第69話 ぶっ壊れ始めた日


 夕方ちかく、薬草の採取が終わって冒険者ギルドに戻り、受付で今日の分の清算を終えた。


「ほれ、あんちゃんはこれでレベル6か。おめでとさんだぜ。

最初から色々おかしい奴だなとはあ思ってたけどよ、ここに来て一気にぶっ壊れが進んできやがったな」


 最後に俺の冒険者証を返しながら受付職員のゴンザレスが言う。

その顔はいつもの豪快さは無く、ちょっと呆れた感じが浮かんで見える。

その扱いは酷い。


「きっと教える人が良いからだよ」


「あんちゃんの師匠のティルナノーグの連中はまだ帰って来てねぇだろ?

なのにどうしていなくなってから水魔法、火魔法、土魔法に、回復魔法まで覚えてるんだよ? あんちゃんは一体誰に何を教わってるんだっての! 魔法は訓練所で習えねぇだろ!?

その上今回だけで何個スキルを得てるんだって話だ。」


 なんて叫ぶゴンザレスの言葉を一緒に聞いていたマドロアさんは、物凄く困った顔をしていた。

別に師匠が良いとは言ってない。

教える人が良かったと言ったんだ。

横の困った顔をした女の人が犯人の一人だ。教えてはやらんけど。


 ちなみに今回獲得した、若しくはレベルが上がったスキルの総数は十二。

マドロアさんも、手伝いに連れてった女の子二人もレベルアップエフェクトを見て凄い顔をしてた。



 水魔法をマドロアさんとマシロから。

 土魔法をマドロアさんとホクトから。

 火魔法をホクトとマシロから。

 回復魔法をアオバから教わった。


 マドロアさんと教え合う約束をしてから三日間、昼も夜も無く頑張ったかいがあった。

勿論しっかり薬草の採取には行っている。

昼はマドロアさんと魔法の訓練をしながらお仕事。


アオバたちともちゃんと話をして、

「スキルについて調べるなら、先ずは自分たちが覚えているスキルから見直さないか?」

と話してみた所、納得してくれた。

色々話合って、覚えているスキルを教え合う、そんな流れに上手く持って行けた。

毎日夕方には四人と合流して訓練所へ連れて行き、夜は一緒に部屋を借りて夜遅くまで魔法の訓練を頑張った。


 なので試しているのは俺だけじゃない。

アオバたち四人には今回、武器の使い回しが利く槍術と杖術を試しに習ってもらっている。

向こうも今日レベルが上がるように調整しているのでこの後合流して確認する予定だ。


 今回ちゃんとその二つのスキルを習得出来ていたら、次は片手剣術を習ってもらう事になっている。

ナグモが初期装備で片手剣と盾をもらっているので、次は俺も一緒に行ってそれを借りて順番に戦ってみる。

槍は誰も持ってないので、俺の持っている棒を使ってもらっている。

もし今日全員駄目そうなら使う武器から見直し。槍を手に入れてからやり直しだ。

その場合俺は何でスキルを取れたのかを、洗い直さなきゃならん。


 並行してナグモは俺と同じ魔法の練習もしている。

ナグモは魔法系のスキルの素養を何も持っていない。自分は前衛と割り切っていたので買わなかったらしい。

なので俺と同じことをやって覚えられるかどうか、という実験も兼ねている。


 同じくホクトとマシロもアオバから回復魔法を。

アオバは火魔法と土魔法を二人から習っている。

どれも素養を持っていないスキルだ。


 この辺は俺一人じゃ絶対に出来ない実験なのでとても助かる。

俺はスキルの素養を全部持ってるからね・・・・・・


 勿論俺も素養を持ってないスキルの名前を聞かれている。

答えられなかったけど。

今後とも基本的なスキルは素養で押えてある、で通すつもりだ。

というか、そうとしか言いようが無いし。

イヌミミの誰かさんに悪人顔チートオールラウンダーとかまーたボソッと言われたけど。

真実だから否定出来ねぇ・・・・・・



「んで、あんちゃんはこれで〝影魔法〟は使えるようになりそうか?」


「うーん、まだ多分無理かな。思い浮かべても何も出て来ないし」


 火属性の攻撃魔法ならファイアアロー

 風属性の攻撃魔法ならエアハンマー


 と言った感じに習得さえしてしまえば、覚えていて使える魔法の使用方法が脳内に自然に思い浮かぶ。

だが影魔法だけはまだ使用方法が思い浮かんでこない。

なのでまだ解放されてないのだろう。


「ただあと数ピースって感じはするんだよね」


「んん? ピースが分かんねけどもうちょいって事か?」


「そうだね、あと二つか三つか、それとも四つか五つで埋まる、って感じがしてる」


「おいおい、全然違うじゃねぇかよ」


 ピースでは通じなかった。

パズルはこっちの世界に無いのだろうか?


