第33話 同級生 〝白鳥 宏〟 視点①
俺の名前は〝白鳥 宏〟 ハクチョウではなく、シラトリと読む。
元日本人が多数いる事に気づいたので、冒険者ネームは〝ヒロシ〟ではなく〝シラトリ〟で登録した。
ヒロシ、もしくはヒロでは被るかも知れないと思ったからだ。
何の因果か神様に出会い、その後異世界に転生してきた。
まさか普通に生きていた俺がこんな目にあうなんてな。
死んだ事は酷く恨んだ。
それでも頑張って生きようと思っていた。
だけど一気に雲行きが怪しくなった。
きっかけは元日本人同士で話し合いをしたことだ。
それ自体は悪い提案じゃない。
だから反対しなかったし、他の日本人も皆残ったのだろ。
だが元日本人での最初の話し合いは失敗だったと言える。
とてもみんなで協力しよう、なんて雰囲気じゃなくなってしまった。
結果五人の集まりが五組、合計二十五人いた元日本人は再構築してバラバラに行動する事になった。
俺とこの世界に一緒に移動してきた五人も、そのうち二人は別のグループに移動する事になった。
代わりと言っては何だが、異様に胸のデカイ兎人族の子が一緒にやることになった。
その子は俺と同じ魔法使い風の恰好だった。
なのでちょっと思う所はある。
見た目通りに魔法系のスキルをメインに取得しているなら役割が被る。それは困る。
だが俺以外の二人と兎人族の子は前世からの知り合い、という事で従わざるを得なかった。
俺はエルフを選んだ。一番金額は低い種族を選んだが、それには理由がある。
魔法を多めに買い足したかったからだ。
初期設定では持っていなかった攻撃魔法を多めに買い足した、魔法での後衛特化にしてある。
なので最初は数人で戦うようなパーティに所属していないとちょっと厳しくなる。
正直に言えばこちらに来る前は魔法を使えればパーティなんて、引く手あまたで苦労しないだろうと思っていた。
だが甘かった。
誰もそれについては触れなかったが、元日本人のかなりの人数が同じ服装をしている事には気づいていた。
抜けた二人も同じ格好だった。
俺もどうしようかとは考えてはいたが、先に抜けると言ってくれたので残る選択肢が取れた。
残った二人はちょっと変わった子たちだが、一人は俺と同じエルフで回復職っぽい恰好をしている。
見た目は全然好みじゃない、むしろかなり微妙だと思うが最初は仕方が無い。
我慢だ。回復役は絶対に必要なポジションだ。
もう一人も背丈こそ低いが前衛職だろう。装備が軽装なので回避系か?
出来れば重装備のタンク系前衛が欲しかったが、贅沢は言えない。
前衛、回復、後衛と揃っているので三人になっても結構良いバランスだと思っていた。
そんな所にもう一人魔法使いが加わったのは誤算だった。
だがその後にもう一人入って来たので、うん、まぁ何とかなるだろう。
明らかに兎人族の子の胸を凝視しているそいつ。間違いなく彼女狙いだ。
問題はそいつも、俺と兎人族の子と同じ魔法使い風の装いだという事。
その事で最初は断るような雰囲気だったが、なんと剣術と盾術のスキルも所持していると言う。
今は装備を持ってないので無理だが、後々は魔法剣士系の立ち位置を目指していると言う。
なので受け入れる事になった。
何とか追い出されずスタートが切れる事に安心した。
「う、いってぇ、いっつつつつ、なんだこりゃ!?」
という話がまとまったその頃、床で寝ていた馬鹿が目を覚ましたようだ。
馬鹿の名前は五瓶。こいつは中学の時の同級生だ。
中学の同級生がこいつと自分を入れて七人もいたのには驚いた。
そしてその七人のうちの二人が、話し合いの場を壊した事にはもっと驚いた。
「あー、思い出した!! くっそ、秋野の野郎、俺ちゃんを殴りやがった。思いっきり殴りやがった!!
