の話は移動してからだね。俺らはすまんが先にシャワーに行かせてもらうが」

「そうね。その方が良いかもね」

「思ったヨリ、ね」

　そう言ってサユリサはクスクス笑った。思ったより臭うんだろう。自分でも汗臭いしなぁ。となると相当だと自覚してる。

だから離れておこうとしたじゃんかよ。まったく。

「すまんが、もうちょっとだけ飲ませてくれよ」

「それは構わないけどね。アオバたちが来るまでよ？」

「コウはなんかご機嫌ヨ。さては何かあったカ？」

「斧の目処がついたから、かね」

　俺が露店で買った錆びた斧は、工房主が駆け出しの頃に作ったモノだったらしい。

若い頃に友人が結婚するという事で、新婚生活に役立つように送った品だったという。

　だがそれはもう昔話。

その夫婦は離婚し、友人だった旦那の方は行方知れずだと言う。

という事はあの露店を出していたのがその友人なのか。

ただ古くなって売ったモノが周り回って俺の所に来ただけなのか。

いちいち露店の店主の顔なんて覚えてないから、何とも言えぬ。

工房主もそこは追求しなかったし、気にしなくて良いだろう。

　何にせよ工房主のゼンは、若い頃の自分の仕事に突然再会した訳だ。

どういう気持ちなのかは俺には分からない。

だが、預からせてくれと言われたので置いて来た。

　代わりに斧を貸してもらったんだけど。

戦闘用の手斧だ。

投擲にも使える斧が欲しいと言ったら、最近ちょうど試作したモノがあったらしい。

古い友人の話よりも、投擲術を持っている方に食いつかれた。

投擲術はレベル２だと白状させられ、ちょうど良いと投げナイフの試作品まで押し付けられた。

　まさに海老で鯛を釣る所業。

魔物と戦って使い心地を教えてくれと言われてる。

つまり借り物なのに戦闘に用いて問題無い訳だ。

斧術のスキル上げのチャンス。

なんとなくやっと〝幸運〟スキルさんが仕事してくれたような気がする。

　停滞していた所が一気に解決した。

気分も良くなる。

今日は飲みたい気分だ。

この後話し合いがあるからそこまで飲めないけど。

「あっ、いたっ。モミ、アキノ！！　ってお酒飲んでるっ」

　なんて気分よく飲んでたら今、誰か俺の事モミジって呼びそうにならなかった！？

その呼ばれ方嫌いんなんだけど！？

・・・・・・そんな呼び方する奴、こっちの世界じゃ一人しかいねぇ。

今はアキノって名乗ってる訳だし。

名前で呼ぶ許可を出した奴はみんなコウ呼びだし。

　声の方向を見ればタカノを先頭に、数人の集団が階段を上って来ていた。

この感じだとわざわざ探してたって感じか。

心当たりは・・・・・・ある。あのアナウンスだろう。

　全く面倒くさい奴らに見つかった。