第13話 四人組②


 お婆ちゃんの女神と話をし、俺は異世界に送られた。


筈だったのだが何故かどこかの室内に送られ、そこで中学の同級生と再会してしまった。


「モミジ久しぶり! 元気だった!? ってそれはおかしいか。でもこんな所で会えるなんて」

「ちょっ、ちょっと待った! すまん、確かに久しぶりなんだけど、ちょっと、いや、かなり混乱してる!

悪いが、挨拶の前に現状を確認させてくれ!」


 こちらに近づこうと寄って来ようとしたタカノを手の動きで制し声を掛ける。すまんが本当に意味が分からんのだよ。

満室とか言ってたから誰かいるとは思ってたけどさ。


「あー、まぁそうだよね。カノ、僕が説明するよ。コウ、久しぶり。僕の事分かる?」


「うん、ハル、あー」


 つい気恥ずかしさから後頭部を掻いてしまう。

意味が分からない、が、それ以上に過剰に反応した自分が少し恥ずかしかった。

うっかり名前で呼びそうになったが、もうとっくにそんな関係でも無い。

そんな恥ずかしさを自覚して少し冷静にもなった。


「さっきは行き成りでパニックになって申し訳ない。ハル、じゃなかったスズシロくん、だよね? 鈴代春樹くん、バスケ部だった」


「うんうん、昔みたいにハルで良いって」


 そう言ってスズシロくんは手を差し出して来た。外人か?

仕方がないので握ったが、なんだかとても気まずい。


 彼は『鈴代 春樹』で〝スズシロ ハルキ〟と読む。

目の前の四人は全員中学三年生の時のクラスメイトだが、彼はその時の級長だった男だ。

タカノでは無いほうの女子の彼氏で、中学三年生の時は結構仲良くしていた。

その縁で女子ともそれなりに親しかった感じだ。


「コウ、先ずはこっちに来て欲しい」


 そう言って促されたのは、部屋の反対側だった。

開けた場所の地面には黒字で書かれた何らかの魔法陣が有り、その先の壁には同じく黒字で文字が書いてあった。 壁には


『この先へは五人揃わなければ進めない。ミッション1は必ず五人で行う事。五人揃えば魔法陣で移動できる』


 と書いてある。


「って事は各選択肢五人までだったのか」


「あらっ、コウくん。それは一体何の話かしら?」


「・・・・・・ご機嫌麗しゅう、道明寺さん。お元気そうで何よりです」


「ウフフ、しばらく会わないうちにコウくんは変わったのかしら? 昔はそんな話しかたをしなかったじゃない」


 それはきっとどう接して良いか分からないからだろう。

今もどう接していいか迷っている。何が正解なんだか。


 次に声を掛けて来た彼女はスズシロくんの彼女だった人。多分今もかな?

結婚したのかな? 別に聞きたくも無いし興味もないが。

『道明寺 菜桜』という字だったような記憶だ。それで〝ドウミョウジ ナオ〟と読む。


 彼女はクラス1若しくは学校1と言われていたような美少女で、胸もデカく男子に人気があったお人だ。

俺同様、彼女らも皆若くなっているようなので、人気のあったあの頃のような可憐な容姿でそこにいる。


 正直あまり話したくない人だ。

タカノもそうだが友達・・・・・・ではもうないだろうが、知り合いの恋人と上手に接していくというのは本当に難しい。

 俺に出来る事は必要以上に接しない事だろう。

なのだがこのダブルカップル、女の方がフレンドリーなんだよ。

出来ればハル、いやスズシロくんとだけ会話して終わりたいんだが。

この場合は仕方がないか。


「此処に来る前に番号から選びませんでした? 俺が選んだ時はいくつか入れない番号があったんですよ」


「あら、そうだったの? じゃー私たちは結構早めに選んだのかしら?

