第42話 三日目③ 投石
そう言えば前世地球では野球は世界的にみると競技エリアがあまり広くないと聞いた事がある。
サッカーの方が圧倒的に競技人口が多くエリアも広いとか。
野球は必要な道具が多い上に、値段が高い。
それ比べておれたちゃ何なの~。ボール一つ、
あればサッカーは遊べるからね。理解は出来る。
投げるというのは教えないと出来ない技術だと聞いた事がある。
練習しないと飛ばないし、当たらないとか。
こっちの世界じゃドッチボールとかも出来なそうだしな。
そもそもボールがあるのかどうか。まだ見た事はないな。
「こう、投げる手と逆の足が前です。その足が地面に着いたら腰を捻ってですね」
「なんで??? 手で投げるのよね?」
クレアさんにも理解されなかった。
ただ投げるだけなら手投げでも良いんだけどね。
戦闘で、って事になると投げるというよりぶつけるなんだよなぁ。
「全身を使って体重を乗っける感じなんですけど。
突剣で突くときはそんな感じは無いですか?」
「あぁなるほど。足捌きと重心移動が重要なのね」
「ですね、それで腕はなるべく高く振り上げて、当てるまで的から目を離さない」
「弓と共通する部分もあるようね」
知らんけどね。それっぽいことを言ってみただけだ。
野球のコーチングをした事は無い。
だがそれでも伝えたい事は伝わったようでクレアさん投げる技術が一気に上がった。
ゴツゴツと音を立てて、石がゴブリンの身体に吸い込まれて行く。
5メートルほどの距離で投げた最初の数投は、かすりもしなかったのに。
物覚えが良いですね。教えるのが上手いからかな?
両足を切断されたゴブリンは石をぶつけられた為に、すぐに息絶えた。
全く恐ろしい世界だぜ。命が軽い。
「そういや俺も止めを刺さないと」
「ゴブリンは心臓付近に魔石があるからそれを忘れずに取りなさい。あと右耳が討伐証明になっているから切り落としておきなさい。魔物によって討伐証明の箇所は違うからちゃんと調べておくのよ」
そう言いながら今度は近くに一本生えていた木に向かって行き、石を投げ始めるエルフ。
草木とエルフは友達じゃなかったんだっけ?
多分三匹目のも俺にやれって事だろう。
ゴブリンは魔石と右耳以外は取る必要が無い。さくっと終わらせよう。
二匹目のゴブリンはうつ伏せで倒れていたので、背中から左胸に向かって短剣を差し込む。
心臓の位置は同じだ。
止め?
どうせ魔石を取るんだから一石二鳥じゃん。
人体の構造上背中側に向かって腕は伸びない。二足歩行なら人間とそこまで違いは無い筈。
猿もゴリラも、そしてゴジラだって背中までは手が届かない、筈だ。多分ね。
腰のあたりを踏みつけながらやれば反撃出来ないだろう。
「グギャー」
躊躇なく差し込んだ一撃で断末魔の叫び声が響く。
その瞬間に俺を中心とした大地から祝福の光が上がる。
「おめでとう。あらっ壮観ね」
振り返ったクレアさんから祝福の声が届く。
これがレベルアップだ。
立ち上がった祝福の光の中を、ラッパを響かせながら子供姿の天使が飛んで消える。
「1,23,よんごろ・・・・・・く、なな。七個か」
その数七匹。いや七柱かな? 天使の数え方が分からない。
分かっているのはこれはエフェクトだという事。
天へと向かって立ち上がる光のエフェクトはレベルアップを。
その中を飛ぶ天使のエフェクトは取得スキルを表している。
つまり飛んでいる天使の数が得たスキルの数と言う事になる。
所持しているスキルが六個。さらに七個得たので合計十三個のスキルを持つレベル2。
普通にチートっぽい。
「さすが、私が見込んだだけのことがあるわね」
「俺を見込んだのってレイシュアさんだと思ってたんですけど」
「見込んでなきゃ教える訳ないと思わない?」
「それもそうか。ん? そうなのか?」
クレアさんにも見込まれていたらしい。言ってくれないと分かんないですよ?
それにしても七個か。結構たくさん手に入ったな。
まだそんなにスキルの取得は試してないんだけど? 謎だ。
「楽しみね」
「何がです?」
「これで冒険者ギルドに行けば何のスキルを得たか、分かるじゃない。
コウヨウは楽しみじゃないの?」
ゲームのように自分のステータスをその場で確認出来ないので、取得スキルの確認は冒険者ギルドに帰ってからになる。冒険者証を受付に渡し、装置に通さないと分からない。
楽しみというか、じれったいと言うか。
しかもそれで自分で見れるのはステータスだけだ。
スキルに関しては、受付の職員に教えてもらわなければ分からない。
正直面倒くさいのが本音だ。
最もこの世界の人間は、だが。
俺たち元日本人は『ルーム』に行けば確認出来る。
『店舗』を設定したあとにシステムさんがアップグレードされて、色々出来るようになったのだ。
その中の機能の一つに『所持スキルの確認』機能があった。
それで確認した所でも、レベル1の俺は所持スキルは選んで持ってきた六個だった。
ただ影魔法は何故か使えないんだけどね。持ってたのは確かだ。
昨日ギルドでゴンザレスさんにもスキルは確認した。
システムさんと同じ結果だった。
「あんちゃんは珍しいスキルを持ってるな」って言われたし取得しているのは間違いないんだが。
何で使えないんだろうね、本当に。
それはともかくだ。確かに何を取得したかは楽しみではある。
どのくらいかと言うと、いますぐ『ルーム』に飛び込みたいくらいには。
これはこの場で一度、行っておいた方がよい予感がする。
どうせ当面は一緒に行動するだろう。七日間の『ルーム』無料使用期間のうちになるべく出入りして確認したい。
一応昨晩も、周囲の目を盗んで一度だけ入った。
だがいつ誰かに見られるか、という不安が強く設定だけ変えてすぐ出てしまった。
室内でのみ入れるようになっていた設定を、外で入れるように変えて出て来て諦めた。
今日こそは一人で動くと思っていたのだが、どうも今後も予定が合う限りは誰かしらが着いて来る感じになるらしい。全く過保護人外どもめ。
それを嬉しく思う気持ちはあるが、流石に過保護がすぎるよ。
こうなったら早めに説明して、自由に行き来出来たほうが良いだろう。
「クレアさん、何かこの感じ・・・・・・多分昨日の所に行けそうなんですけど」
「昨日って・・・・・・ 『空間魔法』 のアレかしら?」
「ですです。どうも制限が消えたみたいで、なんか今なら行けそうなんですよ」
「レベルが上がったから、かしら?」
「分かりません。解体が終わったらちょっと試しても良いですか?」
「ん~~、そうね。危険はないのよね?」
首肯する。間違いなく危険はない。
むしろ上手く使えば危険から逃げられる機能だ。ある意味セーフティゾーンだ。
これで金が必要じゃなきゃ最高なんだがな。
「じゃー試してみなさい」
投石の練習をして待っているというと言うのでお言葉に甘えよう。
先に解体しなきゃだけどね。
仕留めただけのホーンラビットも空間収納から出してもらう。やることやって移動しよう。
それにしてもイメージが変わるな。
石を投げるエルフってなんか悪者みたいだよね?
多分それ、俺のせいだけど。
エルフが集団で石を投げて来たら・・・・・・何かやだなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます