第14話 四人組③
俺の言葉に道明寺さんは難しい顔をして押し黙り、タカノとスズシロくんには「どうしてよっ」「何故だ」と声をあげて問い詰められた。
そんな事言われたってね。
「壁に書いてあるのはミッション1まで一緒にやれって話だろ。その後も一緒にいなきゃいけないとは書かれていない」
「別にそう書かれてたからって、その後一緒に行動するのは自由でしょ! せっかく十何年ぶりに会えたっのにっ! 何なの、モミジは一緒に行動したくない訳?」
「当たり前だろ。その呼び方止めろって何回も言ってるじゃねーか。俺は〝コウヨウ〟であって〝モミジ〟なんて名前じゃねーよ。なのにそう呼んでくるお前と一緒にいたいわけねーだろ」
一番の理由では無いが、タカノと一緒にいたくないのも確かだ。
そしてタカノの当時の相手で、今も一緒にいるんだろうからそっちも結婚しているんだろう、最後の一人と俺は中学三年生の時、そして高校三年生の時と二度揉めている。
そんな相手の仲良しグループに混ぜてもらって行動するなんて死んでも御免だ。
いや、死んだからこそ絶対御免である。
新しい人生を後悔なく生きる、そう老婆の女神に誓ったのだから。
「そんなっ、別に良いでしょ友達なんだから。親しみを込めているただの愛称じゃん、また昔みたいに過ごしたいからそう呼んだだけで・・・・・・」
「何年も会ってないのに友達な訳ないだろうが。大体抽冬と俺との話、知らないとは言わせない」
「それは・・・・・・・知ってるけどさ」
名指しで呼んだ最後の一人、抽冬は舌打ちをし、タカノ・スズシロは共に困ったように下を向いた。道明寺さんだけが変わらず難しい顔をしているが、顔を伏せる事なくこちらを見て言った。
「あらコウくん、だからこそみんなそこには触れないようにしてたのよ?」
「死んだ今更、蒸し返しても仕方がないと俺も思ってますよ。だからって全部忘れて無かった事にはならないでしょうが」
そう考えていなければ殴りかかってたかも知れない。
十年なんて過ぎてしまえば早かったと思えるが、過ごしている間は途轍もなく長い。
嫌な思い出こそ完全に忘れる事は難しく、ふとしたタイミングで思い出してしまう。抽冬との事は何度も思い出して、苦しんだ。
最も死ぬ前も恨んではいたが、働きに出たら軽々しく暴力なんて振るえない。だから多少は飲み込んで、忘れて過ごしていた部分はある。
「まぁなんだ。再会したからって一緒に過ごしたいと、思わないのは理解して欲しい」
俺と抽冬が
あっちの四人の関係は今見ての通り、変わっていない。
先述の通り道明寺さんの祖父は県会議員で、スズシロくんの家は地元の誇る優良企業。
その長女と長男である二人は結婚する間柄。
抽冬の母親はその県会議員の後援会の幹部だった。
抽冬の父親は現社長であり、鈴代春樹の父親の後輩で会社では側近だそうだ。
そんな話は中学三年生の当時は知らなかった。
高校三年生の時にもう一度揉め、俺だけ処分された時に聞かされた話だ。
「もう良いじゃないか。一緒に来たくないって言うならそれで」
そう言ったのは揉めた当人、〝抽冬 柊一〟で『ヌクトウ シュウイチ』だ。
鈴代春樹と同じくバスケ部で、彼の親友とかそんな感じのポジションだ。
最も今の発言はよろしくなかったようで、他三人は微妙な視線を送っているが。
こっちの三人はまだそこまで割り切ってないらしい。
「そうそう、システムが指示しているミッション1まで同行させてくれ。それ以降はその時に、各自で判断で良いじゃん。自分の事は自分で決めさせてくれ」
「勝手にしろ。それにしても・・・・・・今は、違うか。死ぬまでは何の仕事をしていたんだ? 中学を卒業してからのお前は、碌な噂を聞いた事がないぞ。
その恰好、見た所肉体労働か何かか? もっとまともな職には就けなかったのか? 同級生として嘆かわしい」
「ちょっと抽冬、そんな言い方しなくても良いでしょ。モミジだって、あっ、いやえーっと秋野だって、色々さ」
抽冬は俺の作業服が気に入らないらしい。あちらの四人は全員上に羽織る服をもらっているが、俺だけは鎖帷子なのでインナーだった。作業服の下に着ている。
正確には作業服の下に吸水速乾Tシャツを着ていて、その上に挟み込まれたようだが、一番上は長袖の作業服だ。
俺の勤めていた会社は作業用のジャンパーのみ支給で、他の服は自分で用意する規則だった。
死んだあの日は大変な作業の現場だった事もあって、持っている作業服の中でも厚めで補強が多く、その分値段が高い作業服を着ていた。なので同じく靴も編み込みの安全靴を履いていた。
作業服は戦闘服。気合いが必要な作業日ほどゴツく高い服を選ぶのが俺の流儀。
