第112話

8月の初めの日曜日。 今日は朝から……暑い。 朝から日差しがカンカンと室内を照り付け、エアコンを点けていないと部屋の中には居られない程だ。 ……熱中症になりそう。 俺はソファーに座り、夏の部屋の中に放置されたアイスの様に溶けきっていた。


住んでいる場所は東京の筈なのに、何故か蝉の鳴き声が五月蝿い。 何処で鳴いていやがるんだ蝉の野郎! お前の声を聴くだけで暑さが増すじゃないか! とぼんやりした頭でそう思っていた。


刹那も俺の横でチョコアイスを食べながら


「圭介さ~ん。暑いですぅ~。何とかなりませんかぁ~」


とだれている。


……此処で皆様に言っておかなくてはならない。 刹那はいつもオフで俺の近くに居ると思っている人も少なくないと思う。 でも実際の所、刹那は結構多忙で、休み(オフ)は1週間の内1日しか取れないのだ。 たまたま俺が話す中での刹那の休みが俺と被っているだけなんだよ。


久遠は朝から劉ちゃんの所にお出かけしている。 すみません修治さん、雪菜さん。いつも久遠がお世話になっています。


瞬は中学校で出来た友達に誘われてバスケをしに近所の体育館に出掛けている。 ……こんな暑い中でバスケなんて、お父さんには考えられません。 やっぱり男子中学生の体力は凄いね。


ふと点けっぱなしでBGMとなっていたテレビに視線を向けると、大型レジャー施設のCMが流れていた。 CM内でプールの映像が映し出されている。


……プール。 涼しそう……。 刹那と2人でプール……良いかも……。


「なぁ刹那、あれ」


横でチョコアイスを食べ終わりだれている刹那の頬をツンツンとつつく。


「んあ? 何ですか圭介さん?」


「プール……良くね? 刹那、今からプール行かないか?」


「プール……良いですね♥️ 行きましょう♥️ うふふっ♪ 圭介さんとプールデート♥️ じゃあ早速準備しますね♥️ ……でも最近肥ったからなぁ……合う水着あるかしら?」


そう言って刹那はいそいそとクローゼットに向かって行った。


「じゃあ俺も海パンとバスタオルを準備しますかね。って、海パン有ったかな?」


俺も海パンを探しにクローゼットに向かう。 するとクローゼットの中から


「圭介さん圭介さん、どうせならプールじゃ無くて海に行きませんか?」


「海に?」


「はい♥️ ウチと圭介さんが初めて出会ったあの海に♥️」


「……良いね。じゃあプールは止めて海に行こう。あの思い出の海に」


「はい♥️」


こうして俺と刹那は俺達が初めて出会ったあの海に海水浴に行く事になった。



速攻海水浴の準備を済ませ、マンションを出発。 約1時間程で海に到着した。


「じゃあ着替えてきますから先に行って場所取りしていて下さいね♥️」


「了~解。 パラソルとシートをセッティングしておくよ」


刹那は荷物をもって海の家の更衣室へと向かっていった。 俺も更衣室へ行き、速攻海パンに着替えて砂浜へ。


丁度良い場所を見つけ、その場所にパラソルとシートをセッティング。 シートの上に座り、海を眺めながら刹那が来るのを待った。


……そう。この海の沖で刹那が溺れていたんだったな。 それを偶然俺が救助に向かい、刹那と俺は出会ったんだ。 あれからもう15年経つんだな。 俺も今年で40歳。刹那は35歳になるんだな。 早いな時が経つのは。 あの時俺が此処に釣りに来てなかったら、刹那と出会う事なくまだ独身だったんだろうな。 運命に感謝しないといけないな。


そんな事を考えていると、いきなり首に冷たい何かが " ピトッ " と当たり、思わず


「ぴゃっ!?」


と変な声をあげてしまった。 慌てて後ろを振り向くと、そこには冷えたスポーツドリンクを持った刹那がクスクス笑いながら立っていた。


刹那の格好は、白のビキニとパレオ。 スタイル抜群で、はち切れん程の豊かなバストをゆさゆさと揺らしながら笑っている。 見た目30代には見えず、20代前半でも十分通る美貌だ。 こんな女性が俺の奥さんなんだ。 思わずニヤケそうになる。


「圭介さん、ぴゃっ!? って。 うふふっ可愛い❤️」


「いきなり首に冷たい物を当てたら誰だって驚くわ!」


「ごめんなさい圭介さん。ふふっ♪ でも… ぴゃっ!? って(笑)」


ちょっとムカッときた俺は刹那が持っていたスポーツドリンクを取り上げて、刹那の首に押し当てようとする。


「お前も ぴゃっ!? と鳴きたまえ!!」


「きゃん♥️ ごめんなさい圭介さん♥️ 謝るから止めて~」


ええぃ問答無用じゃ~! 


結局刹那も首筋に冷たいスポーツドリンクを押し当てられ、 ぴゃっ!? と言う声をあげる事となった。


「ふうふう……酷いです圭介さん。ウチ謝ったのにぃ」


「うっさいわ。一蓮托生じゃ!」


「圭介さん、ウチが来るまで何を考えていたんですか? 何だか黄昏ているみたいに見えましたけど?」


「えっとな、あの時俺が此処に釣りに来てなかったら、刹那と出会う事なくまだ独身だったんだろうなと考えていたんだよ。本当奇跡だよな。この場所で刹那に出会った事は」


「そうですね。本当奇跡ですね。 ……でもウチ思うんです。もしこの場所でウチと圭介さんが出会っていなかったとしても、必ず圭介さんとウチは出会い、恋をして、結婚する。 ウチはそう確信しているんです」


「ありがとう刹那。そう思ってくれて。俺、刹那の事をこれからも一生ずっと大切に護っていくから、ずっとずっと俺の傍にいて下さい」


「ウチは死ぬまで圭介さんの傍に居ます。離れる事はありませんから安心して下さい」


俺と刹那は見つめ合い、そのままキスをした。


その後、刹那と一緒に海を満喫し帰宅。


すると久遠と瞬はもう帰って来ていて "" 2人だけ海に行って狡い!! "" と怒られてしまった。


良いじゃん! たまには2人だけで休日を満喫してもさ!









 







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る