第41話 三日目② VS ゴブリン
俺の視界には見えていないが、クレアさんがいると言うならいるんだろう。
残念ながらゴブリンがいるそうなので、冒険者の義務として始末しないといけないそうです。
ホーンラビットを減らされるのも良くないが、餌として食うと言う事はいずれ周り回ってゴブリンが増える事になる。
それを事前に抑える為に、見つけたら必ず始末しなければならないという事は納得出来る。
やりたくはないけど。
「確認ですけどクレアさんがやるのは駄目なんですよね?」
「えぇ、ランクの低い冒険者といるときは手を出してはいけない事になってるわね」
ピンチの時は手を出して良いらしい。だがゴブリンは弱い魔物だ。
新人でも狩れるらしい。それを手助けしてもらっうってのもね。
社会人一年目でも出来る仕事を任されて、なのに先輩社員にやってもらうようなもんだ。
要領が良いと言える。けれど胸を張って言える事では無いな。
何より本人の為にならない。
そして外聞は良くない。こういった話は下手をするとずっとついて回る。
面白おかしく語りそうな頭の悪い知り合いも、運悪くこちらに来ている事でもある。
しゃーない、やるか。
いる場所が分かるクレアさんに先導してもらいゴブリンのいる方向に向かう。
俺にはさっぱり分からなかったが、しばらくすると遠くに三匹の緑の物体がこちらに向かっている姿を確認出来た。
「向こうも気づいて向かって来てたわね。一匹づつ始末したいなら二匹押さえておいても良いわよ?」
何でもゴブリンはエルフを見ると興奮して発情するらしい。へ、へんたいだぁ~。
発情の対象が俺でないなら別に問題はないか。
別にゴブリン対策では無かったが、昨日今日と行動している間に対魔物の、そして対多数の準備はしてある。
「そのままやってみるんで、やばそうだったら手助けをお願いします」
「えぇ、さっそくその棒の使い道が見れるわね」
『ルーム』で選択した店舗で買った品物は、俺の手を離れると七日で消えてしまうらしい。
なので対魔物の準備はなるべくこっちの世界の物でするようにしている。
最もまだ〝買えるモノが少ない〟事も理由の一つではあるが。
昨日の時点で所持金額は1530円。
食卓塩 100円
黒胡椒瓶 100円
簡易ライター 100円
軍手 100円
靴下 100円
パンツ 100円
シャツ 100円
差し当たり700円ほど使った。
ルームでは消費税は掛からないようだ。国内消費ではなく異世界消費だからかな?
金額でお察しの通り契約したのは、100円コンビニだ。
店のコンセプトに忠実に100円で買えた。
店で取り扱う品の大半を100円で展開しているコンビニチェーンを選択している。
異世界では物価の上昇の影響も無いようだ。
広く浅く色々押さえたい。それもなるべく安くという事でこの店を選んだ。
百均ショップチェーンのどれかでも良かったが、コンビニ系なら弁当なども売っている。
資金を稼げるようになったら、たまには楽をしたい。そんな日があっても良いだろう?
「残念ながら今回はまだ棒は使いませんけどね」
この棒というのは昨日の薬草採取の際、鬼人族のレイシュアさんに切ってもらったただの木の枝だ。
「突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀、杖はかくにも外れざりけり」というのは杖術の教え。
この棒も元々が枝なので太さはまちまちなので杖にも見えなくは無い。
最も長さだけ指定して俺の身長と同じ長さに揃えてもらったので、杖にしては長いけど。
この木はイスノキという種類で、この辺りに生えている種類の中では特に堅い樹木であるそうだ。
広く浅く、そして金をかけずに。 が現在のテーマ。
『ルーム』の店舗もそう。それくらいの方が挫折しなくて良い。
あまりこだわると長続きしない。
棒に関しては護身用途で作ったが、素振りなどの練習用でもあるのでまだ実戦投入はしたくない。
長さだけ調整してもらって、今は短剣で太さを調整している段階だ。
せっかく作ってるのに折れでもしたら泣いちゃう。
「あら? じゃーどうするの?」
「そこはこまめに拾っといたコイツの出番ですね」
作業服のズボンのポケットに入れておいた小石を見せる。
3~5センチ程度の石が左右に10個以上入っている。
