第111話 コップの中の嵐 ③


 日本人は総数二十五名。


 そのうち回復職のヒーラー装備をもらっている者が一番少なく

道明寺、アオバ、ござる、サクマの四人。


 前衛は前述の通りここにいる四名と、プラス一名で合計五名いる。


 二十五名から四名と五名を引いた残りの十六名は、なんと全員が魔法使い系の装備をもらっている。

最初から多いのは気づいていたが、数えて正確な数を把握するとやはり驚く。

偏りすぎだ。


「断っておくが、この流れで日本人全体が纏まったとする。

で、前衛装備を持ってる奴は他の手伝いに、って話が出たらまずヌクトウを行かせろよ!! って騒ぐからな」


「お前・・・・・・それはないだろう、酷く無いか!?」


「嫌ならそうならないように説得しろよ」


「くっ・・・・・・」


「ま、まだそうなると決まった訳じゃねぇよ。あくまでも俺の想像だ」


 ヌクトウは酷く嫌な顔をしたが、何も答えなかった。そして缶ビールを一気に飲み干してクシャっと潰す。俺は部屋の真ん中に置いてある缶ビールから一つ取ってヌクトウの前に置いてやる。

そしてついでに自分の分ももう一つ取って、飲みかけを同じく一気に飲み干した。



 この話には少し誤りが有る。俺は区分けすれば前衛ではなく最初は中衛だった。

だが今はある程度応用が出来てる。後衛も出来るだろうくらいにはなっている。

勿論最大火力という面では劣るだろうが、出来る出来ないなら出来る、と答える。


 同じく前衛だったナグモも魔法を覚えたので中衛くらいの位置でも動けるし、リサリサも魔法を訓練中だからいずれ同じ、となるだろう。

 これと同じように魔法使い系の者の中にも応用の利くスキル取りの奴はいる筈だ。

例えばエルフは三種類から選べたが、どれもスキルバランスの取れた魔法剣士系だった。


 そのエルフは日本人の中に結構な人数がいる。

なので魔法使い系装備をもらっているからといって、前衛スキルを取ってないとは限らない。


 そんな細かい事を、いちいちヌクトウには言わないが。

さっきの話を持って帰って欲しいし。


 そして特にこちらからは絶対教え無い、で一致しているのがマシロ、ホクト、サユリんの魔法系装備をもらった者が既に前衛スキルを覚えていること。

これは回復職のアオバとござるも同じだ。


 知られたところでレベル上げの協力をしてやるつもりは無い。だが知らないならそのままで良い。


『自分にも教えてくれ』


ではなく、


『出来るんだったらやれよ』


 と言って来ると予想しているからだ。

これはチームジャパンだけでなく、他のパーティも言って来る可能性がある。

 マシロと交流のあるサクマのパーティですら 前衛1 回復支援1 後衛2 という編成だ。

現状では問題無いのだろうが、バランスを考えれば悪いと言える。

前衛はいても困らず、歓迎されるだろう。


 そしてそれと同じ編成なのが目の前のヌクトウのパーティだ。


「お前さ、本当に分かってる?」


「ああ、分かってる。そのままでは受け取らないが、ちゃんと考える」


「違う、そうじゃない。お前さ、俺がずっと一緒にいて良いのか? 本当にパーティに入って良いのかよ?」


「どうゆう意味だ? 俺は別に・・・・・・・」


「本当に良いのか? 別れたままなんだろ? タカノと。

間違いが起こるとしたら、近くにいる奴だぞ?」


「お前・・・・・・!!」


 ドン! とビール缶を置いて、ヌクトウが目を見開いた。

分かりやすい男だよ。


「怒るなよ。俺はしないし、するつもりは一切ない。だから近くにいない方が良いって言ってるだろーが。

最初から俺は入れない方が良いんだよ。おまえらに必要なのは俺じゃない。そうだろう?

