第24話 一気に五倍
説明会の会場となっている訓練所に入ると、人でごった返していた。
訓練所の中は広く、随分人が入っているがまだまだ人数的には余裕がありそうだった。
入って直ぐに五人組の男女が目についた。
その中の一人が手を振ってくる。スズシロハルキだ。
「あの人たちがアキノさんと一緒に来た人たちですか?」
「んー、一人多くない無いですか?」
猫耳と垂れ犬耳の女子二人が気になったように、確かに一人多い。
「なんか増えてるね・・・・・・・あれ、あいつ」
増えているのは男性で、タカノに積極的に話しかけている。種族はおそらく
話しているタカノと目線が同じくらいなので百六十センチちょっとの背丈。
細身でタカノ・スズシロ両名と同じ魔法使い風の服装をしている。
「お知り合いですか?」
「アレも中学の同級生だね。なんでこう、微妙なのばっかり・・・・・・・」
運の無い事に大勢いた中学の同級生の中でもあまり一緒に行動したくない奴とばかり一緒になるようだ。
微妙な関係なだけの道明寺グループの四人と違い、こいつは関係が最悪だ。戦力にもならないだろうから要らないのに。
言いことはデカいのに、揉め事になるといつの間にかいなくなっている。
「へたれ」とか「口だけ」という言葉が良く似合う、そんな存在である。
どうやら『幸運』のスキルはまだ仕事をしてくれないらしい。
タカノの向こうで抽冬が面白くなさそうな顔をしているのがまた微妙な所だ。
抽冬にはざまぁと内心で告げておく。別に奴に同情する気にもならないし。
その抽冬をイラつかせている男がこちらに気づいた。
「おっ、モミジじゃん。お前もいたんじゃんか」
「うるせーよゴヘイ。他人行儀にアキノと呼べ。いや、名前を呼ぶな、むしろ話しかけてくんな」
「はっ、何おまえ、喧嘩売ってんの?」
俺に拒絶されたゴヘイは下から睨みつけながら左手の手のひらを右手で拳を作ってパシパシと殴りながら寄って来る。いわゆるメンチを切るって奴だな。
相変わらず、いや、大人になって若返ったからか、余計に酷くなっていそうだ。
「ちょっと止めなよモミジ。なんであんたたち男子はすぐそうやって喧嘩腰になるのよ」
「ゴヘイが話しかけてくるからだろうが。あとお前もモミジって呼ぶな。他人行儀にアキノと呼べって言ってるだろ」
「話しかけてくるからってあんた・・・・・・ どんだけ五瓶の事嫌いなのよ」
タカノの言葉にフンと横を向くと「キャノン~」と甘えたようなゴヘイの声が聞こえる。
強気なのは抽冬がいるからなのかと思っていたが、どうやらタカノの方に期待していたらしい。
『五瓶
一人だと大人しい癖に周囲に誰かいる、といわゆるイキがった行動を取るタイプの口だけ男だ。
とは言っても誰でも彼でもに偉そうに振るまうのではなく、こいつは相手を見て態度を変える。
例えば口より先に手が出るような本当のヤンキー相手にはこんな口を聞かずペコペコしている。
対して俺のように人前で暴力を振るう事に躊躇するタイプには誰かといると強気に出て来る。
代わりに自分一人の時には絶対に近づいて来ない。そんな奴だ。
今もタカノ及び他三人の計四人が傍にいたから人を見下すような態度で接して来ていたのだろう。
一人だったらスルーか、もっと卑屈だったんじゃないかと思う。
昔からそんな奴だった事を俺はよく知っている。
タカノたち四人と違い、こいつとは小学校中学年とずっと一緒だった。
だからこそ嫌悪感が先に立つ。いや、嫌悪感しかない。
「へへへっ、モーミージ。聞いたぞ。お前影魔法を取ったんだって」
「・・・・・・・お前それ、誰に聞いた? ってそこの四人しかいないか」
どうやら遅れて来た間に、俺の情報はただ漏れだったらしい。
これだから他人は。信用ならない。
口の軽い四人組だことで。
