第15話 四人組④
俺の遠回しな嫌味はしっかり抽冬に刺さったようで、何とも微妙な表情をしていた。
体型なんてこれからの行動次第でいくらでも変わるだろう、気にしても仕方がないけどな。
若いころの抽冬が今よりスマートだったように、大人になった俺は筋肉が付いている。
多分他の三人だって俺が分からないだけで、微妙に昔とは体型が変わっている筈だ。
そしてこれから魔物と戦う以上、必然的に肉体を酷使するんだから、食べすぎなければ自然と瘦せていくだろう。
それ以上を求めるならば、それはこれからの意識次第だ。
身体を酷使したからって痩せるとは限らないしな。動いた以上にカロリーを取れば、太るのが人間ってモノ。
「んで、抽冬は納得したのかな?」
「何をだ?」
「俺がミッション1で指定されている冒険者ギルドって所まで一緒に行く事」
「それに関しては好きにしろと俺は言っている。人数制限があって入れない所があったと言ったのはコ、秋野だろうが」
そこまでは理解しているらしい。入れない所があったという事は、五人揃ったらもう入れないのだろう。この部屋は五人揃ったからもう追加は来ないだろう。だから指示の通りに動くしかないのだ。
「んじゃ、そこまではよろしく」と言うと、「あぁよろしくな」と素直に返って来た。
問題は他の三人、いや二人か。道明寺さんの許可は得た。
多分スズシロくんは道明寺さんに、自然に尻に敷かれている感じだから問題無いだろう。
問題はタカノかな。こいつらどっちのカップルも女子の方が強いんだよ。
特に抽冬・タカノカップルは抽冬がベタ惚れだった。タカノと他の男子が話していると抽冬がヤキモチ焼いてウザいのだ。だから俺はタカノは苦手だった。
「あたしはまだ納得している訳じゃないから」
チラっとタカノの方を見るとそう言われた。そんな事言われてもなって感じだけれどもね。
タカノに惚れている抽冬が、タカノの言う事を聞くのは分かる。けど別にタカノに興味のない俺が、タカノの言う事を聞く筋合いは無い。
「ところでコウくん、装備品は三個だけだったのかしら?」
「んー、額当て、鎖帷子、短剣で、あと革袋と羊皮紙だから五個じゃないですか?」
「革袋と羊皮紙はみんな同じ物を持っていたのよね。だけど身体に身につける物は違ってこそいるのだけど、四個あったのよ。コウくんだけ少なくないかしら?」
「あー、そう言えばそうね。あたしたちは四個だったね。ほらコレ」
そう言ってタカノがコートの袖を捲って腕輪を見せてくれた。「僕も」と言ってスズシロくんも同じ物を見せる。
続いて道明寺さんが胸元を指さして十字架のアクセサリーを見せてくる。
ロザリオとか言うんだっけか? それ。
見せられた品物よりもさ。胸のデカい人に胸元を強調されると、ちょっとね。視線を引きはがすのに苦労する。
そんな三人の動きをよそに抽冬は無反応だ。会話に混じる気は無いのだろう。
だがさっきの感じだと、耳だけは傾けている感じかな。話を把握しているなら別に良い。
見せてくれなくても抽冬の装備は全部見えている。さっきも確認したが頭と体に皮の防具、剣と盾で四つだ。
つまり俺以外は全員四個の装備をもらえたのか。
すわ差別だ! と騒ぎたい所だが心当たりがあり過ぎる。
俺初心者向け装備のセット、値下げしてもらって買ってるからな~。
この件、下手に突っ込む方が悪手だろう。なんで値下げしたのかとか説明したくない。素養を全部持って行けるとか教えたくない。余計離れてくれない可能性が出て来る。
「ん~、んん~~。ま、しゃーないかな」
「軽いわね、モ、じゃなかった、あんたって。良いの? それで」
一応タカノは意識しているらしい。さっきは言いすぎだろって思う人もいるかも知れないが中学三年生の時にも四、五回言っているから問題ない。
一時は意識するだろうが、何日かしたら忘れてまたモミジモミジ呼んでくる。そーゆー奴だった。だからこそ言う必要があるのだが。
「考えても仕方がないしねぇ? 無い物は無いんだろうし。分からんもんは分からん。此処で悩んでても分からないだろうしさ、それより早く行こうよ」
「そうね、まぁ向かいながら喋ればいっか。モミ、秋野。あんたには色々聞きたい事があるんだからね」
「これどうやって動くのかな?」
「ちょっと待った」
何年も会ってなかったんだからと意気込むタカノ。
魔法陣を並んで眺めているスズシロ・道明寺カップル。
うへぇって顔をしないようにポーカーフェイスを作りながら視線を合わせないようにしていた俺に向かって抽冬が言った。
「秋野が冒険者ギルドという所まで行く事に文句を付けるつもりは無い。だけど秋野が仕切るのは別だ。それは断固拒否する」
「仕切るって、『早く行こう』って言った事か? それも駄目なん? って事は黙って着いて来いって意味だな?」
抽冬は答えない。
沈黙はイエスと取るぜ?
