第66話 元日本人 と 現地人
訓練所でクマちゃんパンツの金髪美少女に襲われた翌日も、眠い目を擦りながら日の出と共に起きる。
起きていつも通りマドロアさんと採取に来ていた。
お手伝いには少女を二人連れている。
おとなしめの子という客観的評価はどうも当てにならないようで、連れて行くとそうでもなかったりする。なので、やる気のある子選ぶように変更している。
選ぶ相手には困らない。
というのもどうも俺たちの手伝い、むしろ俺のお手伝いは門にいる冒険者の荷物持ちをしたがる子供の間で評判が良いらしい。
初日に小僧二人に拳骨を落として泣かしたのに?
と不思議に思ったが、行動中に飴を食べさせたり水を飲ませたりしているかららしい。
受付職員のゴンザレスにはあまり甘やかすなと言われているが、塩分・水分の補給は絶対に必要だ。
誰に何て言われようと、連れ回して倒れられでもした方が俺は困る。
他の冒険者は手伝いに連れて行ってもそこまでしないらしい。だが、それはそれだ。
別に報酬を増やしてる訳じゃない、体調管理の範囲だ。ここは譲れない。
おかげで門に行けばあっちから勝手に群がってアピールして来る。なのでその中から選ぶだけだ。
女子しか連れて行かないから周りにどう見られてるかは、分からないけど。
特に男のガキは弾いてるので、嫌な目で見てくる奴が多い。
文句があるなら初日面倒かけた二人の男子に言って欲しい。
最もレベル10になり、ランクが上がれば冒険者一人につき二人まで連れ出せるらしい。
そうなったら重い物を運ぶ時には男子を連れてっても良いとは思っている。
今の所必要無いけど。
薬草が一杯になっても採取カゴくらいなら今まで連れてったどの子も、ちゃんと運んでくれている。なので急ぐ必要は無い。
今日連れて来た二人の女子の採取カゴがほぼ満載になったところで、ソイマンティスというカマキリの魔物に襲われた。
マンティスというだけあってカマキリの魔物、その種で最弱の魔物だ。
単独な上に腹を引きずっているので移動速度が遅い。
なので遠距離から狙い撃ちで返り討ちにした所で、魔石を取って休憩を取る事にした。
連れて来た二人の少女に飴をあげて、カゴをおろさせてしばらく座って休むように言う。
嬉しそうに飴を舐める少女を横目に、マドロアさんにも飴を渡す。
塩分タブレットが本当は一番良いんだろう。けど多分あれは慣れないと食べにくい。
子供でも女性相手には甘い飴の方が良いだろうと判断している。
あとは餌付けの意味もある。
マドロアさんとはもうちょっと親しくしておきたい。
渡し始めた当初は物凄くおっかなびっくり受け取られたが、それから何度か渡しているうちに受け取る事に慣れて来たようだ。
最近は割と近くに座っても怯えていないくらいになって来ている。
そんなマドロアさんを見ると、虐待された犬とか猫を引き取った新しい飼い主の気分になる。
やはり最初は敵じゃ無い事を印象付ける事からだろう。
食事の世話とか、面倒をみてくれる存在には段々気を許すと聞く。
もうちょっとかな?
倒したソイマンティスは魔石以外に取る所が無い。
なので死体は放置して俺も休憩だ。
虫系の魔物は入る経験値が少なく、代わりに日本円は少し多い。リストを作っているとこういった発見があるのも良いところだ。
マドロアさんといると経験値は半分になる。だが代わりに日本円は独り占めだ。
アオバたちのグループとパーティを組んで試した時はどちらもきっちり頭割りになった。なので俺にとって、
「
「・・・・・・・
「そう? 早くレベルを上げたいだろうけど、ごめんね」
彼女がレベルを上げたいだろうことは俺も分かっている。
だが冒険者が二人しかいない状況で無理は出来ない。
子供も連れてるし、安全第一だ。強い魔物が出る辺りは勿論、数が多く群れで出て来る魔物の生息地もなるべく避けている。
逃げようとしても簡単に逃げられない事が問題だ。
俺単独ならある程度は無理が効く。逃げ足は速い上に自分の判断で即逃げられる。
だが連れがいるとどうしても難しい。
そんな事ばっかりも言ってられないが。
そろそろ考えなきゃいけない時期ではある。
昨晩アオバたちと話して、今後はスキルに関しても協力して調べる流れになった。
急な展開で驚いたが、別に悪い話ではない。
だが問題もある。
向こうは四人。こっちは一人。
このまま行くと情報量が釣り合わない。
いずれ 「それってどうなの?」 という話になる。
関係はなるべく対等じゃないと継続しない。上手く続かない。
(現時点で他に差し出す手札が無い・・・・・・訳じゃ無いんだけど)
手帳を取り出してページをめくっていく。
あるページで手を止める。
こちらの世界の文字について書いてあるページだ。
師匠筋に教わったモノを元に、自分で冒険者ギルドにある木札や羊皮紙を読み漁って補足して日本人向けに纏めてある。
これを提供し書き写させれば、見ながらなら多少の読み書きは出来るようになる。
(これが一手。出来ればもう一枚手札を見せておきたい)
さらにページをめくっていき、最新のページに辿り着く。
そこにあるのは全く別の文字だ。
それは先日新しく見つけたモノ。隅っこに隠すように置かれていた羊皮紙に絵と共に殴り書かれた記号のような文字。
(おそらく錬金術について書かれたモノ・・・・・・)
錬金術については師匠筋のサトッカが、次の薬品を教わる前に王都に向かってしまったので止まっている。
最も現状では口伝で、回復薬の作り方を習っただけだ。それでもスキルは習得出来た。
問題はこの口伝だ。
(これが手札になるかどうか・・・・・・)
特殊な技術というのはあまり書き残したりしない。
一子相伝、親から子へ、後継者だけが引き継ぐ技術は重要な飯の種だ。
師から弟子へ、免許皆伝など徒弟制度も同じ。弟子を取り、一部を教えながら利益を得る。簡単に全てを教えたりしない。利用し、勿体つけて引き延ばす。
そんな秘密を誰かに見られた時に、すぐ分かるようには書き残したりしない。
口伝だ。仮に残すなら、分かる奴だけが読めるように難しく記すだろう。
ぱっと見じゃ分からない、特殊な記号や暗号、難しい物言いを多用する。
魔物の出るこの世界では、次代に研究成果を残すのは難しい。
資料室には死んだ冒険者の持ち物も残されていると聞いた。紛れ込んでた可能性はある。
別に違っても構わないし、それでも一応調べておきたいという気持ちが勝る。
(わかっちゃいたが、独りじゃ時間も金も足りない。
スキルの調査に乗っかって、錬金術を覚えてもらうのが一石二鳥なんじゃねーの?)
