第34話 『ルーム』


 おいおいおいおいおいおいおいおいおい。

脳内に流れる機械音声のような声が話し終わった瞬間、突如視界が暗転し、暗い部屋に一人立っていた。

勝手にスキルが発動したらしい。


 この場所には見覚えがあった。

老婆の自称女神とスキルなどを決めた部屋だとすぐに気づいた。

どうやらこの場所を〝ルーム〟と呼ぶらしい。


 それは良い。

説明を聞いた感じ、特定の条件下で出入りが出来る部屋をもらえたらしい。

それはありがたい。とてもありがたい。感謝するよ。


 だけど人前で強制発動させることはねぇだろうが!!!!


 初回だから体験させてやろうって優しさ、なのかも知れないが第三者といる時は後でとか、せめてイエス / ノーくらい聞いてくれよ。

こんなもん何て説明すれば良いのか。

むしろ何で説明しなきゃいけないんだって話になる。

入る所を見られなければ、聞かれなくて済むものを・・・・・・・


 言い訳を考えなければならないが、こんなもん

「俺にも何が何だか」

で通すしか無いだろう。面倒くさいが仕方が無い。


 戻った後の対応はそれで行くとして、来た以上は確認しなければならない。

この中での時間経過がどうなるかなど気になる所はいくつもあるが、それを含めて確認が必要だ。

待たせてしまうだろうが仕方が無い。

待つのも待たせるのも嫌なんだが、最低でも使い方を確認しなければまた来る事も出来ない。


 編み上げ安全靴の紐を解いて靴を脱ぎ、小上がりを上がる。

ネットカフェのフラットシートのような造りになっていて、この上は土足禁止だと言われている。

上がると下は薄いマットが敷かれている。

左手は壁、右手はモニター画面。

モニター画面に何か点滅するモノが映っている。

つまりそれを確認しろと言う事だろう。


 モニター画面の前に胡坐をかいて座り、画面の下をまさぐってマウスとキーボードらしきモノを見つけて動かす。

 すると○の中に入った!?という点滅が消えた。

次にモニター画面に表示されたのは大量の日本語。

それを目で追っていくと、脳内に流れた機械音声が喋った内容と全く同じだった。


「・・・・・・必死に聞こうとした意味がねぇ」


 少なくともレイシュアさんが心配してくれた事は声色で分かった。

遮ってしまい申し訳ない。

確認出来るなら、ちゃんと説明して少し待ってもらえばよかったのに。くそがっ。



 一度大きく深呼吸をする。そして文字を追いながらスクロールしていくと最後にまた nextボタンがあった。



<< 購入可能店舗を決めてください >>


 nextボタンをクリックすると画面中央にこの文字が浮かび上がる。

そして崩れるように消え、中に虫眼鏡アイコンのような検索マークの入った枠が現れた。

その下はカテゴリー別にいくつかの選択肢が表示されている。


「前世日本の物を買えるって話だったが、何でも買える訳じゃねーのか。

買う店を決めて、その店が扱う品物だけが買える、か・・・・・・・

うっわー、すんごく微妙・・・・・・・

密林、テンラック・・・・・・うへぇ、ネットスーパー系は無しか」



 再度説明を読んで確認したが、この〝ルーム〟は自由に使える訳では無いらしい。


① 使用するには日本円が必要。

(但し今日から七日間はお試し期間。入室 + 最初の一時間だけが無料。一時間を超えると使用料金が掛かる)


② 入室する場所も設定する必要が有る。どこからでも入れる訳では無く、設定した条件に合う場所でしか入室出来ない。出る場所は必ず入った場所。

(現在の設定は四方十メートルに、壁などの障害物が無い空間になっている)


③ 現在日本円は、この空間でのみ使用できるようになっている。

(外で使用されている通貨とは全くの別物。両替は出来ない)