最も俺の問いに答えないのは他の三人に責められているからだけど。
「シュウ、それはちょっと」とか「シュウくん言いすぎだわ」とか「抽冬、最低」と言われてやんの。
それにしてもタカノはやっぱ完全に
それとも離婚したのだろうか? それなら別姓で呼ぶ事も理解出来る。別に興味ないから聞かないけど。
「別にいいよ、黙って着いて行こう」
「え? モミ、秋野それで良いの?」
「元々意見を言うつもりはなかったし、構わないよ」
脱線したり別方向に行かなければ、だけど。
こいつらがズレた事をし始めたら、冒険者ギルドに勝手に先行ってるけどな。待ってて五人で登録すれば多分問題無いだろう。
「なんか納得いかない。あんたそれで良い訳?」
「別に良いって。冒険者ギルドまでだけどな」
「コウ、せっかく再会したのに僕はそんな付き合いはしたくないよ」
「そんな事言われてもな。正直何年も会ってない仲良し四人組の中に入って、俺が意見行っても和を乱すだけじゃん。真っすぐ冒険者ギルドに向かってくれれば素直に着いていくよ。だから早く終わらせよう」
何年も会っていないだけでも微妙なのに、あちらはずっと四人で過ごして来たんだ。気心も知れている。そこに飛び込んで上手くやれるとは思えない。
だが上手くはやれる方法ならある。
黙って着いていく事だ。だからそれを選ぼう。
そうでなければよっぽど気が合う必要がある。俺は過去に揉めているのだ。絶対に無理だ。
ならば適切な距離を取り、深く踏み込まなければ良い。
「仮にだけど、俺とそっちの誰かと別の意見が出たとする。他三人は特に意見が無い。じゃーどうやって決める?」
「それは平等に多数決でいいじゃん。五人いれば絶対に決まるでしょ」
タカノの多数決という意見に他の三人も頷いている。俺もそれが無難だとは思う。
「そんなの絶対、俺の意見が通る訳ないじゃん」
今まで四人でやって来たという事は、それが好き。もしくは楽、ちがうな。四人で過ごすのが安定した時間なんだろう。他の人間が紛れ込むのは違和感がある筈。
俺のやり方でやろう、それに従うよ。なんて思うはずがない。
仮に二度か三度は通っても、最終的には封殺されるようになるだろう。それは目に見えている。
だから一緒に行動するなんて御免だ。
「そんなの分かんないじゃん。だったらあたしはモミ、秋野の意見を支持するって約束するよ。それなら良いでしょ」
「良い訳あるかバカ」
本末転倒である。当然タカノが俺に付くと抽冬も付いてくる、なんてことはなくすっごく不満そうな顔をしております。こうゆう所が面倒くさいのだよこの集団は。
「カノちゃんそれはちょっと」
「秋野、カノを馬鹿って言うな。謝れ」
「うるせーよ大馬鹿。仕切るなっていうから黙って着いていくって言ってんだから噛みついてくんじゃねーっての」
その後あーだこーだと言い合いになったが、道明寺さんが纏めに入り、とりあえず冒険者ギルドに向かう事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます