第40話 三日目①


 転生してから三日目の朝。


 日の出からクレアさんに連れられて町の外に来ていた。

薬草の採取に向かう為なのだが、その前に今日もホーンラビットを狩る。


 今夜のおかずの為だ。

勿論下ネタの方ではない。食べる方だ。

転生前に選んだスキルの中に〝料理〟スキルがあったのは覚えていたので、昨晩の夕食を試しに作らせてもらえないか頼んだところ、あっさり許可を得た。

 冒険者ギルドでの清算の後に必要な材料を買い出しを行い、前世とは違う不便な調理環境の中で色々試しながら作った。


 これが高評価を得てしまい、「今夜からもよろしくな」 となった訳だ。

軽く押し付けられたが、材料から地力調達という難易度の高さである。

ホンに異世界は大変な所やで、と言いたい。だが〝料理〟のスキルは早めに欲しいと思っているので望むところでもある。


 〝料理〟スキルはなるべく早めに習得したいスキルだ。

こっちの世界にはコンビニもスーパーもファミレスもない。

出来合いの料理を売っている場所が限られる上に、こちらの世界の料理はあまり美味しくない。

流通網があまり発達していないので、調味料も食材も偏っているからだろう。

それはつまり味も偏ってしまう。

前世で多彩な味を楽しむ民族日本人だった俺の口に合う訳が無い。


 となると自分で作るしかない訳で。


 なのにガスコンロも水道もない。

昨日は食事の支度が本当に大変だった。

〝ルーム〟で店舗契約をしたことがせめてもの救いだ。

これで少しは食生活がまともになる。


 だがそれに頼り切りもどうかとは思う。

〝日本円〟を稼ぐのが大変だ。

極力こちらで出来る事はこちらでした方が良い。


 なので差し当たりはこの〝料理〟スキルだ。

それと教わり始めている〝錬金術〟スキル

同じく習っている『魔法』関連スキル、といった所を押さえて変えていきたい。


 特に魔法だ。

〝影魔法〟は習得していた。

なのに相も変わらず一向に発現出来ない。



 俺の所有スキルは


〝短剣術〟 レベル1  〝攻撃力向上〟 レベル1

〝影魔法〟 レベル1  〝詠唱時間短縮〟レベル1

〝解体〟  レベル1  〝幸運〟    レベル1


 の六種。昨日の冒険者ギルドでゴンザレスさんにも確認したので間違いない。

レベル1なのに六つもスキルを持っていると、俺以外が大喜びだった。

 割と珍しいらしい。

だけど多分元日本人組、ニフォン村の出身者はいっぱい持ってきてると思う。

その中だと俺は少ないほうになるだろう。

それでお三方がガッカリしないと良いなとは思うくらいには、俺も依存し始めているがそれはまぁしゃーないな。

よく分からない世界に放り込まれて、面倒を見てくれる人を頼るな、というのがまず無理だ。

それでも自立しなければという気持ちは無くしていない。

これだけは折れないようにしなければならないと思う。


 話を戻すが、残念ながらティルナ・ノーグのお三方にも〝影魔法〟を使える人がいない。なので俺がスキルを所持しているのに影魔法を使えない理由は分かっていない。

この町におらず別行動をしているというティルナノーグのリーダーが使えるらしいが。

いない以上聞く事も出来ない。


 ただ習得こそしているが、彼は影魔法を殆ど使っていないらしい。

なので聞いてもあまり参考にならないそうだ。

それでも〝持っている〟〝習得〟している人を知っているというだけで大分違うが。

 魔法に関してはサトッカ・リリーさん、ハイエルフのクレアさんの方が上で、習得スキル数も多いらしい。なので多分魔法以外のスキルに違いがあるんじゃないか? という予想まではついている。

こういった情報が手に入るのは本当にありがたい。

暗闇の中を闇雲に手探りで探していくのは御免被る。

 昨晩はどこから手を付けようかと考えながら眠りについた。

俺って奴はこうやって考えるのが嫌いじゃないから困る。

まだ三日目だが、異世界生活にワクワクしているのが自分で分かった。








 少し先にホーンラビットを見つけた。見つけて即、追いかけて首筋を断った。

ゴンザレスさんにステータスが高いと言われるだけあってまだまだ余裕がある。

〝短剣術〟 + 〝攻撃力向上〟 スキルのコンボでむしろオーバーキルだろう。


 これで食料は一つゲットだぜ。数は気にするとはない。

どうせ俺が狩れる量よりも、お三方が食べる量の方が多い。なので足りない分はクレアさんが狩る。

なのでやるべきことは狩りでは無く、訓練の一環。スキルを得る為の訓練だ。



反転して振り向く。

すると、クレアさんが柏手を叩く。大きく一回。

これはスタートの合図だ。

全力で走り、クレアさんの所まで戻る。


(この人、ちょっと下がってやがんな。別に良いけど)