四人で同じところに入れたんだものね。でも実はもうここで四時間ほど待ってるのよ。あと私の事もナオでいいし、昔みたいに普通に話して欲しいわ」


 俺はあんまり彼女に関わりたくないんだけどね。

昔は友人の彼女だからあまり関与したくなかった、という理由が大きかったが。

今はそれ以上に、彼女らとは生まれも育ちも違う事を痛感しているので、面倒くさいので関わりたくない。


 彼女の生家道明寺家は祖父が県議、親戚にも市議員がいるような家だ。

いわゆる箱入りのお嬢様である。


 この四人とは小学校が別だったので、中学三年生になるまで殆ど接点が無かった。それでも中学三年生になった時にはカップルだと知っていた。

それくらい校内で有名な存在だったが、家の事情までは知らなかった。

金持ちだろう、くらいは聞いていた。だが出身の小学校が違うから、細かい所までは分からなかった。


 そんな道明寺さんはスズシロくんと幼馴染で、そのままカップルになっている関係。

という事はだ。当然対になる鈴代春樹もそれなりの家格な訳で。

中学生くらいだとあまり意識しなかったが、大人になったら考えてしまう訳で。


 彼の実家の鈴代家は地元では知らない者がいない企業、株式会社スズシロを経営しており、彼はそこの長男だ。順当に行けば次期社長候補筆頭だっただろう。

過去形なのはまぁ、此処にいるって事はね。


「兎も角これで五人揃った。先に進めるって感じか。それじゃミッション1が終わるまではお願いできるかな?」


「そうだね、宜しく頼むよコウ」


 スズシロハルキが良い笑顔で微笑んでくる。名前で呼んで欲しくないんだけどなぁ。

さらに言えば名前を変形させて呼んで欲しくない。おめーだよタカノ。


「コウくんはのはそれ兜、じゃなくて額当てって言うのだったかしら? 私たちとは別で、新しい発見ね。どんなスキルを買ったのか聞いてもいいかしら?」


 何て言おうか考えていると道明寺さんに声を掛けられた。額当てってなんじゃらほい?

意味が分からなかったが、ひたいに当てると書いて額当てなので頭に付ける物だろう。

なので頭を触って確認してみると、何かが巻かれていた。

 あまりにも自然に装着しているので全く気が付かなったが、これは死ぬ前には着けていなかったモノだ。


「んー。ちょっと待ってもらっていいですかね、道明寺さん。えーっと・・・・・・・」


 そう言って一度外して確認し、また額当てを頭にまき直した。次に他に異変が無いか全身を確認する。すると何か所か違いがある事に気づく。


「ウフフ、ナオで良いのに。それは短剣・・・・・・と、金属で編まれたインナーかしら? 鎖かたびらっていうんだったかしら?」


「ですかね。他はポケットの中にあった革袋と皮の紙? 羊皮紙って言うんですっけ? だけかな。

あと名前呼びは堪忍してください。働きだしてから他人ひとの名前を呼ぶときはずっと苗字にさん付けかくん付けだったので急に変えるのは難しいです」


 確認した所、俺の記憶に無く身に付けていた物は

〝額当て〟

〝鎖帷子〟

〝短剣〟

〝革袋〟

〝羊皮紙〟


の五つだった。おそらくはこれが〝初心者向け装備セット〟だろう。


 確かに俺と他の四人と違うようだ。

道明寺さんは十字架の付いた頭装備に身体装備。それにロッドと言うのだろうか、杖のようでちょっと違うモノを持っている。

 この装いは聖職者って感じに見える。

という事は、回復役っぽいスキル取りだろうか?

