第43話 異世界水道局


 手早く解体を済ませたいとはやる気持ちを抑え、丁寧を心がけて解体を行いクレアさんの空間収納の入れてもらう。

空間収納が出来る人がいるのに、カゴを取りに行くのもバカらしい。なので今日も冒険者ギルドには行ってすらいない。なので背負いカゴは無い。

ちなみに買った塩とか胡椒も彼女の空間収納の中だ。取り上げられた。


 と言うのは嘘だ。普通に預かってもらっている。

日本製とはいえ瓶で割れ物だ。持って歩くのは怖いのでしまっておいてもらっている。

 もうそれなりに信頼しているし、最悪本当に取り上げられたとしてもどちらも100円だ。

ホーンラビットを十匹狩れば買い直せる。

その場合少しだけ今後の予定が変わる、それだけの話。



「ではちょっと行ってみます」


 挨拶をして『ルーム』に入る。

中は昨日出た時と全く変わっていない。

小上がりで靴を脱いでモニター画面へ向かう。

入ると同時に無料時間のカウントダウンが始まるので急げ急げ。

さてゴブリンはいくらかな?



<< プレイヤー・アキノコウヨウ のレベルアップを確認しました  >>

<< レベル2が解放された事により、契約店舗に『異世界水道局』が追加されました。

『上下水道』が契約出来ます。

契約した場合は、プレイヤー特典として『ルーム』内に『ユニットバス』が設置されます>>



<<  『異世界水道局』と契約しますか?      yes / no    >>



 ・・・・・・何か追加されてたよ?

異世界水道局????

こんなもん拒否する選択肢があるわけねーじゃんか。


「yes と。おっと説明文があるのか、え~~と。

ふむふむ。基本料金は毎月千円、プラス使用した分の料金が月末最終日に引き落とし、と。

引落しが出来なかった場合は、その分を稼ぐまで『ルーム』に入室出来なくなる、か。

まぁ魔物と戦わせたい訳だし、そうなるわな」


 ゴゴゴゴゴゴゴ


 クリックし浮かんできた説明文を読んでいると、左手方向で響くような音がした。

読み終わってからそちらを振り向く。

すると、それまで確かにそこにあった壁がなくなっていた。

壁が消え、変わりに1メートル四方の床間が出来ていた。その先には一段上がって折戸のドアが一枚増えていた。


「一瞬かよ、無駄に凄い。水場との間が一段上がって区切られているのが有難い」


 でないと水が流れてきちゃうからね、なんて思いながら扉を開けてみる。

扉の向こうにはトイレと風呂が一室内に併設され、真ん中に小さな洗面台の付いたバスルームがあった。


「古いビジネスホテルのシングルルームみたいだな。たまの出張とかになら良いけどさ、俺はトイレ風呂は別が良い派」


 そんな事言ってもシステムさんには通じないだろうが。

それでも風呂もトイレも使えるようになるのは非常に有難い。

この数日間、辛かったツートップだ。


「そりゃあれば日本人はみんなここを使うだろう。だが、七日が過ぎるとその度に入室料金が掛かるようになる。

それでも無料期間の間に使った快適さは忘れられない。

金が掛かってでも使用するだろう。俺だってそうする」


 快適さを求めて魔物と積極的に戦うようになる。

とまで行かなくても最低限は維持するようにするだろうな。


「つまりこれは孔明の罠」


 元現代人が、決して拒む事の出来ないライフラインという名の罠だ。


「これはもう仕方が無い。抗える気がしない。

使う方向で割り切って、金を稼ぐ方法を模索した方が建設的」


 切羽詰まってはいないが、小さい方だけ済ませておく。はぁカ・イ・カ・ン! 

異世界のトイレは説明したくないくらい劣悪なんよ。切羽詰まれば仕方なく使うけど。出来ればちゃんとしたトイレでしたいのが本音だ。


 そしてそこで気づく。


「あっ、トイレットペーパー買っとかないと」


 今回は小さい方でマジ良かった。危うく手で拭かなきゃならない危機だったぜ。

だが考えてみれば、施設が増えると他にも諸々必要な物が増える。

買わないと言う選択肢は無い。


 まさか、そこまで狙って???


「どっちにしろ積極的に戦闘しなきゃならんことには変わらんか」


 手を洗ってモニター画面に向かう。手拭きタオルが先ず要るな。

今日の所は作業服のズボンで拭くけど。駄目だこいつ、早めに何とかしないと。

 シャワーを浴びるのにバスタオル・・・・・・

ボディソープにシャンプーはまだいいか。汗と汚れを流せるだけで大分違う。

どちらにしろ確認だけして今は戻らないといけない。なので今は浴びれないし。

シャワーだけでも浴びたいけど。くぅ葛藤する。


「しゃーない。今は我慢だ。確認して戻ろう。残金は、っと」


 何を買うか、ではなく買えるか? が正しい。

無い袖は振れない。なので肝心なのは手持ちの残金だ。

最初1530円あった所持金は、700円分の買い物をしたので昨日の時点で残高830円。

では魔物を殺した現在の収支は?


