第51話 荒事担当


「おっとこんな話をするつもりじゃなかったぜ。コウのあんちゃん。このあと少し時間あるか?」


 思考の海に沈みかけていた俺は、ゴンザレスのおっちゃんの声で意識が再浮上した。


「あるけど、その話はいいの? 俺に言われても何も出来ないんだけど」


 俺に何かされない限りは、だけど。


「ガハハハッ、そのうち怖ーい先輩にガツンとやられるだろう。それでも変わらなきゃ俺がやるさ」


 そう言えばこの強面は荒事担当だったか。

ならば問題あるまい、俺が関係無い事は彼が良く知っている。


「俺に飛び火しなけりゃいいから、きつめにお仕置きしてやってよ」


「がははっ、一緒になって他の冒険者に迷惑かけなきゃ大丈夫だぜ」


 さすがにそれは無い。元三十路のおっさんには恥ずかしくてちょっと敷居が高いオラつき具合だよ。

やってる奴も多分同い年の奴っぽいんだけど。


 気にしても仕方が無いので話を促すと、彼の担当する受付で話をする事になった。

立ち話で済まないとなるとちょっと長くなるのかな?

仕方が無いので移動し、彼の前の椅子に座った。


「で、あんちゃん。商人ギルドの方もでも何か調べてたみてぇじゃねぇか。登録したばっかだってのにもう商売替えか?」


 おっと、もう知られてたか。別に登録しに行った訳じゃなく、調べものに行っただけだ。

その言葉以上の意味はないんだが。


「随分耳が早いね。何が問題か、どこまでなら無許可で出来るのか知りたかっただけだよ」


「んー、露店でも出したいのかよ?」


「それも含めてどこまでならやって良いのか悪いのか。現行法ルールを知らないで捕まるのはアホらしいじゃないか」


 知りませんでした、って言い訳で許してくれれば良いんだけど。

そう言って許されるのは偉い人だけだ。一般市民はそれじゃ許してもらえないのを知っているからねぇ。

確認して、問題にならない手段を探しているだけだ。


「冒険者を辞めるつもりつもりはないんだよな?」


「将来は兎も角、いますぐは辞めないよ? 登録したばっかじゃん」


 天罰喰らいかねねーじゃんか。こっちの神に連れて来られたんだぜ俺ら。

ルールを守って七日に一度ちゃんと魔物と戦っていれば問題無い気もするけどねぇ。

最初に誘導されて登録させられた訳だしさ、登録して直ぐに辞めるのはマズイ気がする。


「なら良いんだけどな。あんちゃんは〝錬金術〟のスキルを取ってるだろ? あれってレベル一桁の奴が取れるようなスキルじゃねぇからな」


「そうなの? 教わった手順通りに作業して作るだけだと思ったけど」


 それでも〝錬金術〟スキルはベースレベルが3の時には習得出来ず、レベル4でやっと習得出来たスキルだ。

やってると飽きて来るので雑になり、だから駄目なんだろうと思っているくらい単純作業だが。

初級の回復ポーションを作成する手順はそこまで難しくなかった。


「〝錬金術〟はまず魔力が要るだろ? ここで魔力の無い奴は無理だ。

で、教わった手順って言うがよ。それはあんちゃんがティルナ・ノーグに弟子入りしたから分かるんだぞ? その中でもサトッカ・リリーに教わったからだろ? 他の五人は出来なかった筈だし、冒険者に弟子入りして錬金術を教わるなんて稀だかんな?」


「あー・・・・・・・なるほど」


 そういやただの人外だと思ってたけど、すげー人外だったわ。ロリ人外。


「そんなあんちゃんに提案があんだけど、多分だがレベル上げよりスキルの習得を優先してるんだろ?」


「そうだけどさ、提案は何?」


「まぁ聞けよ。今後もスキルの習得が優先で、今日も薬草の採取に行こうってんだから〝錬金術〟のスキルレベルを2にしたいんだろう?

つまり当面はパーティを組んだりする気はないって事だよな? 下手に組んじまったら自分で錬成する用の薬草なんかが集まらない。あんちゃんはそれが困るって訳だ」


 優先したいのは〝錬金術〟じゃなくて〝影魔法〟なんだけどね。

だが、薬草が必要なのはその通り。

作った回復ポーションを高く売りたい。だから商人ギルドにも調べに行った。薬師ギルドの管轄だった。

orz


 そしてレベルもまだ上げたくないのはその通り。あくまでも現状はスキル習得が優先だ。


レベル10までは割と簡単に上がるらしい。

レベル15までも頑張れば上がるらしい。

レベル20まではパーティメンバーが悪く無ければ問題無いらしい。

20を超えると結構大変で急に上がりにくくなる、というのが今の所調べた限り。

弱い魔物を倒しても経験値が入らなくなるとか何とか。この辺もまた要調査。

相応に強い魔物を倒さなければレベルが上がらなくなる、ならばその度調べ直しが必要だ。


 その時に必要なのは何か?


