第76話 + 2


「へー、結構広いのね」


「聞かれたら困る話はここでしてるんだ~。ここは防音魔法が掛かってるから外には聞こえないんだって。日本の話とかはここでする事にしてるんだよ。その代わり火気厳禁なんだって」


「大体22時までここで情報交換をして、それから〝ルーム〟に入って寝るのね。

そうするとナイトパックって私たちは呼んでるんだけど、朝まで500円で済むから宿を借りるより良いかなって。

でも朝の八時まで必要な日本円は変わらなくても、今日は〝こっちの会議室の時間が先〟に来ちゃうから、出る時間には気を付けてね」


 物珍しそうに何もない部屋を見回していたリサリサにマシロとアオバが注意事項を伝えていた。やはり女の子同士だと少し口調が変わるようだ。


 見ての通り、俺の心配は何だったんだ? と思うくらいあっさりとアオバたちは二人はサユリサを受け入れた。

酒場では男女でテーブルに分けられて座り、女子四人で結構長くワイワイやっていたくらいだ。

 それを見てナグモとホクトはしばらくポカーンとしていた。

男子に説明する許可を取るのを忘れたのは・・・・・・なんかすまん。

勝手に話して良いのか分からず、ナグモとホクトに何を聞かれても首を傾げて誤魔化すしか出来なかった俺を許してくれ。


 女子四人のかしまし話が終わり、サユリサとも手を組みたいとアオバたちが言ったので防音魔法の効いている会議室へと移動して来た。

 ただいつもと違って、少し大き目な部屋を借りている。

広さは倍くらいになり、料金も倍になって千ゼニー。人数が増えたからな。

話すにしてもあんまり狭い所で密着してしまい、知らないうちに信用を無くしたりしたくない。


 全員今日は訓練所に行かない事になったので、いつもよりここに入る時間が早かった。

現在は17時半を少し回った所。

 利用可能時間は12時間なので朝の五時半には期限が切れる。

最近はアオバたち四人も日の出前後から動き始めているので、俺たち五人は問題無い。

外に出た頃にはこの時期は日が昇る。

 だが他の元日本人がどうしてるかまでは把握していない。

ちゃんと注意しておかないと、〝ルーム〟の中までは連絡が出来ない。

ナイトパックの期限が切れる朝の八時まで寝てられると、延長料金が掛かってしまう。

どこでもそうだが、延長料金の方が高い。

昔のレンタルビデオ屋なんかはそこでの収入を見込んでたとこち亀でやっていた。

気を付けて欲しいもんだ。


「なによ、そんなに見つめて」


 目が合ったリサリサが、ちょっと警戒したように言って来る。

ちょっと意外だった、のでちゃんと謝っておこうかな、と。


 気を使って「女子四人で今日は話したら?」 と提案したんだが、大反対された。

サユリサの間では初日にあの馬鹿を殴った俺と、話をしたいと思っていたらしい。

敵の敵は味方って奴だ。

話すタイミングを伺って、あんな感じだったんだって。不器用だね。

察せれず、サユリんが男子が苦手な事も全部説明させてしまったのは悪手だったかなって。


 初期配置であの馬鹿を含む四人と一緒になってしまったリサリサは運が悪い。

何かと理由をつけて触って来ようとする奴が集まった五人の中にいて、そいつが俺の元同級生のアレだった。

 他に三人男子がいたが、全員なんのかんの言いながらも絶対に止めなかったそうだ。

むしろ油断すると参加して来そうな感じがして、一緒にいる間中ずっと恐怖を感じてたらしい。元々早々に逃げ出す予定だったとか。

それもあって俺より先に反発して、揉めたのだと。

勿論年功序列の提案も受け入れられない。何されるかわかんないからな。


 リサリサのようになんか会った訳ではないが、最初の五人に男子がいた為にサユリんは離れたかった。そこが噛み合って上手く合流出来て一安心。だが、その後も色々あった。

 そこで先述の通り。

敵の敵なら味方になるかもと考えて、訓練室で偶然見かけた俺に接触しようとしたらしい。


 なのに女子だけでごゆっくりとか平気で言う奴がいたんですよ。

なんかごめんね。でもそんなの察せれないよ。


 リサリサの初期メンバーで、あの馬鹿以外に俺が分かるのは最年長の奴くらいだし。

そいつを中心にまとまろうって話だったので一人だけは顔を覚えてる。

ムー〇ンを不細工にした下膨れのカバみたいな顔の奴だった。冒険者ネームはなんだったかな。

興味の無い元おっさんの名前なんて覚えて無い。


 残る二人は関西弁の狐人族とナルシストっぽくいつもポーズを取ってる森人族エルフらしいが、俺はどっちも覚えていない。

