第52話 マドロア ①


 勝手な奴ら。

俺の思うそいつらは、数有る選択肢の中から後衛特化を選んだ奴ら。

元日本人で、後衛特化スキルの構成で今後やって行こうとしている奴らを指す。

その中でも特に、俺と同じく単独で神に会い、誰かと相談する訳でもないのに後衛特化を進んで選んだ奴らだ。


 元々日本人同士で話し合った際に、魔法使い系の装備の奴らの多さが引っかかってはいた。

経験値と日本円の入り方が頭割りだと分かった今、俺は後衛特化でスキルを構成している奴らをズルイと思っている。卑怯だと思っている。

 面と向かっては言わないけどな。

それは言っても意味が無い。それぞれが選択肢を与えられ、自分で選んだんだから。

各自の自由でしかない。


 自由なんだけどね。

どうせ魔物と自らが向き合いたくなくてそうしたんだろう、としか思えないんだよ。

俺はそんなお前らの前で盾になって、魔法を撃つまで守ってなんてやりたくない。


 それも俺の自由だ。

どう考えても頭割りじゃ割に合わん。だがこの設定はどうにもならん。

日本人は、スキルを自分自身で選べた奴は、自分で魔物と向き合え、戦えと思っている。


 そう考えたら配られた手札で生きなきゃならない現地の人、それも女性ならまだ・・・・・・

怖くて攻撃魔法が撃てないくらいなら我慢できそうな気がする。

なんで冒険者になった? とさっきは思ったが、多分それしかなれなかったんだろうし。

職業選択の自由なんて無い世界だろうし。


「あんちゃん。話ぐらい聞いてやってくれねぇかな?」


「話くらいは良いよ。けど顔を合わせてから考えるよ?」


 女オークみたいなのなら同情できないし。会って向こうが嫌って言う可能性もある。


「がははっ、あんちゃんも男の子って訳か。そこは安心して大丈夫だぜ?」


「いや、会って泣かれたらそこで終わりにするから、って意味だからね。

あと最低限の意思疎通は出来ないと無理だよ。話にならなきゃ切り上げるから」


 それでも薬草の採取で貢献してくれるなら、別に無理に会話をしなきゃ駄目だとまでは思わない。

〝錬金術〟の方は今後基本の薬草を大量に使う予定がある。

作った回復ポーションも買い取ってもらえるようだし、多く手に入る分には大歓迎だ。

だから無理に仲良くしてくれなくても良いんだけど、イエス / ノー くらいは答えて欲しい。


「わかったわかった。んじゃー泣いてはいないから、話を聞いてやってくれや。後ろにいるからよ」


「はぁ?」


 振り向くと受付カウンターから少し離れた所にいた女性職員が頭を下げた。

その職員に隠れるように杖を持った女性がいた。

魔法使えないのになんで杖持ってんの??







 ゴンザレスに呼ばれて女性職員と女性冒険者がゴンザレスの受付にやって来た。

女性冒険者の方は背があまり高くない。百五十センチくらいかな。

前髪が長く目が隠れている。大丈夫って言って無かったっけ? 可愛いかは分からない。

あぁ、可愛いとは言われてないのか。


 女性職員が挨拶をして、そのまま説明を始めた。

その間も女性冒険者の方は彼女の陰に隠れている。


 こりゃ結構重症かもなぁ。せめて挨拶くらいはして欲しい所だ。


 名前はマドロアさん。年齢は俺より一つ上の十六歳だそうだ。

正確には十四も歳下だけど。俺の中身は三十歳のおっさんだ。

となるとここは俺が大人になるべきか?

 レベルは6。

 登録したのは約半年前で、そこで魔物に向けて魔法を撃てない事が発覚。

いくつかのパーティで試してみたが、一向に良くならなかった。

ここ数ヶ月は単独ソロで薬草の採取で生計を立てていたらしい。


 此処までは分かった。その後でちょっと引っかかった。


「レアケースではあるがこういった子もいなくはありません。普段なら本人が割り切れるまで時間をおくべきなんですが」


「気の弱ぇ子を放っておくと、調子に乗ってる奴らに目を付けられるからな。出来れば何人かで固まってて欲しいのが冒険者ギルド職員の気持ちなんだよあんちゃん」


 女性職員とゴンザレスが続けて言う。

小中学校の同級生で、男子に意地悪されて泣いてた女子を思い出してしまった。

なんでかそんな子に限って目を付けられるんだよね。


「・・・・・・調子に乗ってる奴らってやっぱ男?」


「あぁ。だから色々心配なんだって言われてな」


 そりゃねぇ。泣くのはいつも女だ、なんて言葉もある。

やっぱり一人称が「俺ちゃん」だったりするのかなぁ。

あの一族は気の弱い女を狙って食い物にするのが得意だ。

昔やんちゃ集団の関係者を無理矢理押し倒強姦した事がバレて、集団リンチにあってるんだけどな。

転生したから忘れちゃったんだろうか? そもそも学習してないんだろうなぁ。思考と性欲が直結してるから。違うか、思考が飛ばされて性欲が行動に直結してるのか。カスじゃん。


 ・・・・・・なんか此処で見捨てると彼女がアレカスに狙われる予感しかしねぇ。


「ん~、さっきも言ったんですけど、意思疎通が出来ないと無理ですよ。

人見知りなのは分かりました。それは良いですよ。

でもせめて頷く、首を振るくらいはしてくれると約束してくれないと無理だ。いま、それを約束してくれるなら頷いて欲しい」


 向こうはどうでもせめて、こちらは真っすぐ見てやろうと思う。

少し前に出て視線を合わせて言った。


 ・・・・・・・ぎぎぎぎぎ、こくん。

たっぷり三十秒ほど掛けて彼女の首が縦に動く。

うーん、微妙。だがここはおまけでオッケーにしておこう。


「分かりました。意思疎通をする意思はあるという事で。

今後無理に話さなくても良いから、聞いた事にはそれで返事をしてください」


「あんちゃん、ありが」

「いや、まだだよ。今後はそれで良いけどね、今は確認しておかないと。

時間を掛けて良いので、自分が何を出来るか教えて欲しい。自分の言葉でね」

「あの、それは私が説明しま」

「それは駄目。本人に何が出来るか教えてもらわないと」


 ゴンザレスと女性の職員を目に力を篭めて強く見、それから言う。


「マドロアさん、他人が言った事をあなたが出来ても仕方が無いですよ。逆に言った事を出来ないと信用問題になる。

あなたが出来ると言った事を、俺はあなたにお願いします。ゆっくりで良いですから教えてください」


・・・・

・・・・・

・・・・・・

・・・・・・・


        薬草が見分けられて




          補助魔法が使えます



 おっと、薬草の採取以外に出来る事あんじゃんか。

なら別に組んでも良いんじゃないかな。

魔法が使えないんじゃなくて攻撃魔法が使えないんだっけか?

補助魔法次第だけど。



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