「プラス250円か」


 現在の残高は1080円になっていた。

ホーンラビットは10円で、そして入るのは自分の倒した分だけだと仮定する。

今日はクレアさんはまだ兎には手を出していない。ゴブリンは横からさっくり持っていかれたがな。

なので俺が殺したゴブリンは二匹。ホーンラビットが五匹として計算すると。


「ゴブリンは100円の仮計算となる。結構デカイな」


 一匹殺せば俺が契約した百円コンビニで一つ買える。

人型なのでホーンラビットよりは面倒だ。だが稼げるのは悪くない。

最もまだまともに戦ったことがないが。

あの感じだと勝てない事は無い。弱い者いじめは得意だ。


「となると問題は経験値と取れたスキルか」


 取得スキル如何では、今日はこれ以上レベルを上げたくない。

ある程度技術を教わって、スキルが取得出来そうな形になってから次のレベルに上げたい。

当面はこれの繰り返しで良いと思ってる。

どのスキルも、レベル1にするのはそんなに難しくないという話だった。

〝素養〟の恩恵もある事だし、低レベルのうちにスキルを多めに確保しておきたい。


 システムさんを切り替えて経験値欄を表示する。


 『18 / 25』


ふーむ。昨日は


 『 3 / 10』


だったのでレベル3に必要経験値は15か。

そしてゴブリンの経験値は5で良さげ。

となるとあと二匹ゴブリンを殺すとレベル上がっちゃうね。

ホーンラビットならあと6匹は狩れるけど。 


 今後は戦う魔物もよく考えなければならない。


ホーンラビットは食べられる。弱いので安全だが日本円は稼げない。経験値も少ない。

対しゴブリンは多少強いが経験値効率は良い。日本円は悪くない。

とりあえず今日はもう戦闘はしなくて良いんじゃないかな。


 となると問題は取得スキルだ。取れたスキルで今後の訓練内容が変わる。

再び画面を切り替えて見てみる。

新しく習得していたスキルはっと・・・・・・



『筋力値 上昇(小)』レベル 1

『速度値 上昇(小)』レベル 1

『耐久力値上昇(小)』レベル 1

『器用さ値上昇(小)』レベル 1

『魔力値 上昇(小)』レベル 1

『精神力値上昇(小)』レベル 1

『運のよさ上昇(小)』レベル 1

『計算』レベル 1




 ゴシゴシゴシゴシ

見間違いかと思って目をこすってみたが、結果は変わっていない。

あれー?

ステータスアップ系が勢ぞろいなんだけど?

意味が分からない。

最近こればっかだな、俺。



 ふむ、分からないものを考えてもしゃーない。ここはステータス画面に変更だ。

ポチっとな。



プレイヤー名『 アキノ・コウヨウ 』 

冒険者名 『 アキノ 』

♂ 均人族 15歳 182センチ 75キロ 

レベル : 2

体調  : 良好

祝福  : 〝千早振る天賦〟


HP 40

MP 15


STR  11(+1)

AGI  11(+1)

VIT  11(+1)

INT  11(+1)

DEX  11(+1)

MND  11(+1)

LUK  11(+1)

DEF  11(+10)

MDEF  22


 レベルが上がると各ステータスは0から3のどれかで上昇するとゴンザレスさんが言っていた。

初期値が高いステータスほど伸びが良いそうだが、どれも3伸びてやがるな。

有難いが。比較対象が欲しい。良いのか悪いのか分からん。多分良いんだろうけど。


 で、(+1)が取得スキルの分かな?

冒険者証で読み取れるステータスよりもシステムさんの方が項目が多い。

冒険者ギルドのは人の技術でシステムさんはこっちの神の代理だしこちらが性格なんだろうけど。

それでも不要な情報が多い気もする。

身長体重なんて計ってもないのに毎回変わるのだろうか? だとしたら体重計要らずだな。


 それにしても〝千早振る天賦〟ってなんぞな?

と思ったらクリック出来た。



<<     〝千早振る天賦〟

・レベル11昇格時まで効果が継続。

・レベルアップの度に全てのステータス値が必ず最大値上昇する。

・スキルの取得確率が大幅に上昇する。

・与ダメージ上昇効果(中)、被ダメージ軽減効果(中)

・状態異常無効(中)   >>


 だって。


 『レベルアップの度に全てのステータス値が必ず最大値上昇する』

つまり俺のステータス基礎値が高いからじゃなくて、これの効果で3上がったのか。

レベル11昇格時ってことなので、11に上がる瞬間まで続くのだろうか?

だとしたら上がったら終わり、って事だよね?

実質10までと考えておけば良いだろう。

レベル1では上昇恩恵は受けられないから実質10回、+30されるのか。

結構デカイな。


 そして『スキルの取得確率が上昇』

スキルを色々得たのもこれのおかげって事ね。

これみたら尚更レベル10までにスキルを取得する努力が要るじゃんか。


 他二つもなかなか優秀だ。

便利で有利だが、現地人から見たら 狡い チートだよな。


 ここまでを踏まえてさて、どうするか?

とりあえず今は戻ろう。人を待たせてるし。

俺は人を待たせるのも、人を待つのも嫌いだ。



 でもでもでもでも!!! その前にだ!!!

顔を洗って、首から下だけでもシャワーを浴びておきたい。

その欲求に勝てなかった自分がいる。

ごめんなさいと心の中で謝っておく。


 店舗を開いて、タオルとボディソープをポチっとな。

バスタオルは置いてなかったし、シャンプーと洗顔料は今回は我慢ガマン。

ボディソープは小さいけど、100円のがあったので勢いで。

石鹼でも良かったけどそっちは置いてないらしい。今時日本じゃ売れないのかな?

まぁいい。

 準備が出来たら浴びるぜ~~~~~




・・・

・・・・

・・・・・




 すいませーーん。なんかお湯が全然出ないんですけど??


「あー、ガスは別か」


くそぅ、でも浴びる。


「うぅ・・・・・・冷てぇ」


でもさっぱりする。うぅ、仕方が無い。

状態異常無効みたいだし、風邪は引かない・・・・・・と思う。




ハックション!!




  ★☆ ★☆


2024/05/18

祝福名を 〝千早振る天賦〟 に変更。

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