あの馬鹿も最年長の奴もだが、あそこは全員が魔法使い系の服装をしていた。

なのでどうしても印象が薄い。

 元日本人にはエルフが何人かいたらしい。だが俺が分かったのなんて一人だけだ。

元日本人は大半が魔法使い系を占める。つまりほぼみんな同じ格好をしている。

その上で魔法使い系はつばが広い帽子が標準装備、なので顔が見え難かった。というのが言い訳。


 今改めて話を聞いて確認しても、回復職も入れると二十五人中、二十人くらいが後衛寄りってのはどうかと正直思ってるし。

 前衛系の装備をしてたのは

俺の元同級生の 抽冬。

オークレディのとこの背の小さい子。

後はここにいるナグモとリサリサと俺だけだ。

はっきり分かるのは五人だけ。


 勿論スキルで持っている可能性はある、俺もどっちかというとバランス型だ。

だが前衛系が全体の五分の一は少ない。

 そのうち三人がここにいるってのも、他の元日本人にしちゃ複雑かもな。

リサリサが抜けた後の四人は全員後衛火力専門らしいし、なんか言って来る可能性は大いにありうる。

知ったこっちゃねぇ、でこっちの意見は一致してるけど。


「いや、さっきは余計な事言って悪かったなと思ってね。すまなかった」


「いーわよ。サユリさんの事で気を使ったんだろうってことは分かってるし。

でもサユリさんが苦手でも話してみようとしたんだから、あんたはそこを裏切らないでよね」


「何を持って裏切りになるのか分からんが、お詫びに缶ビールでも差し入れとく。さっき飲みたがってたし、俺も飲みたいし」


「何それ? 手に入るの?」


 入る。タイミング的に飲んでなかっただけで俺の選択肢なら買える。

無駄使いしたくなかったし、飲んだら止まらなくなるのがお酒だ。だから今日までは控えてた。

そんな訳で今日くらいは、缶ビールを飲みながら話しても良いと思ってる。


「そこらは後で話すよ。ちょっと先に一旦〝ルーム〟に入るけど、今は気にしないで。話すと長くなる」


「ですね。なら私、先に行きますね。リサ、ごめん。準備してくるから少し待ってて」


 そう言ってアオバが〝ルーム〟に入って行く。次にナグモとホクトが入った。

マシロは残るようだ。全員一斉にいなくなるも微妙だしな。


 最近は少し稼げるようになって来たので、会議室に入ったこのタイミングで一度〝ルーム〟に入っている。

 話をするのに飲み物食べ物を買ってくる。場合によっては夕飯を取る。

という事もあるが、〝ルーム〟で買った物の更新が最優先だからだ。


 アオバに最初に二本預けたボールペンは、触り直さなかった方は七日が過ぎると消えた。

日本人の間でも、〝ルーム〟で買った物は共有出来ないようだ。

 問題無いのはせいぜい食べ物飲み物の消えものくらいだろう。それでもなるべく早く消費する必要がある。

使う為に買った物は、必ず触り直さなければならない。それもなるべく短いスパンで行うべきだろう。


 特に現在、文房具は完全に俺の持ち出しだ。

話合った事は各自が、自分のメモ帳に書き込んで資料を作っている。うっかりで消えたら笑えない。

多少費用が掛かっても、手間が掛かってでも更新し直すようにしている。

後回しにしない。絶対に先にやっておく。

俺もマシロに任せて〝ルーム〟に入った。





「これは俺のおごり」


 アオバたちが出して来た荷物を一度受け取ってすぐ返しながら、サユリんの前には缶ビールを置いた。

リサリサ?

入ったついでに俺の缶ビールと一緒に2ℓペットボトルのお茶を買ったからそっちをどうぞ。

他に裂きイカ、枝豆、ポテチを買ってきた。ポテチだけアオバに渡す。

今日は飲むんだ。もう働かん。

とはいえ自分だけお酒を飲むのも気まずい。なので共犯、いやお裾分けだ。


 自分たちだけ飲み食いするのは気まずいと思ったのだろう。他の皆もいつもより、買って来る品数が多い気がする。

 それらをアオバとマシロが紙皿の上に開けて行く。紙コップもあり、どちらも彼女らが担当して用意してくれる事になっている。

紙皿の上にはラップを敷いて、洗わなくてもラップを替えれば何度も使えるように気を使っている。

こういった細かい事まで気にしないで飲み食い出来るようになる、ほど稼げるのはもう少し先になるだろう。レベル上げも止めてるし。

だからここで人数を増やすのは、悪い話じゃない。


 おっと・・・・・・

そういえば缶ビールで頭がいっぱいで二人の分のメモ帳とボールペンの事忘れてた。


 んー。明日の朝で良いか。

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