第32話 ミッション②
<< テレッテッテッテッテー >>
都会育ちで、魔物どころか小動物など殺した経験など無いアキノ・コウヨウだったが、多少考える時間があったことが幸いした。
異世界で生きるという覚悟をとうに決めていたので、逃げるホーンラビットに躊躇なく短剣を突き刺して殺す。
三匹目のホーンラビットを仕留めたコウヨウの脳内に、二度目のファンファーレが鳴り響く。
その事でコウヨウの動きが硬直する。
続いて機械音声のような声が響く。
<< プレイヤー アキノ・コウヨウのミッションクリアーを確認しました >>
<< ミッション2 ホーンラビットを三匹仕留めよう、クリアー報酬は『ルーム』 >>
<< 『ルーム』とはプレイヤーにのみ与えられる能力で特定条件下で
「コウヨウ!! おい、大丈夫か?」
鬼人族のレイシュアの顔が視界を塞ぎ、そのままその太い腕で身体を揺らされる事で我に返る。
が、システムの説明を聞き逃す訳にはいかないコウヨウは酷く焦る。
足元に仕留めたホーンラビットを放置したまま突然、動きの止まったコウヨウを心配してティルナノーグの三人が寄って来ていたが、それどころでは無かった。
「すいません、ちょっとだけ待ってください」
「おい、大丈夫なのか? 何があった?」
「今頭の中で変な声が聞こえてて、えーっと。あぁそうそう、出身のニフォン村特有の呪いなんで、すいません。その声を聞き逃すとマズイんです」
コウヨウはこちらの世界に来る前に聞いた言葉を絞り出して説明した。
「呪いとは穏やかでないですがなにやら事情がある様子。その事は聞いている筈です、少し待ってあげたほうが良さそうですよ」
サトッカの言葉にレイシュアとクレア頷く。
個人では無く出身の村単位で呪いを持っている事は先立って伝えてあった。
自分が人と違う身なりをしていること。
ホーンラビットを狩れば脳内にアナウンスが流れる可能性がある事も分かっていたからだ。
コウヨウがどうしてもホーンラビットを狩りたいと言い、三匹と細かい数の指定までして行った理由がこれだ。
〝ミッション2〟
元日本人同士の話し合いが決裂し訓練所を出た、その瞬間に突然その場で告げられていた。
時間や期日の指定こそ無かったが、そのまま放置する事は気持ちが悪く感じ、本来ならば昨日ティルナ・ノーグとの話合いが終わったらすぐにでも向かいたいと考えていた。
情報収集を優先したために今日へと先延ばしになったが、その代わりにホーンラビットについてを調べる事が出来たのは運が良かった。
角が生えただけの兎で、草食系、人間を襲わず逃げる。そして魔物として最弱。
情報源のティルナ・ノーグの三人が自分に噓をつく理由は無い。
嘘つきは中学の同級生だけで良いと考えるコウヨウは落ち着いて、だが油断する事なくホーンラビットを狩る事が出来た。
だがそれで手に入るのは前回と同じくこちらの神が新たに設定したという日本円だと思い込んでいた為に、思わぬ長文で語りだした機械音声のような声に驚いた。
そのコウヨウは、三人の前で突然音もなく消える。
突然の出来事にコウヨウ以上に驚く三人だった。
「これは・・・・・・ 一体!?」
★☆★☆
「随分掛かっているが、『どこかに飛ばされた』とかではなく『間違いなく此処に戻って来る』んだな?」
「えぇ、残っている魔力の残滓から見てそれは間違いないですよ。
『呪い』とは言い得て妙です。何かが干渉して繋げている感じがするです」
レイシュアの言葉にサトッカが答える。
消えてすぐは焦ったが、魔法に秀でたサトッカが魔法が使用された形跡に気が付いた。
レイシュアもクレアも魔力値が高い。指摘されれば、何となくではあるがそれは理解出来る。
「つまりこれは『空間魔法』なの?」
「うーん、そこが難しいところです。こんな魔法私でも使えませんですよ。
だとしたら昨晩聞いていた村全体に掛かっている『呪い』という話が関係している気がするです」
これから付き合うに当たって、ある程度の情報の開示は必要だと感じていたコウヨウは迷った末に『呪い』の話はしておく事にした。
迷ったのは場合によっては自分の身に危険がある事。
そして他の日本人に接触を持とうと思われる可能性がある事が理由だ。
その心配はまだ解消されていないが、
「『村を出ると呪いが起きるかも知れない』という話を村を出る前に偉い人に言われたので、起きてからでないと詳しくは分からない」
と言う説明をしている。
勿論色々聞かれたが、起きてみないと分からないとしか答えなかった。
なので何か分かったら協力するので相談するように、という事で保留になっている。
「でも一つだけ分かる事があるです」
「そうだな 『頭の中で変な声が聞こえる』 と言っていた。それが何かは分かる」
サトッカの言葉にレイシュアが頷く。その横でクレアも頷いた。
「「「『世界の理』」」」
御神の言霊 とも呼ばれ、この世界を支配する神様の代理人の声だと言われている。
全ての存在の上に、降り注ぐ可能性があるという天の声だ。
だが生涯でそれを聞ける者はごくわずか。
何もない人生に神の言葉は送られない。
此処にいる三人でもこれまでに一度か二度しか経験した事が無い現象だ。
結局コウヨウが戻って来たのはそれから三十分ほど経ってからになる。
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