第96話 責任者は責任を取るのが仕事
ゴミを一つ二階から放り投げた後、諸々の始末を終え、俺は冒険者ギルドのある部屋へと連行された。
席に着かされた俺。
後ろにはアオバら四人とサユリサにござるの七人。
今日は七人で部屋を借りて入ってくれ、と言ったのについてきた。
「さて、呼び出したのは悪かったがそんなに警戒しないで欲しい。
今期一番優秀だろうと言われている問題児と、ちゃんと話しておきたいと思っただけだ」
前には冒険者ギルドの志部長と名乗る男。その左右には同じく副支部長と名乗った者が二人。
その後ろにゴンザレスが立ち、もう一人眼鏡を掛けた美人さんが部屋にはいる。
この女性は支部長の秘書らしい。
支部長はスケベそうな中年の結構なおっさんなので、きっと支部長室では権力を活かしたドスケベスキルが威力を発揮していることだろう。
なんて冗談は置いといて。
言われた言葉は俺に、ではなく後ろにいるついてきた七人に向けての言葉だ。
俺の方は対面の三人とも、秘書とも面識がある。
先程の件は既に終わった話。蒸し返したりしないだろう。
先日の毒蛙の件でね。やらかした。
あの日喋る亀と出会った事で、途中で解体が面倒くさくなった。なってしまったのだ。
面倒になって、血抜きしただけのオレンジ色した毒々しいカエルを丸のままで五匹ほど納品した。
してやったのだ。
怒られて納品拒否されると思ってたんだけど、何故かそれが大好評だった。
考えてみれば当然なんだけどね。品薄だから取って来てくれと求められた品で。
下手くそが無理矢理解体して納めたモノよりも、ずっと高く買い手がついたそうだ。
あの時はそこまで考えなかったけど。
それどころかあちこちの機関から買い手がついて、五匹じゃ足りない状況らしい。
「ふむ、せっかくなので聞いておくか。先程の件は何か申し開きがあるかね?」
「別に無いですけど。敢えて言うならゴンザレスが悪い?」
「あんちゃーん。それは無いぜ?」
聞いて来たのは初老の副支部長だ。向かって俺の右手に座る。
受付業務や解体、依頼などの冒険者に対応する所の統括をしているじじいで、主にこの人に「やらないか?」と何度も誘われたので断っている。
勿論毒蛙狩りの話なのだが、言い方がちょっとね。アッーーーーー! って感じがして無理。
「ふむ、ゴンザレスが悪い、と」
「副支部長~ 」
そう言いながら副支部長が手元の羊皮紙に書き込むふりをすると、ゴンザレスが情けない声を出した。
ちょっとタチの悪い冗談だったかな?
「勿論冗談です。
彼が冒険者同士の喧嘩であの吹き抜けから落ちるのはこの支部の名物だ、とか、喧嘩は基本両成敗で冒険者ギルドはどちらが悪いかの判定をしない、だからやるときは徹底的にやっちまえとか、教えてくれた訳じゃありません」
「あんちゃーん、それほぼ全部言ってるからな」
「全部じゃねーよ。同じ村の出身ってことで、他の新人冒険者から俺たちもチームジャパンの仲間だと思われてる。だからどっかで立場をはっきりさせた方が良いぜ、って言ってた話は言ってないじゃんか」
俺の言葉を受けて一瞬黙り込んだゴンザレスは、困ったように頭をボリボリ掻きだした。
毛のない頭は魔石で光る灯りを反射して、鈍く光っている。
「あー、あんちゃん。ひょっとしてそれであーゆうことをした、のか??
ってぇんなら・・・・・・その対応としちゃ間違いねぇだろうな。
相手はあっちのグループのリーダーみてぇだし、少なくともあんちゃんとあいつらが仲が良いとは見られねぇだろうよ。
口先でいくら仲間じゃないって言おうが、それだけじゃ周りは信じちゃくれねぇだろうからな。
そこは、はっきりしただろうよ。
ま、自分だけじゃなくて後ろにいる面子の事も考えてやったんだろうが、これをあんちゃんに言っても否定するだけだよな?
