第65話 九十 と 百五


「えっ!? って、俺なんか変な事聞いた?」


「自分、あんとき、数なんて数えてないっスよ」

「わたしもです・・・・・・ それどころじゃなくて」


 ホクトとマシロのバカップルが言う。

そこだけ聞いたら本当にバカップルじゃないですかー、やだー。

食いついたのはスキル名じゃなくて数の方かい。


「俺はそうゆう細かい所が気になる性質だから、数はあんまり気にしなくても良いんだけど。聞きたいのはそこじゃなくて、刀術があったかどうかだし」


「私のスキルの数も百五個でした。ですが刀術は無かったです」


 アオバはしっかり数まで確認していたらしい。

となるとあとは最後の一人だ。そのナグモを皆が見る。


「どうしたの? なんか変だよ? 何かあった?」


 アオバが気にして声を掛けている。どうもナグモの表情が暗い。

恋人じゃない、まだ付き合いの浅い同性の俺でもパッと見て分かった。他の二人も「どうした?」「大丈夫?」と聞いている。



「あのさ・・・・・・俺のスキル、選べたの九十個しかなかったんだけど。

三十個づつ、その塊がみっつで・・・・・・」


 三十 × 三 = 九十


 計算は間違っていないな。

ただそもそもの数字が間違っている。


「ん? 塊が三つは同じだったけど。 一つ三十五個スキルがなかった?」


「そうだよ、数え間違えてない? 私も三十五個づつ分かれてたわよ」


 俺の言葉をアオバが肯定する。

ホクトも一緒に頷いているが、お前そもそも数えてないんじゃなかったっけ?

何で頷いてるの? と思って見ると目が合った。何故か自信満々にニカっと笑って言う。


「あー自分、スキルの総数までは覚えて無いんスけど、一番上のスキルの数だけ数えてるんですよ。

弓術以外どうするか結構悩んでたんで。三十五個で間違いなかったッスね」


 一番上という事は武術系のスキルだ。

ホクトは元々弓術系斥候の振り分けをする予定だったが、弓術が一つしか無くて選べるスキルが余ったと言っていた。それでそこだけスキルの数を数えてたのか。

 ・・・・・・どうせなら総数も確認しとけや! 

何て、普通気にしないか。

 マシロが「犬人族・・・・・・」とか呟きだしたのでこの話題もそろそろ切り上げないとだな。

まだ気にしてたのか。そりゃ喧嘩になるだろうな、ちょっとしつこいと俺でも思う。

 そんな事よりナグモなんだけど。


「いや、間違いないよ。三十個が三個の塊で、全部で九十スキルだった。数えたもん、あんときは多いと思ったし、九十個の中から選ぶなんて大変じゃんかってずっと思って選んでたし」


 弱々しく言った。

自分だけスキルの総数が少ないという現実に打ちひしがれているんだろうけど、諦めるのはまだ早いと思うんだ。そこで試合終了だと安西先生も言ってる。


「うーん、今日はこのまま最初に提示されたスキルを覚えている限りリストアップしてみない?」


 四人が頷くのを見て、協力者を作っておいて良かったと改めて実感した。







 ☆★




 かるく数時間かけて話し合った。

ナグモとマシロが地面に指でのの字を書いている。

先程結果が出てからずっとだ。

もしかして調べない方が良かったかも?


「いつか向き合わないといけなかったんで仕方が無いです」


 それぞれの恋人であるアオバとホクトも掛ける言葉が見つからないらしい。


 という結果で分かるように。

最初に提示されたスキル総数が百五スキルだったのが 俺 アオバ ホクト の三人。

九十スキルだったのがナグモ

九十、もしくはもうちょっと少ない、可能性があるのがマシロ


という結果に相成った。

マシロは数を把握してないどころか、最初に提示されたスキルを殆ど覚えて無かった。

なので、判断が難しいというのが結論。


 ナグモとマシロ共に百五スキル組に比べると、リストに無いスキルがいくつかあった。

全部を把握出来た訳では無いが、俺の取った幸運や詠唱時間短縮はその二人の選択肢には無かったと言われた。

 それを所持している事を伝えた俺に、悪人系チート野郎とマシロが呟いたことは忘れないぜ。

以降ずっと、拗ねてるけど。


「どっちにしろこれ以上はもっと、サンプルが必要ッスね」


 ホクトが言う。

確かにその通りなんだけど、まず先に彼女をどうにしかしろよ?

お前の彼女さんさ、最近慣れて来たのかボソッと悪態を吐くんですけど?

魔法後衛系ポジのマシロが詠唱時間短縮スキルが欲しかっただろうという事は分かるから聞かなかった事にするけど。

 ちなみにアオバも詠唱時間短縮スキルは取得しているそうだ。

そのスキルについては今後是非検証したい。

勿論その他のスキルもだ。機会があれば色々調べたい。


 のの字を書いている二人はもうしばらく放っておく。

アオバもホクトも何かを考え込んでいる時間が長くなり、あんまり喋らなくなった。

 ここまで話をするようになったんだし、もうちょっと踏み込んだ方が良いかも知れない。

それをするかを含めて一人でゆっくり考えたい。

時間はもうすぐ22時になる。ちょっと眠いし


「結構長く話し込んだね。さすがに疲れたし、集中力もそろそろ持たなくなる頃だし、今日は切り上げて〝ルーム〟に入ろうか?」


 今日も冒険者ギルド併設の会議室を使っている。

此処を使う時は〝ルーム〟のナイトパックを利用して寝る前提だ。

今の所これが一番安全で、金もそんなに掛からない。

もう少し頻度を増やしても良いかも知れない。話す機会が増えれば分かる事も増える。

会う日は大体アオバたちから言ってきている。

こっちからも積極的に誘うべきか。


 アオバを見ると目が合った。

何か言いたそうにしているのを感じる。多分似たような事を考えているんだろう。

彼女が四人の中じゃ一番思考が似ている気がする。

それもあるから余計に、言い出せなくなるんだよな~、多分互いに。

無言のまま時間だけが過ぎていく。


「秋野さん。情報交換だけじゃなく、これを機会にスキルについて一緒に調べないッスか?」


 そんな中で突然ホクトが言った。

お、お前が言うんかーい。

いや、他の三人の許可を先にとってから言えよ。

色々考えてたのに


びっくりして「お。おう」としか答えられなかったじゃないか。

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