平原だが石くらいは普通に落ちている。
魔法なんざ使えなくても遠距離攻撃には困らんのだよ。
別に魔法何て使えなくてもね、弾はそこいらにあるのだよ。
何て言葉でお察しの通り昨日、正確には昨晩にちょっと習ったくらいじゃ魔法は使えるようにはならなかった。
だが俺の魔力は高めだ。と言う事がステータスで分かっているので別に気にしていない。
急いで使えるようになるより、確実に、そしてなるべく強く使えるようになるほうが先だ。
「『投石』ね。ただ投げても当てるのは難しいわよ?」
「くくくっ、その辺はご覧ください」
ゴブリンは三匹、すでにこちらへと駆けて来ている。最前列が飛び出す形で距離を詰めて来ている。
『ピッチャー秋野、振りかぶって投げた。
一番右のゴブリンに当たった~。
だが実は真ん中を狙っていた。コースはボール。だが当たったから空振りストライクの判定だ。
続いて第二球、投げた。
今度は左のゴブリンへと当たる~。
だがやっぱり狙ったのは真ん中、コースを上手くつけません』
『立ち上がり、安定していませんね。この辺は経験不足でしょう』
脳内でアナウンサーが勝手に実況を始めやがった。
誰だよ、お前ら。
確かに野球経験は少年野球まで、おまけに補欠だったけどさ。
肩は強いんだ。根本的にチームプレーが苦手なだけ。
当たれば良いんだ。当たれば。遠間はな。
当たった二匹は一瞬動きが止まる。その分進みは遅れる。
そりゃー痛いだろうさ。投げてるの石だもん。
こっちは同時に遅い掛かって来なければそれで良い。
短剣を抜いて、左手に逆手で持つ。
格好つけた訳じゃない。普通に握ると投げるのにちょっと邪魔になりそうだからそうしただけだ。
今度は振りかぶらず、セットポジション気味で投げる。
ゴブリンはもう目の前だ。
ゴブリンは平均して身長は100センチとちょっと、という所。
かなり小さい。そんな小さな的に当てたんだから充分だろう。
モーションは小さく、腕は高く振り上げて真上近くから三個目の石を投げる。
『ストライクッ! 三球三振ッ!!』
思いっ切り投げ込んだボールは、じゃなかった石ころはゴブリンの顔面を襲った。
投石が顔面に直撃したゴブリンは、大の字にひっくり返って倒れる。
・・・・・・なんかピクピク痙攣してる。こわっ。
少年野球経験があるとはいえ、球速は100キロくらいしか出ていないだろう。
とはいえそんな速度で飛んできた石が顔面にとかね。
自分がやっといてなんだけど、えぐい。
だが同情している場合じゃない。
まだ二匹いる。遅れて順番にやってくるゴブリンへと石を投げる。投げ続ける。
二匹目がひっくり返った所で三匹目が逃げ出した。
ふむ、聞いてた以上に弱いな。
ゴブリンが存在し、周辺に現れるのは聞いていた。
二足歩行で小狡いが、力は弱い。
注意点は爪と牙だが毒は無い。
だがそれらで傷つけられると体調を崩す。最悪死ぬ場合もあるらしい。
不衛生で雑菌が繁殖しているのだろう。
どう戦おうかはイメトレしてあった。
俺の出した結論は嬲り殺し。
短剣の届く距離に来るまでに痛めつけておく。
器用のステータスも高めだったので問題は無いだろうと思っていたが、想像以上に上手く行った。
一匹逃げたけど。
今の速度ステータスで追いつくだろうか? それとも動かなくなった二匹が先か?
ま、今は逃げた奴が先だろう。
なんて考えていると、クレアさんが突然現れててゴブリンに足を引っかけて転がした。
そして風魔法で両足を両断。なんで???
「手は出さないんじゃなかったでしたっけ?」
まさか足だからオッケーとか言い出さないよな?
ベッタベタだぞ?
手助けが必要だったとも思えない。
ホーンラビットは速度ステータス5があれば追いつくらしい。
多分兎相手よりも少し長く走るくらいで追いついただろう。
「今の何? あれは投擲術スキルなの? 私もやってみたいの、ちょっと教えてもらえる?」
疑問に思っていると、超絶美貌のエルフがとても晴れやかな笑顔で言った。
「・・・・・・つまりそれは練習用の的ってことですか?」
さすが異世界、ゴブリンに人権なんてないらしい。
別に全く構わないけどね。ちょっと怖いよ?
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