第82話 房中術



 イリアはあまり強くなかった。


「元気だせよ」


「うっせー、くっそー。おい、おやじ! もう一杯だ!」


「もうやめとけよ。酒も弱いみたいだし。あ、俺にもおかわりちょうだい」


 おやじと言っても彼女の父親ではない。安酒場の店主だ。

目で大丈夫かと問いかけられたので自分の分も頼んでおく。


 イリアも獅子人族のレオンと同じく両手剣使いだったが、レオンと違って片手では振り回せないようで両手でしっかり握って振り回していた。

 両手剣を片手で振り回し暴れ、反撃を盾を持って受けるレオン。

対して両手剣を両手で握って、そこそこの動きのイリア。


 大振りで力もそこまで強くない。動きも大して速くない。

両手剣という武器の性質上、動きがワンパターンになりやすい。

言っちゃ悪いがあんまり良い練習相手にはなんなかったかな。


 それはそれで構わない。知らない相手と戦うってのも勉強だ。

だが終わって解散しようと思ったんだが、酒に付き合えと泣きつかれた。

しつこいから折れたんだが、これが初酒らしい。


 すっかり大虎である。虎だけに?

初めてだが酒は飲めるようだ。むしろ好きっぽい。種族的に?

でもそっちもあんまりって感じだ。

まだ一時間くらいなのに割とべろべろ感がある。

潰れてはいないけど。


「おまえよー、あんまりオレにレオンの話をすんじゃねーよ。

いや、違-な。虎人族に獅子人族の話をすんな。常識だろうが!」


 やれやれといった感じで店主のおやじがジョッキに入ったエールを二杯持ってきた。

受け取って二杯分の金を払う。

こっちの世界の支払いは都度払いが基本だ。

面倒くさいと思ったが、食い逃げ対策でもあると思う。日本だから後払いが許される。

受け取ったジョッキを一つ、イリアの前に滑らせて問う。 


「何だよその常識。初耳だぞ?」


「知らねーのかよ。今までどんな田舎に住んでたんだ?

なら教えてやる。別に仲が悪い訳じゃねーんだけど、あんまり一緒にしない方が良い組み合わせなんだよ。わかるだろ? 何となく似てる種族なのは」


「あー、分かると言えば分かる」


 虎とライオンだもんな。猫系最強はどっちだ? なんて思った事がある奴もいっぱいいる筈。


「別に揉めようって訳じゃねーんだけどよ。獅子人族のあいつには負けたくねぇっていうか。

オレも種族の中じゃ小さいほうだからな。絶対に舐められたくない」


 置いたままのジョッキには手を付けず、そう呟くイリア。

その気持ちも分かる。

ちなみに彼女、170センチくらいあるんだけどね。

それで虎人族女子の身長の平均以下なんだって。

どんだけデカイんだよ、虎人族。


 ちなみにレオンは2メーターくらいある。

デカイというかがっちりした強い女が好みだと前に言ってたな。

というとどんだけデカイ女が理想だ?


 つまり目の前のこいつは対象外。

ふむ、それが悔しいって事だろうか?


「レオンの事が気になる、と」

「ぷはっ!!」


 ちょうど口をつけたタイミングだったようで、口に入れたエールを盛大に吹き出しやがった。

俺の顔に向かって・・・・・・

そうゆうプレイは望んでないんだけど?


