第97話 対 多数
視線の先でござるが先の無い槍の柄を、つまり棒を振り回してゴブリンと戦っている。
ござると向き合っているのは二匹のゴブリン。
奴らは位置を変えながら、挟むようにござるへと襲い掛かっている。
「あー、もう。見てられない」
金髪碧眼サムライガールのリサリサが、今にも飛び出しそうな勢いで前に出て来た。
「その辺は経験不足だね。挟まれない位置取りを覚えるしかない。今日は手を出さない約束だぞ」
「分かってるわよ、分かってるけどもどかしいんだから仕方ないでしょ」
「そうやって手をだして、多対一の経験を奪うのは良くないぞ。目に見えない経験値も大事だぞ。本人がやると言ってるんだから見守るのが仲間だろ」
「うぅ~~」
せっかくの綺麗な顔を、下唇を持ち上げて噛みしめて台無しにするリサリサ。
今日は狩り曜日。勿論そんな日は無い。
後ろには餌場。前は修羅場。その間に立つのが俺、アキノコウヨウ。
あの騒動から五日。
今日は手を組んでいる八人のうちの四人。男子メンバーのレベルアップの日だ。
女子メンバーは明日、レベル上げをすることになっている。
分けて上げるのはこの五日間、それぞれが違う事を練習してきたからだ。
鍛冶の件で実験をしたので、男子四人は同日に上げたかった。
なので今日参加するのは男子だけで良かったんだが、両日とも全員参加になった。
見届るのが仲間だから、という美辞麗句で飾り立てられているが、誰が何個のスキルを習得できるか気になるからだろう。勿論俺だって気にはなる。
なるが、今までは互いにそこまで踏み込まなかった。
見れば誤魔化しが効かなくなるから。
なので、報告だけで済ませていた。
何だかんだ言っても、情報交換の間柄だからだ。言わない事もあるのが暗黙の了解だった。
こればっかりは人数が増えた弊害と言えるだろう。
そうなるとこれ以上、人数が増えるのは避けたい所。
八人でも制御が効かないのに、日本人全員、二十五人でこんなことやったら遥かに面倒になる事は火を見るよりも明らかだ。たとえそれが、十人でも、十五人でも、今より面倒な事には変わらない。
俺は個別に、可能ならこっそり一人で上げたい。それが素直な気持ちだ。
とは言っても来ると言われては、駄目とも言えず。
本日の参加者は十人。
俺、ござる、ナグモ、ホクトで四人。この四人でレベル上げの為にパーティを組んでいる。
アオバ、マシロ、リサリサ、サユリん の 見守りという名の餌 パーティその1。
マドロア、ミケア の 何かついてきちゃったのでこいつらも餌 パーティその2。
餌扱いしている理由は本日の狩場が既に発見されており、冒険者ギルドに報告されているゴブリンの
ギルドの
ゴブリンでも数がいればレベル上げにちょうど良いだろうという判断だ。
餌扱いは女子チームも承諾済み。
ゴブリンは女性に反応するからね。今日はお化粧もばっちりで待機している。
本当は全裸で縛って放置して寄って来させたかったが、それを言うと怒られるのでさすがに言わなかった。
ゴブリンの
実は男子三人からも頼まれてる事もある。
なるべく多数の相手と戦う経験を、今回積みたいそうだ。
普段ナグホクはアオバらとの四人パーティだし、ござるはサユリサと一緒だ。
女子と一緒なのであまり無茶はしないように行動している。
つまり無茶をするなら今日だろ、という訳らしい。
意外と男らしい良い奴らだと思う。
この理由が女性陣には内緒って所もだ。
それにしても、極上から上等の餌が六匹もいると食いつきが凄い、
本日の釣果はエロゴブリンどもが爆釣である。
実は想定してたよりもかなり沢山のゴブリンが来ている。
陣取る位置がちょっと前すぎたかなと、本日のリーダーとしては考えちゃうところだ。
そう、つまりナグホクも少し離れた所で五匹のゴブリンと戦っている最中だったりする。別にござるだけ無茶な鍛え方をしている訳じゃないのだよ。
簡単に言ってしまうと分断されちゃったんだよね、あの三人。経験不足故に。
そもそも三人だけで戦った事がないのだ。だから仕方が無い。
とはいえ即席でもそこそこ出来るようになってもらわないと今後困るだろう。
本人たちもそこを気にしての提案だろうし。
なので心を鬼にして見守っている訳だが。
「う~、コウさーん。そろそろ何とかしてあげてくださいよ」
「何も手立てがないなら兎も角、どうにかしようと頑張ってる所だからさ。もうちょっと見守ってあげなさい」
