第2話

そして時は流れ、次の週の金曜日。


今日も1日ご苦労さん♪ 明日は会社休みだし飲みに行きますか♪


行きつけの居酒屋に行こうと思い、赤坂に声を掛けたが


「すまん! 今日はどうしても外せない用事があるんだ! また来週誘ってくれ!」


と両手を合わせて謝ってきた。


「良いって良いって。じゃあまた来週な。して……因みに用事って何だ? 言いたくなかったら別に良いけど?」


興味本位で聞いてみた。


「ああ。今日はな、PM8:00から刹那ちゃんのライブチケットの先行予約があるんだよ。良い席が取りたいからPM8:00に即予約したいんだよ」


「成る程な。頑張れよ。しかしお前、前に刹那ちゃんには好きな人がいるって分かって凹んでたじゃないか」


「それはそれ。これはこれ。俺は刹那ちゃんの熱狂的なファンだからな。刹那ちゃんに彼氏が居ても関係ないね。この気持ちお前には分かんねーだろーな」


「うん。サッパリ分からん」


「だろーな。じゃあ俺準備があるから。またな」


「お~っ。またな」


俺は赤坂と玄関先で別れ、1人で居酒屋へ行く事にした。


居酒屋に到着し、カウンターに座っていつものブドウ酎ハイと若鶏の唐揚げを注文する。 今日は少し奮発してアジフライも頼もうかな? 夕食も兼ねてな。


注文して暫くすると、俺の目の前に唐揚げとアジフライが並んだ。 唐揚げはいつも通りジューシーで美味しそうだし、アジフライもとても食欲をそそる良い香りだ。


先ずは唐揚げを一口。 予想通りジューシーな食感。肉汁が口の中に広がる。 外れの無い安定した美味しさだ。 そして酎ハイを一口。 お次はアジフライだ。 アジフライを一口齧る。 ……う~ん。美味しい! 肉厚の鯵がたまらない! ……次からはアジフライも注文しようと心に決めた。 そして酎ハイをまた一口飲む。 やっぱりブドウ酎ハイは旨い。



俺が脳内で下手くそな食レポをしていると、居酒屋内のテレビから


『本日PM8:00から 由井刹那 武道館ライブ チケット先行予約を開始します……』


とのCMが流れてきた。


赤坂が言ってたのはこれか。 成る程な。テレビCMになる位なんだから、物凄い人気なんだろうな。 赤坂、無事にチケット取れると良いな。


そんな事を思いながら食事を楽しんでいると、居酒屋内のお客(見た目20代前半位の男性達)が


「刹那ちゃんのライブチケットのCM流れてたな。あのチケットはなかなか取れないんだよな。電話しても繋がらない事がほとんどだから」


ほう。そんなに人気なんだ。


「そうそう。俺も前回のライブチケットの販売の時に電話したんだけど、本っ当繋がらなかったんだ。2~3時間粘ったけど駄目だったから諦めたわ」


え~っ!そこまでなん!? 凄いな! 俺は到底無理だわ。


「凄いよな刹那ちゃんの人気。一般チケットが15000円なのに対してプレミアムチケットの値段なんて30000円だからな。それでも直ぐにSOLD OUTするんだから。 チケットのダフ屋も出てくる始末だよ」


……30000円あったら俺ならチケットじゃなくて最新のカーボンロッドを買うな。


「刹那ちゃんのあの " 私、好きな人がいるんです " 発言が有っても、人気が落ちない、むしろファンが倍増しているのは素直にスゲーなと思うな」


「そうだな。普通なら 好きな人がいるんです。って言ったらファンは離れていくもんだろ? それが逆に増えるんだから。確かに俺もびっくりしたけど、彼女のあの素直さにますます好きになった口だからな」


「だよなだよな♪ あの彼女の姿を見て嫌いになる奴なんていないさ」


……そうなのか? 俺には分からんな。


まぁ俺が言える事はただ1つ。 チケット争奪戦頑張れ赤坂 だけだな。


「刹那ちゃんが好きな男は大変だな」


「それな」


何が大変なんだ?


