第80話 新人冒険者は鍛えるのが日常です
変わらず訓練所に通っているが、新しく元日本人に会うことはない。
会うのはアオバたち四人と、他にはサユリサくらいだ。
リサは自分の訓練だが、サユリんは薙刀を教えに来てくれている。
多分、お詫びという意味合いが含まれる。
サユリサのパーティは現在四人。
一人は現地人の女性で、もう一人は元日本人らしい。
らしいと言うのは、会っていないから。
素性はある程度聞いている。
サユリんと同じ大学のサークルのメンバーで、年は彼女の一つ下。元は二十歳だったという男性だ。
男性が苦手のサユリんと、あまり上手く接せれないと思うリサリサがパーティに入れているのは不思議だったが、この彼は回復専門職のスキル取りらしい。
リサリサは剣士特化で、サユリんは魔法特化らしい。
なのでヒーラーは重宝するのだろう。
ただこの元日本人が曲者で、現在向こうが会う事を拒否している状況だ。
その理由が「働きたくないでござる」だそうで。
この男の冒険者ネームはずばり『ござる』
サユリサにもそう呼ばせている徹底ぶりで、語尾にもしっかり「ござる」を付けて喋るらしい。
そんな奴ばっかりで、おじさんは頭痛が痛い。
それも絵に描いたようなおたくキャラだそうで。
黒髪をだらしなく長く伸ばしたロン毛、細い眼鏡をかけた色白で、病的に細いそうだ。
そのござるだが、毎日最低限の狩りだけは働くそうだ。
だが、それ以外は一緒に行動していないとの事。
何をしているかというと、本人はアニメを見るんだと言っている。
一回目の契約店舗でインターネット設定を選び、二回目の契約店舗でアニメ動画の見れる契約をしたというツワモノらしい。
正直出来るのを知って驚いた。
その選択肢もあるのか・・・・・・ うーん、保留で。
俺たちと知り合った話はしたそうだが、彼は混じりたくないと言っている。
理由は上記の通りで、忙しいんだと。
俺たちの意見は半々で、とりあえず一度会ってみよう・会わせてみよう派と、無理にしなくても良いんじゃないか派に別れている。
ただ、サユリサは回復魔法が使える彼を手放したくないと言っている。
どちらにしても彼を外すという選択肢は無いのならば、無理強いはしないほうが良いだろうと言う事で一旦話は落ち着いている。
俺とアオバたち四人も情報交換は勿論、情報収集を積極的にしない奴にあまり情報を流したくない、で一致している。
そうなるとスキルの深いところまでは話せないね、魔物の分布と経験値までにしておこっか。
ならこれ以上無理に話を進めなくていいな、という感じで今に至る。
サユリンが教えてくれるのは、手を組んだのに微妙に停滞している、それに対するお詫びといった感じだろうか。
彼女は小学四年生まで中国と日本を行ったり来たりだったそうだが、五年生からは腰を落ち着けた。
小中高と一貫の女子校に通い、そこでずっと薙刀部に所属していたとの事で、長物に慣れている。
後輩に教えたりもしていたのだろう、教えるのも上手く勉強になる。
それなのに何故魔法特化にしたのかは謎だ。
だがスキルの細かい話を出来ない状況で、自主的に武術の稽古をするのは悪く無いと思う。
「あー、もう! ちょこまかちょこまか! 見た目とギャップがあってやりにくいのよ!」
「見た目関係ないだろうが」
「男らしく打ち合いなさい!!」
手に持った木剣の切っ先を俺に向けてリサリサが怒鳴る。
どうやら俺が攻撃を避けるスタイルなのがお気に召さないらしい。
さすが、姫。我儘だ。
ちなみにサユリんはお嬢、だそうで。
もう一人の日本人こと、ござるの二人の呼び名でござる。
何でもなんかのアニメのキャラにリサリサが似てるらしく、それで
「是非ご一緒させて欲しいでござる」
と、声を掛けて来たらしい。
サユリんと並んでるとこを見ていつも変な笑いをしてるそうだ。
「そればっかじゃ訓練になんねーだろうが」
「アキノは何がしたいのよ!?」
「相手の剣に合わせて避けて、すぐ前に出るって感じだな」
「避けてるだけじゃない」
相手が剣を振ったら、その先端が当たらないギリギリで躱す。
俺の前を通り過ぎた瞬間に前に出て反撃する。
という動きを意識している。なので俺の戦闘はバックステップを多用する。
問題は避けた後に即、反撃出来ていない事だ。
躱すのは割と出来るがギリギリを、とは言い難く。戻るタイミングを逃がしている。
下がると下がりっぱなしになってしまい、そのままずっと下がり続けてる感じになる。
怒るのは分かるんだけど、やらないと出来るようにならないから仕方が無いと思う。
俺も練習しないといけないし。
「ぎゃははは、しょうがねぇなぁ、アキノは! おい、ねーちゃん。リサって言ったっけ、そろそろ変わってくれよ。アキノ、次は俺とやろうぜ」
そう言って大き目の木剣、両手剣用のモノを構えるのはレオンだ。
こっちに来て最初に知り合った同期の新人冒険者の彼は時々訓練所でも一緒になる。
彼は彼でここで真剣に学んでいるでいつも話せる訳じゃない。
だが顔を会わせて余裕があれば話すし、こうやってたまに手合わせをする事がある仲だ。
「オーケー、レオン。やろうか」
「ちょっとー、わたしまだ変わるって言ってないないんですけどー」
リサリサが文句を言うが知らん。
どっかで止めないと自分勝つまで延々とやろうとするんだもん、この姫さま。
何度か会ってるのでそれを知ってるからレオンも名乗り出て来てくれたんだろう。
ほら、向こうでウインクしてる。分かってるからそれは女にやろうね?
「また今度な、アオバとマシロでも見てやってくれよ」
「絶対だからね! 次は勝つんだから!」
そう言いながらも素直に従ってくれるリサリサ。
良い子なんだけどね。俺の事叩いても大丈夫な人的認識をしているフシある。
ナグモとホクトにはもうちょっと遠慮があるもん。
別に拒みませんけどね。どうせこれからも、ここで会うたびやり合うんだから。
つーか拒んだこと無いだろうに。
改めて向き直る。
一様に剣術使いと言っても様々だ。レオンとリサリサではタイプが違う。
距離が変わり、イコール対応も多少変わる。
レオンの武器は大柄な両刃の剣で、一般的に両手剣と分類されるモノだ。
昔の国民的ロープレの主人公が持ってるようなバスターソードみたいな感じの得物。それをこいつは片手で振り回す。
百獣の王と称されるライオン。
その獣人である獅子人族だけあって身体も大きく、パワーも物凄い。
はっきり言って出鱈目だ。出鱈目に強い。
パワーだけでなくしっかり技術もあり、そして獅子人族は火と風の魔法も使う。
多分こいつか、前にあった青髪のロンゲ。
どちらかが同期で一番強いと俺は思っている。
俺の直感がそう言ってる。
だからこそ負けたくないとも思うのは俺も男の子だからだろう。
どっちも良い奴で、顔を合わせれば馬鹿な話も話せる仲だ。
でもだからこそやっぱりそう思う訳で。
たまにこうやって武器を交えもするが、その度に身体の芯が熱くなる。
そんな関係も悪く無いなって思える訳で。
ちょっと充実してるかも知れない。
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