④ ホームは別時空にあり、送られた先の世界とも、地球とも全く別の空間。

元日本人は皆ミッション2をクリアーすれば使用できるようになるが、個別で互いに干渉は出来ない。


⑤ 購入出来る物は、決めた店舗で売られている品物のみ。

店舗の変更は不可。購入できるのは所持金額まで。

借金やつけ払い、後払いは不可。クレジットカードなども無し。

仮に所持金額上限まで購入しようとしても、ルームの使用料金が不足する場合は購入出来ない。

また商品購入後に時間経過で使用料金が掛かり、所持金額不足した場合は強制退出される。

その場合は「不足分 + 再使用料として前回と同額」を稼ぐまで、再度入室する事は出来ない。




「読んだ限りでは、だいたいこんな感じか。

元日本人だけが使える能力で、現地の人間には使えない。

便利だが使うのに日本円が必要。つまり日本円を稼ぐ = 魔物を殺さなければならない。

あぁ、ミッションでも貰えたから、それもか。来たら積極的に取り組む必要が有り、と。

その日本円はこの部屋のモニターの中にあって、定期的にここに入る必要がある」



 所持金額もスキル選択時と変わらず、モニター中央上部に小さく表示されていた。

現在の残高は千五百三十円也。


 俺の記憶よりも三十円多い。

千五百円はもらった記憶がある。あるがそれ以外に増えた通知を受けた記憶は無い。


 来る前の説明を思い出し、考える。

これまでの自分の行動を思い返し当てはめる。


 思い当ることが一つある。

ホーンラビットだ。三匹殺した。


 単純に考えれば一匹十円と言う事になる。

単純に考えなければレイシュアさんが三匹殺た所に居合わせている。

それを含めるなら六匹だ。この場合一匹五円になる。


「んー、またホーンラビットを殺してみれば分かるか。

周囲に誰もいない状況で俺が殺した場合。

ティルナノーグの三人の誰かにパーティに入ってもらって、俺が殺した場合とそうじゃない場合。

とりあえずこの三パターンだな」


 こちらの世界に送られてから結構な時間が経った為か、魔物を殺すのに戸惑いは一切感じなかった。

魔物を殺す前に人を殺してみようか、と真剣に考えた事が多分大きい。

必要なら邪魔者バカを消して、自分は生き残ろうと考えている自分がいる。

前世ではそこまで思った事が無い。

この世界で生きる覚悟は出来た。ならば後は稼ぐだけだ。


「魔物を殺してもいちいち通知されないのか。仕留めた頭数を数えておいて、後で差額を確認しないと入った金額が分からんな」


 今日はパーティは組んでいない。

組んでも、レベル差がある場合は公平設定が働かない、と昨晩教えてもらったからだ。

三人ともレベル100超えらしいので、やるだけ無駄だと思ったので試してすらいない。

自分のレベルをまだ知らないが、いきなりレベル100なんて状態から始めさせてはくれないだろう。


 単独の場合、誰かと組んだ場合、組んだ人数が増えた場合、公平設定が出来ない場合。

追々この辺は試さなきゃならないだろう。やることが多いよシステムさん。

相変わらず不親切だ。



「それでも、情報が入るようになったのは大きい。

あとは生きる能力を手に入れて、死なない立ち回りをする。無理はしない。

となると店選びはかなり重要だろう。これ次第で生活が劇的に変わる」



 元日本人が全員同じ条件だとすれば良い意味で〝個性〟が出る。

悪く考えれば〝同調圧力〟〝分担〟〝人任せ〟

他にも悪口ならいくらでも出てくる。


 仲間が選んだモノと同じモノを真似して選ぶ事が、必ずしも良い選択になるとは思えない。

 手分けしていくつかの種類を押さえても、仲間が永遠とは限らない。

 だが〝ルーム〟の情報が 〝店舗〟の情報が要る。 情報交換をする仲間が必要だ。


 どう考えても店の当たりはずれの確認をする必要がある。

前世の日本にあった店を使えるとは言っても、存在する全ての店を使った事がある訳がない。

知らない店よりは知っている店になる。

だがもっと良い店が他にあるかも知れない。


「あぁ達成後即強制で飛ばされたって事は、相談させない為の措置なのか」


 外で三人が待っている事をすっかり忘れて俺は、思考の沼へと沈んでいく。

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