第100話 揃いの服を着る理由



 素直な気持ちとして、揃いの服はちょっとなと思う。

若返った途端にそんなことするのが、痛く感じる。

学校に通っているとか同じ会社に勤めているとかで、納得のいく理由が無い限り、今更全員で同じ服装なんてしたくないと思う元三十歳。

別に良いんだよ、やりたい人はやればさ。俺のことはほっといて欲しい。


 ただ一応、団結力とかに目に見えない効果があるのも確か。


「こっちの服屋で同じコートが、全員分を安く売ってもらえたら・・・・・・考えても良いかもね」


 マシロの言葉にフォローを入れると、全員が一度固まった。

なんですか? その反応は?


「いっがいー。アキノが絶対嫌がると思ったんだけど?」


「そうですね。私もコウさんは、そういうの嫌って言うと思ってました」


「うん、コウはいいのかヨ?」


 勿論嫌だけど?

ただ上に羽織るコートまでなら・・・・・・ギリギリ我慢できるかなって。

ここにいる大半は元高校生で、彼女らが着ているブレザー学生服は大分痛んで見える。

替え時なんだが、変えていない理由が複数ある。

質だったり、デザインだったり、お財布事情だったり。

どいつもこいつも現状生活で手一杯で、武器防具を考えると服装に回すほどの余裕がない。

その上、前世日本の物を知っていると我慢できないレベルの服しか売っていない。

理由を付けないと後回しになる。金が無いってのはそう言う事だ。


「ただ同じ服で揃えるだけ、なら嫌なんだけど。ちょっと提案がある。

〝錬金術〟スキルの話になるんだけど、前に染色液を作れそうなレシピを見つけたんだ。

皆が錬金術を覚えたらそれを使って糸を作りたい。それで色々試してみたいと思ってる。

それに関連して揃いの服を着る、なら効果が分かりやすいかな、って思ってね。

そのついでに〝裁縫〟スキルも得られないかな~という腹案もあるんだけど。協力してくれないかな?」


「勿論、いいヨ」


 即答したのはサユリんだ。

この信頼関係、震える。だがそこまで、信頼関係を築く何かをした覚えはない。

あまり素直なのも裏がありそうで怖いがな。

いまはありがたく受け取ろう。


「なるほど。全員同じ服を着て、違った使い方をする。それでどう変わるを試すんですね? 私も大丈夫です」

「はいはいはーい。マシロも協力します。着る上着はマシロが選んでも良いですか?」


 そこは好きにしてくれと言葉にはせず、マシロに向かって黙って頷く。

嫌な人がいたら自分でどうにか宥めてくれ。

俺としてはサイズだけちゃんとしてくれればそこまで気にしない。

アオバが言ったように実験だしな。

結果を見て、それから作り直しは必須だ。その時にもまた揃えるとは限らない。



 こういった試みは鍛冶スキルを得る時にもやっているので男子チームは全員、顔を向けると頷いてくれた。


 レベルアップをする前に、俺とナグモは再度鍛冶工房に行った。

スキル習得に関して試してみたいと話し、工房主に協力を取り付けた。

何本かナイフを作らせてもらった。

勿論そのナイフは全て自分で買い取るのが条件だったが。

かなり破格な値段にしてもらったし、無くなっても惜しく無いので躊躇なく使えている。



 対してホクトとござるはその日にちょうど依頼があった製薬工房の手伝いに行った。

これで〝製薬〟スキルが手に入るかと、どの程度で〝鍛冶〟スキルが得られるか知りたかった。

これで俺とナグモだけが鍛冶スキルを得たならば、という実験だったのだが。


 結果、男子全員が鍛冶スキルと熱耐性スキルを得て、製薬スキルは誰も得られない、という散々と言えば散々の結果だった。

失敗も実験の結果なのである意味成功ではある、のだが釈然としない部分もあるのも確か。

 鍛冶スキルに関しては女子チーム含めて要相談。製薬スキルは一時保留となった。

というのも薬師工房では雑用と掃除だけで、それらしいことは何もさせてもらえなかったらしい。