「イリア、おまえな・・・・・・」


「おまえが変な事言うからだぞ! 謝んないからな」


「いや、そこは謝れよ」


 汗拭き用のタオルを出して顔を拭いてると、横を向いてごくごくと水みたいにエールを飲んでいくイリア。


「ガブガブ飲んでるけど、ちゃんと宿に帰れるんだろうな?」


「はっ? 宿なんて取ってねぇよ?」


 え? 何考えてるのこいつ? って俺もだな。

冒険者なんてそんなもんっちゃそんなもんだが。

朝まで酒は付き合わないぞ。俺はちゃんと寝てから仕事に行きたい男だ。


「・・・・・・」


 ジョッキを口につけたままこちらを見てるイリア。

こいつ今、飲んでないじゃん。


「何だよ?」


「お前もオレが小さいから駄目だと思うか?」


「俺は別にお前が小さいとは思ってないぞ?」


 俺に取っては170センチもあれば、女性はデカイ部類に入る。

獣人はスタイル良い奴が多い中、肉食動物系はさらにバインバインだしな。

充分デカイ。色々と。大きいは正義だ。


「口説いてるのか?」


「いや、口説いてはいない」


「口説けよ!!」


 突然叫んで切れられた。訳分からん。酔っ払いめ。


「なんなんだお前は」


「お前じゃ無くて名前で呼べ。イリア。

ふん、むかつく。オレなんか眼中に無いってか? どうせ会うまで忘れてたんだろ?」


 はい、忘れてました。

なんて言えないけどね。


「オレは覚えてたぞ? 何度か見かけてる、何度も声を掛けようと思った。

出来なかったけどな。

どうせなら強いヤツがって、気になってたからな。

オレが嫌な奴を、倒せそうな奴が良い。分かるだろ?」


「レオンの事か? 代わりにぶっ飛ばせとかなら断るぞ?

冒険者として負けたくはないが、競って争うつもりもねーよ。

同期の仲間だ。余計な争いはしたくない」


 それが女絡みとか最悪だ。

甘い誘いには乗らん。ん? 誘われてる? のか? これどんな会話?


「別にそんなこと頼まねーよ。自分でやることだし、そもそもそういった感情でもねぇ。

何となく分かるんだよ。獣人としての勘っていうかな。

アイツも最初見かけた時からそうだったと思うぜ、他に何人かいたのにお前としか話さなかっただろ?

今も気に掛けてる。一目置いてる。オレには分かる。

こいつは強くなる奴だって思ってる。


 オレも同じだ。

だからあの日、あいつがお前らに声を掛けるって言った時も反対しなかった。

・・・・・・・オレも、ん~~~。

お前と仲良くしたいと思ってる。あいつよりも、オレとだろって。

けど不器用だからどうして良いかわかんねーんだよ。

結局あの日も話に混じれなかったし、今日だってみんないなくなってやっと話しかけられた。

だから宣言しとく、今日は帰らねぇ」


 誘われてた。しかも獣人の勘か。

男と女なんてほぼ第一印象だし、それは良い。素直に嬉しいが。

帰らないってことは、そういうことなんだろうけど。


「顔真っ赤だぞ。別に仲良くするのは全然構わない。

したくないと言わないが、別にしなくても仲良くは出来るだろ?」


「うっせ、これでも恥ずかしいんだよ。いちいち言うな。

口だけの関係なんて信用出来るか。

ちゃんと全身で向き合う、信頼関係なんてそうやって築くもんだろ。

オレはお前とそうありたいと思った。嫌か?」


 さすがは肉食動物の獣人だ。

随分と男らしい理屈。

 でも確かに冒険者なんて信頼関係が大事だ。

男と女はそれで騙されるパターンも多々ある訳だが。

冒険者同士って言ったら許される気がする。


 嫌か、と言われるとな。


「全然嫌じゃないな。むしろ好みではあるぞ」


「だからいちいち言うなっての」


 なら何で聞いた?

せっかくだしやってみようかな、ルパンダイブ。

一度やってみたいとは思ってた。

こっちの世界でなら出来そうな気がするんだ。ぐふふふふふ。









 ★☆★☆





『システムより奏上。

プレイヤー名 『 アキノ・コウヨウ 』 の

スキル〝房中術〟 の 経験値獲得を確認。

特典スキル〝千早振る天賦〟の効果によって経験値が重複します。スキルの取得条件を達成。

スキル〝精力増強〟 の 経験値獲得を確認。

特典スキル〝千早振る天賦〟の効果によって経験値が重複します。スキルの取得条件を達成。



・・・


・・・・


・・・・・


主神からの許可を確認。

スキル〝房中術〟 及び スキル〝精力増強〟 を次レベルアップの際に添付します』














ここまでお読み頂き、ありがとうございます。


 過去話で書いた

レベル11までの間スキル習得率がアップする祝福の名前を

【〝千早振る天賦〟】に変更しました。


今後とも宜しくお願い致します。

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