「はっ、かっこつけてんじゃねーよ。やってることは中二病じゃねーか、ケケケ。
人に言われて恥ずかしいモノ選んでるんじゃねーよバーカ。しかも使えなかったとか、マジで頭悪いなお前。みんな呆れてたぜ」
「ちょっと、別に呆れてるなんて誰も言ってないでしょ」
「そうだ。勝手に話しを作るな」
「気にすることないじゃんかキャノン~。言わなくてもさ、おれちゃんにはお前らが、アキノの間抜けさ加減に呆れたのは充分伝わってきたんじゃんか。言いにくいだろうからよっ、おれちゃんが代わりに言ってやったんじゃんか」
ゴヘイの言葉をタカノ抽冬のカップルが否定する。
多分タカノたちの言葉が正しいのだろう。昔から変わらない。
こいつは一緒にいる人間の言葉を勝手に使って、人を馬鹿にするような奴だ。
だが今はそれが都合が良い。
「ふーん、呆れてたのね。そう、別にそれならそれで構わないけど」
「強がるなって。お前はスキル選びをミスっちゃったんだって。認めろよな。
ケケケっ、おれちゃんたちみんな、せっかくチートをもらったのに馬鹿な奴じゃーん。よりによって外れスキルを選んだんじゃーん、クケケケッ、モミジは馬鹿で間抜けの駄目な奴ー」
どうやら五瓶は俺を下げたいらしい。
奴は常に見下し対象を求めている。自分が一番下にならないようにな。
道明寺組四人の結束が固いのは同級生なら皆知っている。
抽冬と俺が揉めたことがある事もそれなりに知られているだろう。
この面子で孤立させるなら俺がベストだろう。何しろ既に勝手に孤立しつつある。
「はっ、好きに言ってろよ」
「ケケケ強がってる、強がってる。笑えるじゃーん。
まぁどうせお前はたいして活躍出来ないんじゃん? けど、おれちゃんの言う事を聞いてさえいればそれなりに生活できるようにしてやっても良いじゃん、おれちゃんに、逆らわな・け・れ・ば!!」
「何言ってるのこいつ?」
「それなんだけど」
困った顔のスズシロハルキが道明寺菜桜を引き連れて寄って来る。
別に近くに来なくても良いんだけどね? 頬を掻いているのは気まずさからか。
「ごめん、日本人同士協力したいって言われて。悪い話じゃないと思ったからコウの事も話しちゃったんだ」
どうやら俺の事を話したのは犯人はスズシロハルキだったらしい。
なるほどね。今後あなたの前では、手の内を明かすのは避けることにしますね。
「もうその件は良いですよ。今更文句言っても仕方が無いし。で、日本人同士協力と言うのは?」
許すとは言ってない。
なので道明寺菜桜に向きを変える。
口の軽い奴は嫌いだよ。男でも女でも、な。
「それが、彼。一人じゃなくて五人で集まってここに来たみたいなの。それだけじゃなくて他にも私たちと同じような感じでここに来たグループが二組あるのよ。つまり日本人が二十人いた、って事になるかしら」
「ふむ、ってことは合計で二十五人って事ですね。俺も冒険者ギルドのロビーで一組会って、一緒にここに来た五人がいたんで」
後ろに来ていたブレザー学生服の五人を背中越しに親指を指して示す。
後ろにいるので見えないが、何人かがペコっと頭を下げたのが分かった。
俺たち五人。
ブレザー学生服組。
五瓶がいたグループ。
さらに別に二組。
そんな中で爆乳バニー魔法使いのカイ・チアキが「あつ」と言った声が聞こえた。
はっきり聞き取れなかったが、「※※ちゃん」 という名前のような呟きから察するに、知り合いでもいたのだろう。
だが彼女が行動を移すその前に、訓練所の中に大きな鐘の音が鳴り響いた。
鐘の音と同時に数人の冒険者ギルド職員が入り口から入って来るのが見える。
残念でした。説明会が始まるようだよ。
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