そっちも効果的だと思うぜ。あんちゃんとつるんでりゃチームジャパンの仲間だとは思われなくなるだろう。
となると、だ。支部長、副支部長。すいません、どうやら本当に俺が悪いみたいです」
ついいつものノリでゴンザレスと話してしまった。
おかげで言わんで良い事を言ってしまったようだ。
前に出て来たゴンザレスが、向こうのテーブルの三人に向かって頭を下げる。
後ろからも、「そんな話が」とか「マジか」とか言ってる声が聞こえる。
何か変な方に話が行った。ゴンザレスを弄るのは失敗だったか。
伝わらなくて良い事が伝わってしまった。
「あっと・・・・・・すいません、やっぱ今の嘘です。
こないだのカエルの査定が気に入らなくて嘘を言いました。
冒険者ギルドにちょっと迷惑かけてやろうと思いまして、ですね」
「良いってあんちゃん。俺が話をしたのは確かだからな。そこは先輩冒険者としてはっきりしておかないと駄目な所だぜ。俺は教えた、あんちゃんは考えた。
やり方は問題があったが、立ち位置をはっきりさせたって意味じゃ俺は良いと思うぜ。
他の誰も褒めねぇだろうが、先輩冒険者だった俺くらいは言ってやる必要が有る。
あんちゃんは正しくはねぇが、決して間違ってもねぇよ。何にもしなきゃただの案山子だ。行動力・実行力は褒めてやるぜ」
そう言ってサムズアップをする強面受付職員。
アンタ男前だよ。さすが嫁が三人もいるだけの事はある。
でも全部バラすなよな。後ろにいるんだよ。
こんなん元学生に相談する話でもないから独断でやったんだから、黙っててくれればさらに男前だったのにな。
元々チームジャパンと名乗っている馬鹿どもの件についてはいつもゴンザレスが教えてくれていた。
冒険者ギルドとしても奴らを問題視はしてはいる、と。
だが冒険者ギルドってのは学校でも無きゃ、会社でも無い。出来ることは限られていた。
ある程度は冒険者同士で片付けて欲しいと思っている訳だ。
「誰かやっちゃってくれないかな~。チラッチラッ」|д゜)
ってずっとやってたからね。
本当は形式としては 「じゃー俺がやるよ」からの
「いやいやあんちゃんそれは良くねぇって」があって
「でも俺あーゆう事やる奴、どうしても許せねぇんだ。止めないでくれゴンザレス」と来て
「まぁ・・・・・・冒険者ギルドとしては良くないんだがな。個人でやる分には・・・・・・黙っててやる」
となるのがベストだったんだけどね。
人の目にとまるとこでやらないと意味なかったからさ。
その上で、鍛冶工房行って疲れて帰って来て、気分よく飲んでたらうぜー奴らが来た、流れだからね。
邪魔すんならやっちゃうかーとなった訳だ。
どうせ毒蛙狩りで棚ぼたで稼いでるしね。
もう一度行って欲しいならそこまで厳しい処分しないだろう、という打算もあった。
それでも冷静に考えて、一番効果的な相手に矛先を移したんだ。
心情的にはゴヘイかタカノをやりたかった。
ゴヘイは言わずもがなだが、今回はタカノが特にうざかった。
「日本人同士協力するべき」とか「いつまでも根に持ってないであんたが水に流しなさいよ」と来たもんだから、真剣に殴ろうかと思った。
あいつの主張は昔から
「みんな仲良くやるべき(道明寺菜桜の下で)」 だ。
綺麗な言葉の裏の副音声が耳ざわりで仕方が無い。
昔からあいつはクラス内の揉め事に首を突っ込んでは収めていた。
それは人望があるから出来た、訳ではない。
祖父が県議でその権力で七光りしていた道明寺菜桜の親友ポジだったからだ。
俺もタカノが何か言ってくれば矛を収めたし。他の連中も大概同じだ。
あの頃は、ね。あくまでも学校の中での話。
俺は同じ中学校に所属していた学生だったから。他の連中も同じだろう。
今は十五歳に戻ったが、中学校に通っている訳じゃない。
学生でもなければ、誰かに
他の日本人に、従う筋合いは無い。
だからと言ってタカノを突き落しても、それと一緒になって騒いで突っかかって来た抽冬を落としても、何も解決しない。
「それにしてもよ、やるなら先に言っておきなさいよ」
後ろからも声が掛かる。
偉い人の前では遠慮しなさい、金髪碧眼サムライ美少女よ。
但しこいつは刀を持ってない。
何を隠そうこいつの最初の契約店舗、〝刀剣商〟だって。
聞いたときは閉口したよ。そして頬を抓られた。
黙ったから、だって。そりゃ黙るでしょ? 呆れたもん。
選ぶか、普通? 俺の中で牛丼屋より有り得ない。
その後もう一店舗選べるようになったからセーフだったろう。
けど、そうじゃなかったら絶対馬鹿扱いしてた。
そして言っておきなさい、も無いよね?
言ったら止めるから言わないに決まってる。そもそも急に思い立ったし。
思い立ったが吉日、それ以外は全部
だがこれも言わない。理由は言うと面倒くさい奴が増えるからだ。
主に俺の後ろにな。
今日はもう疲れたよ。帰って寝たい。
「そういえばなんか話があるんじゃなかったでしたっけ?」
どうせ毒蛙の事だろう。
だが、アレに関しては雨の日限定だ。その上で俺の予定が無い日でないと駄目だ。
そして最後にコレが一番大事なんだが、やる気になった時じゃないと無理ー。
正直やる気にならないんだよ、次行ったら今度はカエルか蛇かナメクジが仲間にしてくれって言って来そうじゃないか。なにそれ怖い。
だからタイミングがあったらと言う事でと、いつも誤魔化していた。
だが今回のこの件で、何か優遇してくれるんなら一度くらいなら行っても良いかな。
「最近新人冒険者の間では〝かっぷら、めん〟というのが話題になっているそうじゃないか。
何でもニフォン村出身の者で、その中でもごく限られた者しか手に入らないとか。
君なら・・・・・・何とかならないかと思ってね」
・・・・・・そっちかーい。
そういやそんなの提供した事があったな。
最近はこっちの食べ物にも慣れようと考えているので、あんまり食べて無かった。
だから提供した事すら忘れていたよ。
言ったのは支部長、ではなく左前のもう一人の副支部長だ。
歳の頃は三十歳前後。役職を考えると若い。
詳しくは知らんが貴族の系譜とかで表に出て冒険者の相手はせず、裏で物流の管理なんかを担当していた筈。前に会った時も挨拶くらいだった。なのに、出て来やがったのはそれでか。
誰だよ、余計な事を教えたの。
カップラーメンね。
俺なら確実に手に入る。だが俺は一度しか他の冒険者には出していない。
その時にはもうその存在を知られていた。
おそらくチームジャパンの方、あっちの誰かが手に入れられるのだろう。
ふむ、失敗した。
契約店舗を聞きだしてから突き落とせば良かったか。
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