リサリサと同じく耐え切れなくなってきているわんこ、マシロが言って来るが、絶体絶命というほどでもないのだからちょっと待って欲しい。
「えー、そうなんですか? マシロにはわかんないですよぅ」
「今ね、ホクトとナグモがござると合流しようと位置を変えてるの」
「ただござるが気づいてないネ。どんどん下がってるカラ、離れてくヨ」
アオバとサユリんの言う通りで、ナグホクの二人は盤面を調整している所だ。
手を出すのは簡単なんだが、その頑張りを無駄にするのもちょっと、といった流れ。
ござるが二匹相手に手一杯で、周りが見えていない。二人からどんどん離れてしまっている。
今日の戦闘は基本、女子チームは全員見学の約束だ。
現状自分の判断で手を出せるのは俺だけ。襲われない限り女子チームは攻撃しない約束になっている。
勿論男子三人にも、手に余ると思ったら俺の方に押し付けるように言ってある。
ただ俺は女子の前にいて門番をしているからね。
この位置にいる以上、こっちに押し付ける判断をするのは難しいだろう。
だがそれでも、そんなこと言ってる場合じゃないって時にはやる、という判断が出来ないと駄目なんだが。
このままだとジリ貧なのも確か。
「ちなみに手は出さない約束はしたけど、口を出すなとは言ってないんだけどね」
本人に余裕が無く、気づいてない。ならば周りに教えてやってもらおうか。
出来れば戦闘中の三人が声を掛け合うのが望ましかったんだけど。
「もう、それを早くいいなさいよ!!」
アオシロがナグホクに声を掛け、サユリサがござるに声を掛ける。
そこは別に分けなくても良い所だと思う。
サユリサの声を聞き、ござるも気づいたらしい。
拙くとも何とか二人の方へと寄ろうと足掻き始める。
細かい傷を負いながらも、挟まれないようにしながらナグホクとの距離を詰めていく。
寄って来るござるに気づいたホクトが、自分が相手にしていたゴブリンを蹴り飛ばして、ござるの相手のうちの一匹に激突させる。
「チャンスでござ!!」
ござるは激突していない方のゴブリンに向かってジャンプ。
振り上げた棒を力いっぱい頭に叩きつけた。
それを見て叫ぶ女性陣。
「あっ、馬鹿!」
棒はぽっきりと折れた。
そりゃーただの棒だからね。側面から思いっきり叩きつけたら折れるだろうよ。
ゴブリンを一匹は倒したものの、武器を失くした。
あれ明日女子チームも使う予定だったんだけどね? どうすんべ。
「うあああああ、やっちまったでござああ!!」
それを知っているからか、折れた棒を両手に拾って叫ぶござる。
そこに激突した衝撃から復活した二匹のゴブリンが襲い掛かる。
後ろから飛び掛かり、ござるを引きずり倒した。
「ちょっ、待つでござるよ。拙者は美味しくないでござるよ」
あっと言う間に片方のゴブリンには両手を押さえられ地面に倒される。残るゴブリンは鋭い歯でござるの喉元を噛み千切ろうと迫った。
「セーフ」
「油断しすぎっすよ」
そこを救ったのはナグモとホクトだ。
ホクトは噛みつこうとしていたゴブリンの、ナグモは腕を押さえているゴブリンの、背中に武器の刃を差し込んでいた。
「だが残念、ここまでだな」
ナグホクの後ろまで寄っていたゴブリンに斧を投擲する。
頭部に突き刺さり、前のめりにゆっくり倒れるゴブリン。
ナグホクの判断はアウトだろう。
ござるを助ける代わりに自分に危険が迫っていた。
怪我をされるのは困るので、ここからは俺も参戦だ。
ござるが1。ホクトが1。ナグモも1。俺も1で四匹を始末。
三人が相手にしていたゴブリンは7匹。
仲間を殺され、4対3と人数が逆転したゴブリンは逃げ出す判断をした。
振り向き、一目散に走り出した。
「逃げると面倒」
投げナイフで一匹の足を攻撃し、転ばせたところをござるが飛び掛かって馬乗りになって殴る殴る。
ナグホクが残る二匹に向かって走り、飛び掛かって逃がさない。
三匹目を始末し終わったところで、ナグモとホクトの二人にレベルアップを知らせるエフェクトが地面から立ち昇った。
「・・・・・・ごお、ろく、なな。
七つ! すごいよ。やったね」
「二人ともおめでとう」
マシロとアオバは祝福したが、サユリサは少し呆然とした顔をしていた気がする。
初見だと衝撃だよね。
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