秋野の癖に! 秋野の癖に!
親父に言う、ぜってー言うからな、覚えてろよ、ちっくしょうが」
実際はこいつの言う秋野という男の胸倉を掴んで訳の分からない事を喚いていたところを、三発殴られ文字通りぶっ飛ばされた。
瞬殺だった。場が凍一瞬でりついた。だがそれで終わらないのが秋野と言う男。
その後立ち上がれなくなった五瓶の腹部を三度蹴った。
止めに入る奴がいなければその数は、さらに増えていただろう。
だがこいつの記憶にあるのは殴られたところまで、だったようだ。
自分から散々秋野を煽っていた癖に、あっさりやられ。
その負け惜しみで親に言いつけるか、相変わらず口だけは強気の同級生だ。
殴った方も同級生なんだけど。
いまだに立ち上がれないその男は、目が合うとこちらに向かって口を開いた。
「おい白鳥!! 何で助けないんだよ!!」
「何言ってんの? おまえが勝手に秋野に喧嘩を売ったんだろ?」
「ふざけんな! 俺ちゃんが殴られてんだぞ!!」
「意味が分かんねーよ。なんでお前が殴られたら、俺が怒らなきゃならないんだよ?」
やけに強気だったのは俺が五瓶の味方をする前提だったらしい。
秋野とは確かに親しくなかった。だが何で俺がこいつの味方をすると思ったのかが、分からない。
別にこいつとも、親しい訳じゃなかった。
むしろどっちとも距離を取っていた俺だ。
こいつはいつもそうだ。人の名前を勝手に使う。
中学時代はそれで通用していたが。あくまでも地域での話だったからだ。
俺たちは十五歳に若返った。
だからと言って中学時代に戻った訳じゃないんだが。
「抽冬っ、抽冬はどうしたっ!」
「抽冬? もういねぇよ。お前が寝てる間に話は終わったしな」
引っ掻き回していた奴が寝てくれたので、その後の話はスムーズに進んだ。
場の空気が氷点下まで凍りついたから、お開きムードに一気に傾いた。
「いない? ふざけんな! どいつもこいつも使えねぇな!
あいつだって中三の時、秋野と思いっきり喧嘩したじゃねーか! 俺ちゃんの味方すんのが当たり前だろ!!」
どうやら頭数には俺だけでなく、抽冬も数えられていたらしい。
秋野と抽冬が過去に揉めた話は俺も知っている。
それが一緒のグループでこちらの世界に送られてきているのだから、自分の目がどうにかなったのかと思ったくらいだ。
微妙に距離感があった事を確認して、そりゃそうだと納得出来た。
「ごめん、放っといて移動しよう」
まだ何か言っていたが、こいつに巻き込まれたくなかったので移動しようと提案する。
誰も反対せず、頷いて出入口へと歩き出した。
俺たちのパーティは五瓶が
「十八年しか生きて無い癖に何が分かるのwwwww」
「高校生が俺ちゃんたちに意見とかwwwww」
「社会人経験してから言って欲しいもんだぜwwwww」
と言って馬鹿にしまくった高校生が、三人も占めている。
五瓶に同情する訳が無い。
遠ざかっていく俺たちを見てさらに喚く声が大きくなるが、まだ立てないようなので追ってはこれないだろう。
さすがは秋野だ。男相手には容赦が無い。これも昔と変わってない。
ワン・ツー・スリーまで行ったからなぁ。一瞬だった。
あれは確実に何かやっている。
多分みんなそれに気づいたからドン引いた。
訓練所を出た俺たちは、しばらくして四人組の男女に声を掛けられた。
話がしたいと言って来た。特に俺に聞きたいことがあるらしい。
高校生の三人と前世から面識があるそうで、俺以外の皆が承諾した事で九人で移動する事になる。
人のいない場所で、改めて話し合いを行う為だが、今日初めて来たので兎に角土地勘が無い。
話し合う場所を見つけるのに少し時間が掛かった。
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