第72話 露店ぶらぶら ②
「で、『マドクル』って何て意味?」
周囲の男どもを見渡して聞く。
数は4。靴の裏のもう一人いるから合計五人だ。
年齢はどいつもこいつも十代前半ってところ。
顔は若いのに世紀末にバイクで走り回ってそうな髪型をしてる。雑魚キャラムーブですかね?
「『マッドクルセイダース』の略だよ、文句あんのか!」
その中の一人が叫ぶ。
まさかの略称だった。知り合いの名前に似てるから何か意味があるのかと思ったのに。
何となく南斗の方の子分な響きを感じる。
「文句しかないな」
足に力を篭めて言う。
狂った十字軍とかそんな感じか? 異世界の頭の悪いヤンキーの考えそうな名前だ。
五人しかいないのに? 十字軍?
なんか他にも『
こう字面で並べてみるとサムライも大概だな。『
個人的には『
でもサムライってアイデアが出たら反対しよう。
元日本人だからサムライとか短絡的だよな。誰だよ考えたやつ。
「ぎぇ、痛い。でももっと」「キモイ」「ぶひゃ!!」
アホな事を考えてると自然に足に力が篭もる。すると何か言いだしたデブ。
一旦持ち上げてから、虫のように踏み潰してやった。
ゴンザレスからこういった連中の対処は聞かされている。
基本的には〝なめられるな〟だって。
路地裏にはそれなりに悪党が抜根しており、小さく細かく縄張りがあるそうだ。
露店のある通りを一本入ると若いチンピラくずれがよくこうやって絡んで来るとも言ってた。
まさか自分が絡まれるなんて思ってもいなかったが。
表通りに近い所にいるのは孤児とか貧しいガキが大半で、基本的に集金係だ。
本当に悪い奴らはもっと奥の方にいる。
つまりこいつらは雑魚。
「確かぶっ飛ばしても荷物に手を付けなきゃ問題無いって言ってたな。
財布を取っちゃ駄目だが、中身は回収しても問題ない、だっけか。
貨幣に名前は書けないもんだ。
どうせ持ってても献上金だ。上に渡した時に名前なんて書いてあったらどんな目にあうんだか。
最も献上金のノルマが達成できなきゃそれも問題だ。きっとケジメ取らされるんだろうな、可哀そうに」
「俺らに手を出したら」
「冒険者に喧嘩で負けたくらいじゃ上は
上の奴がすんなり出て来るならお前らもっと強気で、稼いでる冒険者を狙うよな?」
「「「「・・・・・・」」」」
「図星か、つまらん」
レベルが上がって、さらに色々上がった能力を対人でも試しておきたかった。というのが素直な本音だ。悪いヤツ相手なら心が痛まない。向こうから絡んでくるならば尚更だ。
というわけで君たち、モノサシくらいになってくれれると良いんだけど。一人をのぞいてガリガリなんだよね。
その一人はもうお寝んねしてるし。
「門では見た事のない顔ばっかりだ」
門で手伝いをするような連中も、貧乏か孤児院育ちだと聞いている。
同じ
子供が
「喧嘩する気なら口で喋ってないで囲めば良いに」
「うるせー、こうなったらやっちまえ」
時代劇かよ、と突っ込みたくなる掛け声だな。
たがその声で、四人は周囲に散らばった。
路地裏を出ると一瞬、露店を出している者たちからの視線が集まった。
共犯かどうかまでは分からないが、路地を入るとどうなるかは知っているらしい。
知って、その上で黙認している、と。
路地裏になんぞに入る奴が悪いって感じかね?
だとしたら仮に露店が襲われてるのを見かけても、俺が助ける必要は無いな。そう、心のメモ帳に書き込んでおく。
俺は儲かったから別に問題ない。
まさかあんなガキどもが2000ゼニーも持ってるとは、ね。
また溜まった頃に来よう。盗賊は資源だってどこかの勇者が言ってたし。
奥に三人ぐらい冒険者っぽいのが転がってた気がしたけど、気のせいだだろうしな。
この所は順調で薬草採取でしっかり稼げている。宿代もかからないようにしてる。
飯代ばかりは仕方が無いが、それでもこっちの世界の
最もそれは使わなかったからで、必要な物を買い始めたら一気に減るんだが。
その必要な物を安く売ってないか、と次の露店を覗く。
元々その為に露店をぷらぷらしていた訳だし。
心無しか露店の店主の対応が怖い客に対するものになった気がする。
その次もその次もそうだった。
それにしても何か忘れてる気がする。
なんだっけ? と思って 振り返ると奴がいた。
「おや、マドロアさん。買い物ですか? 奇遇ですね」
返事の言葉は無い。食パンも咥えてなかった。だが一分ほどかけてゆっくり頷いた。
人通りの多い往来でその対応は迷惑だぞ?