「絶対ファンに殴られるな。 俺達の刹那ちゃんを取りやがった! ってな」


「俺も殴るかもしれんな。マジで」


……怖っ! 刹那ちゃんの彼氏に謹んで合掌。


「じゃそろそろ帰るか」


「お、もうそんな時間か」


そう言って男性達はお会計を済ませて店を出ていった。



腕時計を見ると PM9:00を指していた。 俺もそろそろ帰りますか。


俺はバッグから財布を取り出してレジに向かう。 で、飲食代を支払って居酒屋を後にした。



俺の住むアパートは会社から電車で30分離れた場所にある。 車があるのに何故電車通勤? と思うだろう? それには理由がある。 何故なら、会社近くには駐車場が無い! 駐車場を探すにしても、会社からは遠すぎるのだ。 だから仕方なく電車通勤をしているという訳なのだ。


居酒屋は会社の近くにあり、俺は居酒屋を出て最寄りの駅に向かい、30分掛けて電車に揺られてアパートに帰宅した。 30分掛けるなら会社の近くにアパート借りればいいんじゃ? と思ったそこの貴方! それは無理な相談なのだ。 なにせ、会社の近くの物件は家賃が物凄く高い! そう!高いのだ!


平均一月約10万円は俺には払えない。それから光熱費、食費、交際費等々を払うと、俺の給料なんてあっという間に無くなってしまう。 ……自分で言ってて悲しくなってくる。


因みに今住んでいるアパートの家賃は35000円だ。


地方から出てきた俺には丁度良い家賃だ。 こんな時、此処が地元の奴らが羨ましくなるぜ。 だって、家賃要らないんだよ!? 


……て、そんな事言っても始まらないし。大人しく帰りますか。


アパートから最寄りの駅に着いて、それから数分歩いてやっと自分のアパートにたどり着いた。


俺の部屋はアパートの二階の角部屋だ。 205号室ね。


ん? なんだか高級そうな車が駐車場(俺の愛車の隣)に停まっているな。 見たことの無い車だ。 良いなぁ高級車……。一度乗ってみたいよなぁ。 まぁいいか。 本当はまじまじとこの高級車を見たかったんだけど、失礼かなと思い後ろ髪を引かれる思いで車から離れた。


俺はアパート横に付いてる階段(ちゃんと14段だから安心して)を上がり、自分の部屋の前を見た。


……? 誰か俺の部屋の前にいる。


目を凝らして見ると……女性だ。女性が俺の部屋の前に立っている。 正確に言うと、部屋のドアにもたれ掛かっている。


……目の錯覚か? 俺には女性の知り合いは居ない筈なのだが? 疲れてるのか? でも、確かにあそこは俺の部屋の前だよな。


俺は端から部屋の数を数えてみた。


1…2…3…4…5。 やっぱり俺の部屋の前だ。 俺の部屋の前に女性がいる。 錯覚じゃないらしい。


……こうしていても埒が明かないので、意を決して女性に話し掛けてみた。


「あの~。俺に何か御用ですか?」


俺の声に女性が反応した。 俺の方を振り向く女性。


凄く綺麗なブロンドの髪色のロングヘアー。 女神様と間違える位の顔立ち。 出ている所は出ていて、引っ込んでいる所は引っ込んでいるスタイル。 見る限りパーフェクトな女性だった。


「……丹羽圭介さんですか?」


「あっ、はい。そうですが」


名前を聞かれ、そうだと答えると、突然女性は大粒の涙を流し


「……やっと見つけました! 御会いしたかったです!」


そう言って俺に抱きついてきた。


俺の部屋の前で俺に抱きつき泣きじゃくる彼女。 物凄く慌てる俺。 ……え~っ!? これは一体どういった状況なんだ!? 


誰か今の状態を教えてくれ!















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