 ホーンラビット狩る時に放り出した俺の荷物が落ちている場所より、彼女の位置が少し後ろになっていた。

 着いたら再度反転し、次の合図を待つ。

手を叩く音を合図に殺したホーンラビットの所まで再び走る。着いたら再度振り返る。

これをもう一度繰り返してから、解体に移る。


 短距離ダッシュの練習だ。

あわよくば『速度向上』のスキルが欲しい。そう考えて思って提案した。

 今日の俺のホーンラビットを狩るノルマは五匹。

それだけだとすぐ終わってしまうので他の事を試しておきたかった。

こんなことで取れるかは分からない、

けれど何もしなければ、その先にも得るものは一切無いだろう。


 薬草の採取が終わったらもう一度、ダッシュだけやる予定だ。

そして明日レベルを上げる。

それで取れてたら良し。取れて無かったら仕方が無い。また考えれば良いだけさ。


 こんなことが出来るのも情報があるからだ。

ニフォン村出身者以外は難しい。

 ホーンラビットの経験値は1だ。これは確定している。

そしてレベル2に上がるのに必要な経験値は10。

この情報は〝店舗〟を決めたあとにシステムさんで確認出来るようになった。


 ちなみにレベル1の冒険者がホーンラビットを10匹くらい殺すと次のレベルに上がる、と言う話は普通に広まっているらしい。

ゴンザレスさんが言ってた。その後聞いたらティルナ・ノーグのお三方も知っていたがな。

だからそれを教えるのが指導だと・・・・・・まったく。


 今日上げてしまわないのは、まだポーション作成が成功していないからだ。

まぐれでも

「たしかポーションを一個でも作れれば、スキルを習得できた筈です」

とサトッカさんが言うので今日帰ったらもう一度挑戦してからにする事にした。


今夜作る事が出来て、明日取得出来たら良し。


今夜作る事が出来て、明日取得出来なかったら別の条件が要る。


今夜作る事が出来なくて、明日取得出来たら根本的に間違い。


今夜作る事が出来なくて、明日取得出来なかったら、レベル3の時にまた考えましょう。


という事。


 昨日ホーンラビットを三匹狩った。

今日は五匹で止める。合計8匹。

十 引く 八 は 二 。 で、レベルは上がらない。

余裕を持たせているのは小数点以下の数字が存在した場合と、転生者ボーナスがあった場合の保険だ。

さすがにボーナスが付いても二倍とか三倍は無いだろう。

あっても10%アップ20%アップくらいだと思う。

50%アップが掛かっていたら諦めるしかない。





 その心配はなかったようで、無事五匹目のホーンラビットを仕留めた。

その解体をしていると、クレアさんが良い笑顔で言う。


「昨日の夕飯のあれ、ピカタだっけ? あれは美味しかったわ。今夜も楽しみだわ」


 喜んでもらえるなら何よりです。

 エルフは肉が食べれないのかと思ったらそんな事はなく、クレアさんも普通に食べていた。

エルフの中に肉を食べれないエルフもいるらしいが、それは前世のベジタリアンみたいな個人の感覚の問題らしい。

ただエルフの中には割合は多く、一定数いるらしい。


 ピカタが美味かったのは良かった。

だが、多分卵を使ったからだろう。

昨日帰りに商店を冷やかして帰ったが鶏卵が馬鹿みたいに高かった。

なので普段はあまり食べないそうだ。

 それをせがんで買ってもらった訳だが。数は買ってもらえなかった。

卵はプロテインスコア100の良たんぱく食材なんだけどね。残念。


 仕方がないので溶いて付けて焼くピカタにした訳だが。

ついでに肉の血合いを徹底的に取って筋切りをして軽く叩き、さらに隠し包丁を多めに入れた。

靴の裏とまではいかないが、一昨日食べた時はちょっと食感が堅く感じたからだ。

お試しだったがうまくいったなら良かった。


「んー、植物油をたっぷり使って良いなら今日はカツにしてみたいんですけどね」


 揚げ物は正義だ。

小麦粉はあった。

専用の鍋は無かったが、薄く切って揚げ焼きにすればそれっぽくなるだろう。

植物油は結構高かったので許可がいる。

俺が選んだ店舗ならパン粉も買える。ソースも買える。

男料理の揚げ物なんて、バッター液で充分だ。


 卵も植物油も『ルーム』で買える。そういう店舗を選んだから。

だが、現地にあるものはなるべく買いたくない。

とんかつソースも買えるが、汎用性を考えるとここは中濃ソースだろう。

今の稼ぎじゃ何種類も買えない。絞って狙いどころを決める必要が有る。

関西人にも文句は言わせねぇ。俺のスキルだ。


「カツがなんだか分からないし別にそれは構わないんだけど、レベルは今日上げる事になったわね」


「えっ、何でですか? 俺なんかやっちゃいました?」


「違うわよ。この先にゴブリンがいるみたい。

ゴブリンはホーンラビットを食べちゃうから、生息地で見つけたら必ず狩る事。これはこの町の冒険者の義務よ」


「ちなみにゴブリンの経験値はどれくらいでしょう?」


「2匹殺すとレベル1が2になるわね」


 というと最低でも5か。

レベル3に上がるのがいくつかによる。必要経験値がま~た今回も10だと考えちゃうな。

ホーンラビットを昨日3匹、今日5匹なので現在値はおそらく8で良い筈だ。

ゴブリンの経験値が5だとして、レベル3に上がる必要経験値が10だったら・・・・・・・

バーストする。


いやだー、考えたくない。

でもゴブリンは狩らなきゃいけない義務みたいだし。

ちっくしょう。一人でくりゃ良かった。


逃げたのにぃぃぃぃ!!

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