これは返事を待ってると日が暮れる。
「せっかくなんで一緒に回りましょうか」
返事を待たず左手を伸ばしてマドロアさんの右手と繋ぐ。
セクハラ? 後をつけて来てたの彼女だし。ストーカーには何しても許されると思う。
別に文句は言わないだろうし。
「何か探してるんですか?」
返事を待たず一方的に話しかけながら露店を巡る。
手は離さない。強張りながらも素直について来る。
荒療治だけど、彼女の為だ。
嘘だけど。
もう一人がつけて来てるからね。
こうしてればそのうち釣れるだろう。
「む、これは?」
地面に布を敷いただけの上に品物が並べてある露店で気になるものが有り、つい声が出た。
店主らしき無精ひげのおっさんと、マドロアさんが俺を見たのが分かった。
「お、冒険者のカップル、若いけどご夫婦かな? 旦那さんお目が高い。この剣はかの帝国で有名なあの勇者さま、彼が聖剣を手に入れるまでに使っていた剣、それを模して作ったとされているものなんだよ。
若い、これからの旦那さんに是非使ってもらいたい、そんな逸品だ、ぜひぜひ買ってくれよ」
ここぞとばかりに調子の良い事をまくし立てる無精ひげのおっさん。
それって結局なんでもないただの剣じゃんか。しかも中古の片手剣の相場よりかなり高い値札が付いている。
さすがにそれに、騙される奴はいないんじゃないかな。
俺が欲しいのもそれじゃねぇし。
「悪いね、俺
気になったのはこっち。この錆びた奴」
別に槍使いになった訳じゃないけど。
要らんもん売ろうとする奴相手に問答も面倒くさい。欲しいのはそれじゃない。
敷かれた布の隅っこで所在なさげにしているそれ、俺が欲しいのは手斧だ。
持ち手が半分朽ちて壊れ、刀身は錆びて刃も欠けている。そんな一品。
多分薪割りとか枝打ちとか生活用か何かに使われてたのだろうもの。
値札に書かれた金額は2700ゼニー。
「これに2700は無理でしょ。1000ゼニーで売ってくんない?」
「ダメダメ。一見ボロボロに見えるが手入れをすればちゃんと使えるようになるんだから。2500ゼニーはもらわないと」
こちらの世界で、武器の値段はきちんと刃がついていれば最低でも万単位だ。
剣だの槍だのは新品では最低でも数十万するらしい。
銘品はさらにドン、で桁が違う。
前世のように科学が発達していれば、工業製品として大量生産されて多少安くなるだろう。
だがこっちの世界の全て、かどうかまではまだ分からないが、この街では手打ちの限定生産、もしくは少数生産が普通だ。
ナイフだ鉈だ包丁だ、まで少数の手打ち生産では一個当たりの値段は下がらない。
そんな訳で露店で中古品の、さらに投げ売りを探している。
「またまたー、そんな手を掛けるような奴はこんなの買わないでしょ。俺だって砥石もなんも持ってないからそのまま使うだけだし。これでも枝くらいは払えるでしょ。別に駄目でも文句は言わんからさ、1200ゼニー」
「うーん、2200でならどう?」
「いやー1500で置いといても売れないでしょ? もう一声、いや二声」
「うーん・・・・・・・」
店主のおっさんは考え込んでいる。
別にどうしても欲しい訳じゃない。なのでこちらは強気でいける。
正直買えなきゃそれで構わない。鉈でもショートソードでも構わないんだ。
スキルの都合上斧だと有難いけど。
「じゃー1400ゼニーで買うよ」
「何で下がったの? ダメダメ。2100」
「じゃーいいや。要らね。邪魔したね。次に行きましょうか」
そう言ってマドロアさんの手を引いた。
店主のおっさんの視線が背中に突き刺さるのを感じる。
だが振り向かない。
「・・・・・・」
ほれ、引き留めろ。でないと帰っちゃうぞ。
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