第95話 追放から始まる異世界冒険譚??


 アキノコウヨウがマツオカユウキを二階の吹き抜けから突き落とした夜。

アキノの元同級生で、エルフへと転生した白鳥宏は口ごもっていた。

目の前にはパーティのメンバーが四人。

自分を責めている。

雰囲気ではない。はっきりと吊し上げを喰らっていた。




 冒険者ギルドの二階酒場。

そこにパーティメンバーを連れ出したまでは良かった。

それがオーダーだったから。

 頼んで来たのは死ぬ前の、古い知り合い。

中学の時の同級生。ゴヘイと言う男。

特に親しくもなかったし、仲も良く無かった。

 その男の起こした問題で他校との喧嘩になり、それに巻き込まれ怪我をしたこともある。

なのに自分は親の傘の下に逃げ、その後の事を知らん顔をしているような奴だ。

口だけだの卑怯者とこそ思っていて、良く思っていなかった男だ。

それが仲間を引き連れて会いに来た。

自分一人の時を見計らうように。


 協力しないか、という誘いを受けたときは胡散臭いと思った。

だが、思うようにいってなかった事も有って、話を聞くだけ聞こうと思ってしまった。


 所属するパーティが行き詰って来ていたからだ。

彼の所属するパーティには魔法使い系のスキル取りをした者が三人もいた。そのうえに、明確な方針が定まっていなかった。

 パーティメンバーは五人。

そのうちの自分を除く三人が、死ぬ前からの知り合いという事もあって主導権はその三人に。

正確にはそのうちの、回復職の女にあった。

 そして三人の魔法使いの中でもシラトリは、自分に長所がないことに気づいていた。

三人のうち一人、兎人の魔法使いの少女はその可愛らしい見た目と相反し、高火力の魔法を扱った。

三人のうちのもう一人はシラトリと同じエルフを選んだ男。

自分に出来ない前衛の補佐が出来、そして魔法の発動も早かった。

 威力も詠唱時間も半端で、前衛の立ち回りも出来ないシラトリは、自分が微妙な立ち位置にいる事を気づいていた。

 その上でパーティの目的も決まらず、故に余計に何をして良いかもはっきりせずにいた。

仕事をして日銭を稼ぎながら何となく生活をし、レベル上げをしているよう日々だった。

そこから抜け出したかったのかも知れない。



 ついて行った先はボロいあばら家で、そこには三人の女性が閉じ込められていた。

一目見てヤバいと思った。

だがそのシチュエーションに興奮している自分がいた事にも気づいた。


「ワテらは日本人同士で協力したい。それだけですがな。

シラトリはんに表立ってなんかしてくれ、なんて言いまへん。ちょっと後押ししてくれるだけでええんですわ」


 そう言われた言葉を受け入れていた。

今回も「一度全員で集まって、先日のアナウンスについて聞いておきたい」と言われただけだった。

それをパーティメンバーに伝えて、あとは流れを見守っているだけのつもりでいた。

勿論約束は最低限、守ろうとは考えていた。

要所要所を見計らって一言二言発言すれば良いだろう、と。

上手い事言って流れが変われば、あわよくばまたあの女たちと遊べるかも、などとも考えていた。


 だが聞きに行った先で、アキノはあっさり拒んだ。

情報の共有を拒否したのはお前らが先だろうと反論し、完全に喧嘩腰の対応だった。

 良い思いをしたことですっかり忘れていたが、こいつはそういう奴だとシラトリはこの時に思い出した。

面倒くさい奴だな。どう考えても数ではこっちのが多いんだから折れろよ、なんて思いつつも黙って見ていると流れが変わる。

悪い方に。


 最悪な事にその言葉に、自分のパーティメンバーが、それも回復職の女が同意したのだ。

「ぐふふふ。それは確かに、そう。都合よすぎ」と


 これに単細胞の馬鹿が切れた。

よりによって自分に向かって、だった。

日本人が全員揃っている前で、「女を抱かせたのにてめえは何やってるんだ」 とぶちまけられた。

そこにいる全員の視線がシラトリへと集まる中で、先日の密会であった全てを大声で暴露されてしまう。


(くっそ~、あの俺ちゃん野郎が。少しは考えろよ。みんなの前でバラしたらそれで全部終わりだろうが。狐野郎も狐野郎だ。止めてくれりゃ誤魔化しようがあったのに。自分はだんまり決め込みやがって。あいつら俺とゴヘイに押し付けて関係無いふりをしやがった。逃げようとしやがったんだ)