 答えは才能です。

人外の人らはその壁を軽々超えて行ったそうで。


 全く参考にならねぇんだよ!! あの人たちのその辺の話は!!

だから自分の足で調べていて、その上で情報交換を持ちかけたりしている。


「そこで元冒険者の先輩であるゴンザレスさんが提案をしてくれると」


「正確には俺じゃねぇんだけどな。

ちょっと訳ありなんだけど、人を紹介したいんだってよ。薬草の採取は上手いからあんちゃんと組めば、って話を振られてな。

あんちゃんの採取はかなりへ・・・・・・いやまだちょっと甘いだろ?」


「気を使わなくていーよ、下手なのは自覚してるし、どうにかしたいとは思っているけど。なかなかなね」


「急に上手くなる方法はねーよ。だが上手い奴と組むって手段がある。

組めば勉強にもなるし、買い取り額も上がるだろう。あんちゃんが作って売ろうと思ってるだろう回復ポーションの品質も上がるんじゃねーか」


 なるほど。確かに悪くない話に聞こえる。

薬草の採取なんて始めたばっかりだからね。なんとかやっているって感じなのは実感している。

一週間やそこらで格段に上手くなったりはしない。だが、


「訳ありを詳しく」


「おう、まず極度の人見知りだ。特に男とはろくに喋れない。目も合わせられねぇ。俺なんか初めて会った時は泣かれたくらいだ」


「それは駄目だろうに。俺も目つきが悪いと良く言われるぞ」


 ブレザー学生服組も、それも男子の方が軽くビビってたくらいだ。

高校に入った時も目つきが悪いと先輩に目をつけられた。こっちは何にもしてないのにな。

中学の時の担任には目の仇にされていたくらいだ。

ゴンザレスほどじゃないとは言え、強度の人見知りを俺なんかに紹介しちゃ駄目だって。


「次に魔法を使えるんだが、攻撃魔法が使えない。

覚えられないんじゃなくて生き物に向かって撃てないんだ。それが魔物でも、なんで困ってる」


「聞けよ。つーかその子、なんで冒険者になった」


 魔物と戦えって言われて冒険者にされた俺たちに言っちゃ駄目な奴じゃん。

まだ一週間とちょっとだぞ。

魔物と戦う事に、葛藤している奴はいくらでもいると思う。先日マシロとナグモもちらっとそんな事を言ってたし。

俺?

とっくに割り切ってるから気にしないよ。やんなきゃやられるだろうし。

だったら殺られる前に殺る。

俺以外の誰が死んでも、俺は死にたくない。


「そんな訳であんちゃんとは相性が良いような気がするらしい」


「どんな訳だ。説明になってないって」


「それを判断したのは俺じゃないからな。他の受付の職員だ。女の勘らしい。

ちなみに俺も言われてみれば、悪くないかもなって思ったから話を振ってるぜ。

その嬢ちゃんは魔物と戦えないから、魔物が出る場所には薬草を採りに行けない訳だ。

だが他人の命なんて何とも思わないあんちゃんが一緒にいれば問題無い! だろ? な?」


「俺を殺人鬼みたいに言うのは問題だろうに」


 そこまでは思ってないぞ?

知らん人間が死んでも多分気にしないだろうってだけだ。

そもそもこの場合魔物の命なんて、と言う場面だろうに。


「がははっ、勿論そこは冗談だ」


 ゴンザレスはそう言って楽しそうに笑う。

なら良いけどね。俺も本気で言ってるとは思って無いし。こっちに来てからの付き合いで、ちゃんと冗談を言える程度の関係を築けているって事だしな。


「嬢ちゃんって事は女性か。

うーん、その内容だと・・・・・・女性ならまだ、許せるか」


「ふっ、あんちゃんもか? 俺も野郎がそんな事言ってたらぶん殴りたくなるな」


「うんうん。甘えてるんじゃねぇ! ってな、ぶん殴りたくなるわ」


「がははっ、全くもってその通りだぜ、気が合うなあんちゃん」


 実際に魔物と戦うようになって余計に思う。

その子にも勿論(ふざけんな! 甘えた事言ってんじゃねーよ!)と言う気持ちがある。

でももっと勝手な奴らをいっぱい見てるからなぁ。

こっちの世界の女性ってなんならそれで苦労して良そうだし。

会って考えるくらいは・・・・・・いいんじゃないか。

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