入れるとしたら女性の前衛冒険者じゃないのか?」


 それも現地人が理想だ。だがそこまでは教えてやらない。

経験値の分配やレベルによる減少まで把握しているかは分からないが、日本人四人を五人にしたいと思っているということは、多分正確には把握していないだろう。

 それにタカノとヌクトウは別れているとはいえ、女が入ればまた別件で揉める可能性がある。

なのでこいつらは、四人だけでずっと過ごしていれば良いのだ。


 そこに行き着く為にも、少し自分たちで考えて欲しい。



「・・・・・・参加条件の事なんだが、どうにか譲れないか?」


 少し間が空いて、ヌクトウは言った。


「それは無理だな」


 即答で返す。

今回の件の参加条件を、三つだしている。

そのうち二つは至極当然の事、一つは俺が情報を探るためのものだ。

こいつらは俺が情報を探るためのものについて文句があるのではなく、当然のことについて文句を言って来ている。


「話は聞くけど治療は手伝わない、なんて無理に決まってる。どうしても嫌なら参加するな。他の参加者も治療しないって言いだしたらこの話は成立しないんだよ」


 俺の回復魔法だけでは完治しないこと。なるべく大勢の回復魔法の使い手が必要な事を伝えると、ヌクトウは渋い顔になった。

こんな説明が出来ないくらい、顔を会わせるとゴタゴタする。

なのに治療が終わった後に、全員で話す場を設けたいらしい。だからどうしても参加したいんだそうだ。


「その感じだとまだ治ってないんだろう? それを理由に不参加にしてくれよ。その為にわざわざ明言してるんだからさ」


「お前・・・・・・覚えてたのか? チッ、なら何とかしてやろうと思わないのか?

言っただろう。こっちは今後、日本人の中で、仲間外れみたいな形を取りたくないんだよ」


「おいおい、話は聞くけど何もしない、それで他の参加者が納得すると思ってるのか?」


 向こうの都合は分かっている。だからと言って特例は作れない。


「何度も言うが、別に俺はやらなくても構わないんだ。治療したいのはチームジャパンの都合だ。

勿論その場合、話し合いにも参加しないけどな。どうせ話をするのはチームジャパンだろ? どんな話になるかなんて想像つく。なんなら先に聞かせてやろうか?」


「ああ、そこまで言うなら聞かせてみろ」


 面白く無さそうな顔をしながらも、ヌクトウは食いついた。

これは先に言っておきたかった。でないと後出しじゃんけんになる。


「まずさっきも言ったレベル上げの手伝いだろ。だがそこがすんなり行かないからな。だとしたら交流を深めようとかそんなとこだろ。たまに全員一緒に飯でも食おうとか言いだすだろうな」


 先日来た時もシチューに拘っていた。それを持ちだすんだろう。

日本人には食わせてくれないのかーってな。これはマシロがいるから今は言わないが。

結局あの日以来、マシロとは口を聞いていない。


「断言しても良いが、提案だけだぜ? 自分たちが用意するとは言わないだろう。

それどころか高確率で、自分たちのアイデアだから準備は他の人に任せるとか言いだすと思う」


「・・・・・それは分からないだろう。もしかしたら奴らが率先して作る、かもあるかも知れんだろ」


 少し考えた後にヌクトウは言うが、これは自分もそう思ったけど同意するのも癪なんでカウンター意見を言っただけだろう。


「えっ!? お前、あいつらが作ったモン食えるの?

仮に奴らが作ったとしてもだ。何が入ってるかわかんねーから、俺は食えないぞ。

その場合作る所から見張ってなきゃならないから面倒なんで、それも御免だ。そんな人間関係なのに、一緒に飯なんて食えないっての」


 俺には勿論、女性陣の食事に何が入るか分かったもんじゃない。

毒見だの、その場は食べないで誤魔化すだの、やってまで一緒に過ごしたくない。


「食事繋がりで行くと、次は露店だろうな。日本食は売れるとか言い出しそうだ。

これも同じくだ。自分じゃろくにやらないで丸投げだろう。高確率で女の仕事だって言うと思う。

それどころかオーナー気取りで引っ掻き回すと思う」


 リサリサ辺りを店員にさせてセクハラ指導とかね。

あそこの一族はセクハラがお得意だからな。最も別にオーナーでも無ければ、店長でも無い。そして一緒にやる気もないが。


「ちょっと違うかも知れないけど、結局あの手この手でレベル上げの手伝いをさせようとしてくると思う。他に可能性があるのはシャッフルなんだけど、これは何故か四人に拘ってるみたいだから言わないかも知れない。言われても迷惑だからそのままあそこは固まっててくれりゃいいんだけど」


 リサリサが抜けた後に、奴らはメンバーに変動がない。

シラトリが抜けたという話なので誘うかと思っていたんだが、それもなかったようだ。

 ただ実際にメンバーを入れ替えてやろうと言われても、無理だがな。

俺のパーティの、日本人は俺だけだ。

日本人だけでパーティを組んでる奴だけでやってくれ、とか言ったらマシロ以外も怒りそうだ。


「あとは合同依頼レイドだろ?」


合同依頼レイド? 何だそれは?」


「あれ? ここで惚けちゃう? おいおい、そりゃねーだろ」


 狐野郎もサクマも、ゴブリンの巣討伐依頼の事を知っていた。

それがあって接触して来たんだろうと思っている。良いタイミングだったんだ。

特にチームジャパンは、合同依頼レイドを積極的にやっている新人冒険者のグループからは誘われない。

 奴らが散々威張り散らして、前衛をさせようとした連中が纏まって出来たのがその集まりだからだ。

自分らでやるしかない。だから日本人、という理由を付けてやりたいんだ。

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