 結局アナウンスの内容は一切教えてもらえなかった。

シラトリを除いたパーティメンバーが皆、アキノの言葉に同意した頃、さらに四人の元高校生の男女が合流する。そちらも全員が向こうの味方をした。

それにさらに切れた馬鹿がアキノの胸倉を再度掴み上げてしまう。

 先日の焼き直しか。コイツ学習しないのかよ。

その場にいた全ての日本人が思っただろう。


 だがそうはならなかった。

そうなる前に対応した奴が出たからだ。したのはゴヘイのパーティの暫定リーダーの男。マツオカという。

だがこいつも駄目だった。

「また暴力を振るう気か」「私の前ではどんな暴力も許さないぞ」「揉めたら暴力ではなく、話し合いで解決するべきだ」

などと発言し、

「じゃーお前の中では胸倉を掴むのは暴力じゃないんだな?」

と返したアキノは、一瞬でゴヘイの腕を払って投げ飛ばすと、暫定リーダーの胸倉を掴み上げた。


 その後は酷かった。胸倉を掴み上げると

「胸倉を掴むのは暴力じゃないんだろ?」

と言いながら、掴んだその手で顔面を何度も殴っていた。


 意識を失ったマツオカを、壁を乗り越えて吹き抜けの先まで押して突き出し、宙吊りにした。

一階二階の全ての人間が注視し、叫び声も上がる中、ポイっと放り出すように手を離した。


 静かになるギルド内。

グチャという鈍い音だけが響く。


静寂を引き裂くように、叫び声が上がる。





「君が誰と組もうとしようが自由だがな、勝手に僕らまで巻き込まないでもらいたい」


 エルフの男が冷たい目で言い、他の三人が頷く。


「別にそんなつもりじゃ」


「ぐふふふ。でもあの場に連れ出したのはアンタ。おかげで関わる必要のない騒ぎに巻き込まれた」

「本当、すっごく迷惑なんだけど」


 まるで岩のように大きな身体の回復職の女が言い、背の低い前衛の女が同意する。

回復職の女がドカッと足を投げ出すように座り、小さい方はその足をクッションのようにして寝そべっている。

近くに兎人の女がちょこんといて、大女を挟んで反対側にはエルフの男。

その全員の目に軽蔑の眼差しが浮かんでいた。


「それだって別に俺のせいじゃないじゃんか。まさかあそこで突き落とすなんて思わなかったし。

それにアナウンスの内容を聞きに行くのは間違いじゃなかっただろ?」


「げふげふ。違う違う。そもそも全員で聞きに行くのが間違い。

誰かが要件を伝えて約束を取り付けてから、改めて話し合う場を作るべき。私らを呼び出すのはそれからでいい。

なのにあんたはそこを伝えなかった。

まるで約束してるかのような言い方で私らを連れ出した」


「それは・・・・・・俺だって聞いてなかったんだってば」


「でも君はチームジャパンに女をあてがわれ、それに乗ったんだろ?」


 エルフの男が見下すように冷ややかな目を向ける。


「そうだけど、そうじゃなくてさ・・・・・・あいつらが盛って言ってるだけだって。

それだって俺がどこで女を抱こうが自由だろ? 別にパーティに迷惑を掛けた訳じゃないだろ!」


 そしてエルフ以外の他のパーティメンバーは全員女子だ。

この件で自分の味方をするとは思えなかった。

だがそうは思っても、こう言いたくなる。その気持ちを押さえられなかった。


「ぐふふふっ、聞いた? 迷惑を掛けてないんだって?」

「この人、本気で言ってるのかな?」


 大小のコンビが嘲るように笑い、エルフは呆れて首を振った。

兎人の目は信じられないモノを見る様に見開かれているが、確かに軽蔑の色が浮かんでいた。



 この日、元三十歳の転生者 〝シラトリ ヒロシ〟 は所属パーティから追放された。

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