何度か通って、もう少し踏み込めないとスキルは得られないだろうと予想がつく。

となると話を通す工房にアテが無い、製薬スキルは現実的ではないだろう。後回しだ。


 なので先ずは先に〝錬金術〟だ。そちらを覚えてから順番に考えれば良い。


 〝錬金術〟に関しては目処が立っている。

先日の騒動後に冒険者ギルドのお偉いさんと話した時に交渉した。


そのうち一つに、錬金釜のある設備を少し安く貸してもらうというのがある。

時間貸しで10万ゼニーを8万ゼニーに負けてもらえた。


「でもさすがにちょっと高いっすけどね。何か申し訳ないっすよ」


「うん、錬金術を覚えるのに使う設備が希少なのは分かるけど、時間で10万ゼニーって高くないですか?」


「俺も高いとは思うけど、仕方が無いよ。道具を一つ借りる訳じゃないからねぇ。

例えるなら学校の理科室とか実験室、それを丸ごと借りるようなもんだし。

前世日本と違ってこっちの設備は特殊だから糞高いだろうし。最初の費用として割り切るしかない」


 回復ポーションを作るだけなら錬金釜という魔道具があれば事足りる。

だがそれ単体での貸し出しは、冒険者ギルドではやっていない。

それを使いたい場合は調合室という、錬金術も製薬も出来る設備が一式揃った部屋を借りるしかなかった。


 言った通り、道具一つでは無く部屋を丸ごと。設備を一式借りるのでかなりお高い。

仮に買う事を考えた場合でも、錬金釜の程度が良い中古、持ち運びできる程度の小型品でも10万ゼニーでは買えない。もうちょっと必要になる。

 なので、この辺が判断の難しい所。

頑張って買おうかとも思ったんだが、手元にあれば道具は管理しなければいけなくなる。

拠点が無いのに道具を増やすのは悪手だ。広くなったとはいえ〝ルーム〟に置いておくのもちょっと怖い。

この世界のモノを〝ルーム〟に持ち込んだ場合でも七日で消えるのは確認済み。

忘れたら消えるリスクが怖い。

 その上時間と場所を決めて他の人間を集めて、さぁ調合だ。なんてやってると物凄く手間だ。

自分の事が出来なくなる。

そして何より、師匠筋が、サトッカさんが戻ってきたら錬金釜がダブる。これが一番いけない。


 最もなかなか戻って来ないから困ってるんだが。

最近は送られてくるメッセージも『連絡しろ』の一言だけになっている。どこのメンヘラだよ、まったく。

蛙狩りで懐が温かいから連絡しても良いんだけど、〝調合室〟を借りるのにドカっと出費する予定だからね。今はあんまり使いたくないのだよ。


「コウさん、そのカエル、ポイズンオレンジトードでしたか。

みんなで一緒に狩りに行くって訳にはいかないんですよね?」


 アオバに問われるが、それはちと難しい。

みんなで狩れば数が狩れる。そうすればもっと稼げるという提案なんだろうが、あの蛙は狩り方が面倒くさい。

レベルが上がった今なら、戦闘訓練として全員で行くのは悪くない話なんだけどね。


「まず雨の日じゃないとあのカエルは出て来ない。女子組がビショビショになって狩りに行く気になるかどうか」


 何人かが「行きますよ」と言うが、どこまで本気なのやら。

ビショビショ透け透けで、変にセクハラ扱いされたくないから女子は連れて行きたくないんだよ。

 仮に好きなだけ見れば良い。

私はセクハラ扱いなんかしないと言われても、だ。


 そして次の理由。飲んでいたペットボトルの水を、お菓子を置いていたが食べて空いた紙皿の上に注ぐ。

これを小さな水たまりとして見立てよう。

同じく空いたポテチの袋をその上に持ってきて、アクアアローの魔法を発動して見せた。


 紙皿の上の水たまりから水が持ち上がり、上を漂わせていたポテチの袋に穴が空く。

それを見て「おぉ~」という歓声が上がる。


「ポイズンオレンジトードは腹が弱く、皮に値段がつく魔物。