一緒にこっちの世界に来た二十五人は、最年少でも元は十八歳だった。
全員義務教育は終えている。
どこまで覚えているかは分からないが。
元三十歳の俺が中学で学ぶ範囲が出題するテストを今、受けさせられてもどこまで出来るか怪しいもんだ。
大事なのは点数、でなく勉強したという下地があるという事。
錬金術に関しては元日本人と協力するのがベストでなくてもベターだと思う。
二十五人全員で、なんて流れは絶対お断りだけど。
船頭多くして船山上る、という状況になり兼ねない。
小さな派閥が複数出来て揉める未来しか俺には見えない。
(現役高校生だった四人なら、俺なんかよりよっぽど頭が柔らかい。俺に無い視点で何か気づくかも知れない。
今なら俺が教える側になる。これがアドバンテージになれば手札になるか)
自力で勝手に覚えられてしまえば、その時はもうこちらの手札にはならない。
ただ教えてしまえばそこから、日本人に一気に広がる危険もある。
故にあまり深く踏み込んでこなかった。
(ま、その時はその時で諦めるしかないか。
とりあえずレベル10になるまで味方なら、いくつか教えて広がっても最低限の元が取れる、と考えるとしよう。
仮にその後でティルナ・ノーグが分裂するとして、それが三人と三人に別れるならば)
会いに行ったティルナノーグの残りのメンバー。
王都に残った三人は幼馴染だそうだ。
対し俺の師匠筋の三人は後から合流したメンバーとなる。
お金の問題でトラブルに発展すれば、パーティが割れる可能性は低くないと思う。
俺に八人の協力者がいれば、師匠筋の三人だけはランクが上げられる。
アオバたち四人にそこまで協力してもらえれば、それで五人分になる。
錬金術を教える代償として、安いか高いかは判断が難しい。
だが日本人を錬金術に巻き込んでしまう方が、その先の研究は進むと思う。
こちらの世界の人間をどこまで期待して良い物か。
(学校が無い世界だとな。どうしても個人差が大きい。下地が無い)
目の前の女性を見る。
相変わらず下を向いているが、彼女は味方にしたら多分裏切りはしないと思う。
彼女が協力してくれれば六人目だ。
師匠筋の内、二人はランクがあげられる。
「マドロアさんは文字の読み書きできますか?」
俺の質問に少し固まったあとにゆっくり首を振った。
その表情は暗かった。
言い方が良く無かったかな?
「あ、別に責めるつもりじゃないんです。完璧じゃ無いんだけど多少覚えたので、それを俺が教えますよ? 覚えてみませんか?
で、その代わりに水魔法と土魔法を教えて欲しいんですが、どうでしょう?」
彼女は〝
もう少し話せるようになるためには、互いに何かを教え合う関係になるのが一番良いと思う。
マドロアさんは返事に困っているようで、視線があっちこっちに飛んでいる。
だが逃がすつもりは無い。こちらは目に力を篭めて見つめ続ける。
それでだめならこちらは、もう少し上乗せするチップもある。
風魔法も教えられるし、別に錬金術まで仕込んでも構わない。
別に研究する人間だけが必要とは思わない。
彼女が初級の回復ポーションを作れるようになるだけで大分助かる。
一緒に行動する時に使う分を作ってくれるとありがたい。
そもそもアオバたちに教えたとしても、研究をしてくれるかどうかは分からないのだ。
面倒くさがってやらない可能性はある。ホクトとかな。
それでも作業は絶対手伝ってはもらうけど。
そんな事を考えながら返事を待った。
こちらから視線を外す事はない。
圧力に負けた彼女が頷くまでに要した時間は三分とちょっと。
協力者、ゲットだぜ。
今後はこの時間も少しずつ短くなっていく、と良いんだけど。
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