 確かに二と五じゃ大分違う。

だが四属性魔法を覚えた事で大分、影魔法という絵の輪郭が大分浮かび上がって来ている感じがする。

 パズルに例えたのはこれが理由だ。まだ虫食いだが、全体像がうっすら見えて来た。

火水風土の四属性魔法 に 他のスキルがあといくつか必要。

これが〝影魔法〟の解放条件だと思う。

 そしてこれが本能的に分かる、というのが才能なんだろう。

スキル欄に載っているのに使えない、なのに持たされた理由が多分コレだ。


「何となく直感だけど、斧術がクサイんだよね」


 その上で、多分こーいった感覚があるのは大事だと思う。

わざわざ持ってこさされたスキルだ。普通にやってたら手に入りにくいんだろう。

ここからは狙って動かないと難しい気がする。


 一応理由もある。 

影魔法を使えるようになると使える攻撃スキルは〝シャドウダーツ〟

影魔法の初期攻撃魔法スキルで、こいつのせいで外れ扱いされているスキルだ。


 読んで字のごとく〝ダーツ〟だ。

投擲術スキルと短剣術スキルは解放条件に入ってる感じがする。

多分槍術もだ。

となると、あと投げそうな武器だと斧術だろう。

まだ投げ斧は練習していない。やっておくべきだろう。




〝シャドウダーツ〟スキル

 こいつが外れ扱いされる理由は大きく三つ。


・当たってもチクっと感じる程度しかダメージが通らない事。

・無から生み出す事は出来ず、自分の影から引き抜かなければならない。

・発動しても魔力では発射できず、自力で投げる必要が有る。


 魔法は基本詠唱が必要で、スキルを習得するとそれが脳内に浮かぶようになる。

四属性魔法の攻撃魔法スキルなら、魔力を篭めながら詠唱を行えば完了と同時に発現する。

エアハンマーなら空気が自身の前に集まって塊になり、真っすぐに飛ばせる感じだ。


 だが影魔法は詠唱を行いながら自身の影に魔力を篭めて、そこから影の矢を引き抜かなければならないらしい。

そしてそれを自分の力で投げないと飛ばない。相手に当たらない。

上手く当たってもチクっと感じる程度の痛みしかない。


「控えめに言っても外れだよね」


 実際に文字に起こして見ると大外れだと思う。


「ん? あんちゃん、何の話だ?」


「サトッカさんとクレアさんから聞いた影魔法の話。

リーダーの人が使えるらしいじゃん。殆ど使わないみたいだけど」


 ゴンザレスは小さく「あぁ」と言って腕を組んだ。

多分なんて言おうか考えてるんだろうが、気を使わなくて良い。

そりゃこんなスキルならリーダーの人も使わないだろうさ。

自分でも意地になってるところがあるのは自覚している。

だがここまで来たらね。やらずには先に進めないのだよ。


「斧か。買う金はあんのか?」


「んー、正直厳しいな。これから錬金釜も借りる予定だし、いくら稼いでも出ていく一方だ」


 錬金術スキルを教えるためには錬金釜という魔道具が必要だ。

今まではサトッカさんの物を借りて使っていた。


 だが、今はお出かけ中だ。持ち運びできる物は持って行ってるし、拠点に予備が有るがそれも駄目だ。

俺よりもっとティルナノーグと関係の無いアオバたちを連れて拠点に入り、錬金釜を使うのは後で問題になりかねない。


 ではどうするのか? と言うとレンタルしかないだろう。

魔道具といえど道具なので、金さえ払えばどうにかなる。

幸い冒険者ギルドのデカイ所なら錬金釜の置いてある施設を借りられるとの事。

ここの冒険者ギルド支部は近隣では一番大きいので、設備があるのは確認している。

 ただ問題もある。使用料金が高いのだ。

そもそもレベル10以下の駆け出しが使うような設備じゃないし。

なんで座学が先だと考えている。今は教える内容を先に纏めている所だ。

やりながら説明、とかしてたら時間と金ばっかり食ってしまう。

貸し設備はだいたい時間貸しが基本だしな。

先に一通り教えて、それから実地だ。


 そんな訳で今は装備は後回しだ。

最もメインウエポンを何にするかを決めた訳じゃ無いので、金があっても斧は買わないが。


「ん~斧を持っている魔物になら、俺ぁ心当たりがあるぜ」


 あちこちに視線を向けながら、首をひねりながらゴンザレスが言った。

ふむ、前に言ってた魔物から奪っちまえって奴か。


「武器を持った魔物ってレベル的に厳しいんじゃなかったけ?」


 武器を持つ魔物がどんな魔物かと言うと、基本的には二足歩行の魔物だ。

足で立ち、手に武器を持っている。

尚、ケンタウロスなどは置いておくことをする。基本的に、な。

道具を使えるという事はおつむも多少は回るという事になる。

弱い訳が無い。


「普通の新人なら教えねぇけどな。あんちゃんならぶっ壊れてるからよ。多分行ける」


「それはそれは、評価されてるんだか無いんだか。褒められてる気がしないぜ?」


「褒めてるぜ? 元冒険者だった俺だから出来るアドバイスだと思ってくれ。

ただ教えるには一個条件をつけたい」


「マドロアさんも連れてけって話?」


 俺がそう答えると、ゴンザレスは凄く驚いた顔をした。

そりゃ横にいる彼女をチラチラ見ながら愉快そうに喋ってればね、誰だって察しが付くっての。

お節介おじさんめ。別にいいんだけどさ。

元三十歳。そろそろ色が欲しい、とは思っている。

ここ数日カップルと過ごしてたからかな。ちょっと当てられた自覚はある。

魔法の練習中にイチャイチャしやがって!




「聞いても根拠が無ければ行かないよ。だから聞かない」


 残念、女連れで無茶なんて危ないじゃないか。

生粋の十代なら女の前で無茶するのが格好いい、とか思っちゃうかも知れないけどね。

そんなガラスの思考をする時期は終わっている。前世でな。


「がははっ。あんちゃんは察しが良いな。それでいて手堅い。だから教えても良いと思えるんだ。

根拠はある。それだけでも聞いとけって。

そいつらは〝魔法に弱い〟 な、どうよ?」


「どうよ? って言われてもな。うーん、やりようによっては? になるかも?」


「かなり細かいところまで、そいつらの情報は俺が教えられるぜ」


 そう言ってゴンザレスはニカっと笑ってサムズアップした。

いや、怖いんだけど? マドロアさんが今日、いやここ最近で一番怯えてる気がするんだけど?


でも、何それ、ちょっと。

いや、結構気になる。

んーだけど・・・・・・

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