俺は即効性を求めたので興味を惹かれなかったが、それっぽいスキルはリストに確かにあった。


 そしてタカノとスズシロくんは装備品が被っているようだ。

どちらもつばの広い帽子に、それに色を合わせたようなコート。

それに杖を持っている。こっちの二人の持っているものが杖と言った感じなので道明寺さんの方をロッドと呼んだ。


 で、もう一人の男が俺と因縁の男。

そいつが皮で出来た兜みたいなのと皮の身体防具、鎧をしている。それと腰に剣、逆手に皮張りの盾を持っている。


 こいつが前衛、道明寺さんが支援回復、残る二人が後衛って役割だろうか。

戦士、僧侶、魔法使い、魔法使いって感じだ。

確かに俺とは全く共通点が無いな。


「えー、それは寂しいんじゃないかしら。でもね、今は鈴代菜桜なのよね。出来れば名前で呼んで欲しいわ」


「それはそれはおめでとうございます。でも、慣れるまでは許して欲しい」


 一通り身に着けている物を眺めていると、やはり結婚はしていたらしい。聞いていないのに聞かされてしまった。そんな事言われても此処じゃお祝いも渡せない。

そもそもお互い死んだ身だよな、多分。

となると結婚とかはどうなるんだろう? 一度解消? 向こうでまたやり直しか?


「結婚式に出来れば中学の時の友達も呼びたかったんだけど・・・・・・家の関係者がどうしても多くてさ」


 なんてスズシロくんが言ってきたがスルーで良いだろう。

正直呼ばれても困るのだ。

中学卒業以来付き合いの無い人間の結婚式に呼ばれても、ね。

呼ぶ人が他にいなかったのかな? なんて変な想像しちゃうじゃんか。

ひょっとして御祝儀回収の為の人数合わせかな? とかさ、変な勘繰りをしてしまうじゃないか。

 そもそも上流階級の結婚式なんて御祝儀の額が違うだろうし。

一般市民、それも安月給の貧乏人を呼ぶんじゃねーよって話だ。


「気にしないでよ、結婚が家と家を結びつける行事なんて事は分かってるよ。

それより俺の確認は済んだよ。冒険者ギルドとやらに行きましょう」


「ちょっと待って。コウくん、先に買ったスキルを教えてもらえないかしら。中学生の時、コウくんとは結構ゲームの話をしたわよね? だから多分見て察すると思うけど私は回復と支援を重視ししてスキルを取っているわ。この先みんなを支援する為に把握しておきたいの」


 そう言えば一見お嬢さまっぽい道明寺菜桜だが、ゲームとかもしていたっけ。

あー、思い出した。

良く話した、っていうより流行りのゲームの話を男の同級生と話していると、彼女が勝手に混ざってくる、って感じだったな。

 当時はスズシロくんとの関係のカモフラージュだと思っていたっけか。

そこのカップルは有名だっただけに周囲からの冷やかしも多々あっただろう。だから周囲に、彼氏以外の男とも話す所を見せる為にやっているだけだと思っていた。

マジでゲームやってる人だったのか。


「スキルとかってなんかゲームっぽいなって話になってさ。僕とシュウはあまりゲームとかしないから」


 シュウって誰だっけ? あぁ最後の一人のあいつか。そういや一言も話さないなあいつ。

立場が逆でも俺でも一言も発しないだろうけど。お互いすごく気まずい。そう、いまだに目も合わせないくらいには。


 なのに何で他の三人は普通に話しかけて来るのか。理解出来ない。

状況的に助かるけどね。最低限の話はしなければならないし。

それにしてもあいつもゲームとかしない人なのか。別にどうでも良いな。


「でもほら、スキルを選ぶ時間が三十分しかなかったでしょ? だからあたしたちはナオに役割を割り振ってもらって、それでスキルを買ったのよ。だからモミジの買ったスキルも聞いておかないとね」


 何がだからなのかが分からないが?

というかサラッと凄い事言われた気がする。

〝スキルを選ぶ時間が三十分しかなかった〟だと?


 もしかしなくても俺の五時間って長かったのか。

そういえば四時間以上待ってるとか言ってたっけ。

これは・・・・・・何も言わない方が良さげだ。

というか他に言うべきことがある。


「いや、買ったスキルを教える必要はなくない?」


「なんで? 聞いとかないと後で困るじゃん」


 困らないだろうに。つーか俺は装備品で何となく察しがついてるし。


「なんで? 冒険者ギルドに行くまでの話だろ?」


「えっ?」


 三人が驚いた顔をした。あれ? こいつら本気で言ってたの?

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