俺はこれで腹から攻撃してひっくり返してるんだけど、同じことが出来る。もしくは別の方法で皮と、喉に在る毒袋を傷つけずに倒せる、んで無いと連れてくのは厳しいかな。

 別に意地悪で言ってるんじゃなくて。来てもやることがないんだよね。俺の魔力も永遠に続く訳じゃないし。雨の中で突っ立ってるだけってのも辛いだろ?」


 手分けしてやるって方法もあるが、ひっくり返せない人間を連れてって分け前を要求されるのもちょっと、ね。

関係はある程度対等じゃないと。長続きしない。


「なるほど、これはアクアアローですよね?

雨の中で離れたところで使えるのは知ってましたが、そんな方法で・・・・・・」


 顎に手を当ててアオバが考え込む。何かしらの方法が思いついたら教えて欲しい。

多分この中じゃアオバが一番可能性があるんじゃないかと思う。

理由は


「レベルが上がるまでは雨の中じゃなきゃ出来なかったんだけどね。召喚魔法の成果だよ。シキと契約したおかげで水魔法が使いやすくなったみたい」


「えっ、それ、聞いてないんだけど」


「言ったじゃん、今。順番に話そうと思ってたんよ。流れで今になったんだけど」


「ですね。私も後で報告する予定でしたが、風魔法が扱いやすくなっています」


 リサリサが唇を尖らせて不満を表すもこればっかりは仕方が無い。

報告することが多いんだよ。今日は。話もころころ変わるしな。

 そしてアオバもやっぱりか。

俺の契約したのは亀で、アオバのはカラス。その違いか、扱いやすくなる魔法の属性も違うらしい。

他にも気になる違いもあるけどな。


 俺の方の亀がジュエルタートルで、アオバのはエメラルドレイブンクローだ。

俺のは宝石という曖昧さで、アオバのはエメラルドと宝石の一種類だ。

 俺の方は人化出来る亀で、アオバの方はカラスのまんまらしい。

最も人化はアオバが教えてるらしいので今後、変わる可能性はある。


「そういえばコウ、シキを全然連れて来ないネ。どうしてるカ?」


「ここんとこは〝ルーム〟にずっといるよ。なんかあんまり外に出たがらないんだよね。〝召喚〟精霊だからかなって思ってるけど」


「あ、やっぱりですか。うちの子もそうなんですよ。なんでかなって思ってたんですけど、コウさんの方もそうなら気にする事ないですかね?」


 多分だが、召喚して連れ出すという扱いなのだろう。

システムにシキ用、というか召喚精霊用のプログラムが増えていた。

 先日術を三つ手に入れたとアナウンスされ、解放された拡張システム。その中に含まれていた。

ゲージとか専用ベッドとかは勿論、専用部屋まで用意出来るようになっていた。

金を払えば、だけど。


 ポイズンオレンジトードで儲けた日本円で、〝ルーム〟を少し広くしたばかりなのでそこまで賄う余裕がない。

人化出来る奴にゲージは可哀そうだったので、専用ベッドとたらいだけ買っておいた。

専用ベッドは猫が寝るような丸い寝床で、たらいは風呂代わりだ。

亀と同じ風呂に入るのは抵抗がある。なので亀の姿の時はそっちで水浴びをさせている。

という言葉で分かるように、〝ルーム〟にいるときは亀の姿で過ごさせている。


 俺が居ない間は中でのんびり過ごしてるらしく、『もう外では生きられない』とか舐めた事抜かしてた。

なのでマジックで甲羅に名前を書いてやったら盛大に泣かれたが。


 この〝ルーム〟の拡張に関しては八人での擦り合わせは前に終わってる。

生活圏に関しては確認した限り、全員が同じ仕様だった。

部屋を広くするのに必要な金額、置く設備の金額、それに付随して上がる使用料。皆変わらない。


 先日までは俺だけが召喚精霊のモノが増えていた。これは俺だけが契約していたからだろう。

現在はアオバも増えている事までは聞いている。

また誰かが精霊と契約したら変わるんだろう。


 やりながら試していくしかない事がどんどん増える。

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