そんな日に死んだのは何の因果だが知らないけど。
対しあちらの四人は完全に私服だ。死んだのは土曜日だったし、きっと完全週休二日制の立派な会社に勤めていたのだろう。お休みで出掛けてたのかね。
俺に取って土曜日なんてサンデードライバーが増えて道が混むだけの日でしかなかったよ。
それにしてもこの態度。腹が立つ。
「相変わらず人の噂だの、見た目だのが気になるのか、小さい奴だ」
「小さいのはどっちだ? あんな事はもう、十年以上前の話だろうが。それをいつまでもネチネチとしつこい奴だ」
「お前は親に泣き付いて終わりで良いだろうが、こっちは忘れられないんだよ。このマザコン野郎が!」
「はぁ? 誰がマザコンだ!?」「ストーップ! はいハルくん、シュウくんをそっち連れてってね。カノはシュウくんを落ち着かせる。コウくんも少し落ち着こうかしら、ね?」
我ながらつい感情的になってしまい、ガキの喧嘩みたいになった。情けないなとは思いつつ、だが因縁の抽冬の前に立つと押さえられない感情が沸きだして来てしまった。
心の中では此処で揉めるのは得策ではない、と思いつつも気づけば勝手に口から出ていた。その事をちょっと後悔していた所を道明寺さんが割って入って来てくれた。
彼女の言葉通り、二人は抽冬を少し離れた所に連れて行き声を掛けている。抑えてくれる人がいて結構です事。
「ごめん、大丈夫。落ち着いた。落ち着きました。
でも見ての通りまだ割り切れてないから、一緒には行動しないほうが良いでしょうね」
「残念だけど・・・・・・そうみたいね。出来ればコウくんと一緒にやりたかったわ。
でも昔みたいに、とまでは言わないけれどミッション1が終わるまでは、いえ、終わってからもなるべく普通に話せないかしら? 出来れば情報交換とかもしたいわ」
ありがたい申し出だと素直に思う。
だがまた同じ喧嘩をするのは目に見えている。なるべく近づかない方が良い。
とはいえ険悪なまま二度目の人生を過ごすのもどうかとは思う。
仲直りをする必要など無いが、折角知り合いと会ったんだから建設的な関係ではあった方が良いと思う。
でもやっぱちょっと悔しい。なんかこっちだけやられっぱなしの気分ではある。
ちょっとだけ、地味にやり返しておくか。
「勿論、喜んで。そうしてもらえると助かりますよ。そう言えば確認してなかったけど、お互い死んだって認識で良いんですかね?」
「そうね。コウくんもよね? あまり思い出したくないけれど四人で出掛けた帰りに車の事故だったわ」
どうやら向こうも車に乗っていて事故ったらしい。
んー、まさかとは思うけどこっちの車が原因じゃないよな?
と、思ってしまうくらい死んだ時にこちらの車の運転をしていた後輩くんの運転は荒かった。
彼は荒い運転を上手いと思っている、若いヤツにたまにいるタイプだった。自分は運転が上手いと勘違いしているから、他人の注意をキチンと受け止めなかった。それを放置したのがこの結果だ。
この話題は長く続けない方が良いだろう。
「俺は向こうに行ったら十五歳からって言われでるんですけど、そこも同じでしたか?」
「そうね、そう言われたわね。でもコウくんが来るまで話していたのだけれど、昔と色々違う所があるわね、と話していたのよ。コウくんはどう思うかしら?」
ふむ。やはり選択肢を選ぶ時間が少ないと持っている情報も少ないようだ。
小出しにはするが、多少の情報提供をして信用度は上げておいた方が良いだろう。いきなり四人も敵を作る必要はない。
「十五歳まで時間を巻き戻された訳では無く、細胞だけ若返らせたんだと言ってましたよ」
「あら? それは・・・・・・もしかしたら貴重な情報じゃないかしら、教えてくれて嬉しいわ」
なんて会話を白々しく道明寺さんとする。というのも二人に落ち着かせていた抽冬が声が聞こえるだろう距離に寄って来ていたからだ。
俺の視線に道明寺さんも気づいている。何が言いたいかは分かるだろう。
久しぶりに会った抽冬は、若いころとは体型が変わっている。
奴もスズシロくんも中学時代はバスケ部だった。女子二人も同じだ。
高校行ってからやってたかどうかは知らないが、バスケットボールは走りっぱなしのスポーツだ。
部活をやってた頃と同じ調子で大人になってからも食べていたのだろう。
前衛と言うかタンクって呼び方がお似合いの体型になってやがる。
はっはっは、人の服装や職業よりも自分の体型を嘆きやがれ。
なんて言わないが、ささやかな
情報を流したんだから文句は言え無い筈。
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