第113話

朝、爆音(目覚まし時計の音)で目が醒めた。


……今何時だ? 目覚まし時計の時間を確認する。


目覚まし時計のデジタルは 6:30 を表示している。


……何時もより早い時間に何で目覚ましをセットしているんだったっけ? 何時もなら刹那が優しく声を掛けて起こしてくれる筈(刹那の出勤日によって違います)なんだけど……。


身体をベッドから起こしてぼ~っとした頭で少し考えた。


……え~っと……


……何だっけ?……


……はっ!!


そうだ! 今日は朝9:00から大事な会議があるんだった! 会議が始まる前に会議で使用するパワーポイントや資料を部下達と一緒に作成(部下達の資料作成が遅すぎた為、俺が手伝いをする事になった)する為にこの時間に目覚まし時計をセットしたんだった!


そう、俺は今年度から営業課長に昇進した。 仕事は多く難しいが、やり甲斐がある。 部下も沢山出来て、責任があるポストだ。


ベッドでは刹那が気持ち良さそうに寝息を立てて寝ていた。


……気持ち良さそうに寝ているし、起こしたら悪いな。 そっとベッドから出よう。


なるべく揺らさない様にベッドから抜け出し、会社に出勤する準備を静かに始める。


そして準備が終わって、玄関の扉を音が立たない様にそ~っと開けてマンションを出発した。




会社に到着したら、もう俺の部下達は出勤していて俺を待っていてくれた。


「「「課長! おはようございます!」」」


「うん、皆おはよう。さぁ、9時までに資料作成を間に合わせるぞ! 皆 気張っていこう!」


「「「宜しくお願いします!」」」


そして皆で急ピッチで作業を進めて、何とか会議が始まる前に資料作成を終える事が出来た。


「「「課長、ありがとうございました!」」」


「皆が頑張ったからだよ。俺は少ししか手助けしていないからな。 じゃあ、俺は皆が作成してくれた資料を持って会議に出席してくるよ」


そう言って資料を持って会議室に移動し、会議に参加した。



無事に会議は終了。 特に資料にも不備は無くて、円滑に会議を進める事が出来た。


そして営業1課に戻り、本日の業務をこなしつつ、時間は12時ちょっと前になった。 そこで俺はある事に気付いた。


……今日の昼飯どうしよう。


何時もなら刹那が作ってくれた弁当を持って社食に行き、赤坂と駄弁りながら弁当を食べるのだが、今日は朝早かったから弁当は作ってもらっていない。


……仕方ない。社食でうどんでも食うか。


そして昼休憩に入った時


「あの~。すみません。営業1課って此処で良かったでしょうか?」


と営業1課の入り口から聞き慣れた声が聞こえてきた。 入り口の方に視線を向けると、そこには久遠が何だか焦った様な感じで近くに居た社員にそう問い掛けていた。


「久遠? どうして此処に?」


「あっ、お父さん! 良かった~。場所間違えてなかったよ~。 クー、場所間違えたかって思って焦っちゃった」


俺を見つけた久遠が嬉しそうにトトトッと駆け寄ってきた。 手には可愛らしいカワウソの絵がプリントしてある巾着袋を持っていた。


「はいお弁当だよ♪ お父さん今日はお弁当持って行ってなかったでしょ? だからクーが届けに来たの。褒めて褒めて♪」


「ありがとう久遠。この弁当久遠が作ってくれたのか?」


そう言って久遠から巾着袋を受け取る。


「そんな訳無いじゃん。お母さんお手製だよ♪ お母さんお弁当作った後、焦りながら「どうしよう。ウチ今から仕事の打ち合わせがあるから、圭介さんの所に行けない」って言ってたから、クーが届けてあげるよって言ってお母さんからお弁当を預かって届けに来たんだよ」


な~んだ。一瞬久遠が作ってくれたのかと思っちゃった。 少し残念。


「あれ? 課長のお子さんですか?」


部下の女性社員がそう声を掛けてきた。


「丹羽久遠です。父が何時もお世話になっています。これからも父を宜しくお願い致します」


久遠が女性社員に頭を下げる。


「こ、こちらこそ課長には何時もお世話になっています。課長、しっかりした娘さんですね」


「そうだろ? 自慢の娘なんだ♪」


さりげなく久遠を自慢してやったぜ。


すると


「およ? 久遠ちゃんじゃん。どうしたの?」


「あっ、赤坂のおじさん。こんにちわ♪ お父さんにお弁当を届けに来たんだよ♪」


赤坂が営業から帰ってきて久遠に声を掛けて、久遠もそう答えていた。


久遠は赤坂とは昔から面識があり、赤坂の事は " 赤坂のおじさん " と普段からそう呼んでいる。 赤坂も抵抗なくにこやかに接しているからこれで良いと思っている。


「おっ、そうかそうか♪ 久遠ちゃんは偉いなぁ♪」


赤坂が久遠の頭をがしがしと撫でると久遠は少し嫌そうな顔をして


「止めて赤坂のおじさん! セットが乱れちゃう!」


「おぅ。すまんすまん。お詫びにおじさんがお昼ご飯を奢ってやろう。久遠ちゃんお昼まだだろ?」


「わっ、本当に? やった♪ 丁度クーお腹空いてたんだぁ♪ お父さん、赤坂のおじさんに奢って貰っても良い?」


久遠が俺に嬉しそうに聞いてきたので


「ああ。しっかりたっぷりと奢って貰いなさい。ただし社食のメニューでだよ。 外食は駄目。赤坂が警察に捕まる可能性があるから」


と答えておいた。


「丹羽!? 何で俺が警察に捕まる事になる訳!?」


「だってお前、女子中学生と2人きりで昼飯食べてたら、援交って思われるぞ。久遠みたいな美少女なら特にだ」


「……久遠ちゃん、社食で良い?」


「クーは奢って貰えるなら何処でも良いよ♪ 赤坂のおじさん、社食で1番美味しくて高いやつをお願いね♪」


「……お手柔らかにお願いします。おじさん今手持ち余り無いから」


「やった♪ お父さんも社食に行くでしょ?」


「勿論。一緒に行くよ」


そんな会話をしていると、社内の12時を告げるチャイムが鳴った。


「チャイムが鳴ったよ♪ さぁ早く社食へ行こう赤坂のおじさん、お父さん! こんな良い事があるなら瞬ちゃんも来れば良かったのに残念♪」


「瞬君は止めて。瞬君来たらおじさんのお財布の中身空っぽになっちゃう」




そうして俺、久遠、赤坂の3人は社食へと向かった。


久遠は券売機とにらめっこしながら " どれが良いかなぁ♪ " と悩み、カレーをチョイス。


食券を購入し、厨房のおばちゃんに食券を差し出し


「お願いしま~す♪」


「あらあら可愛い娘が居るわね♪ 何処の娘かしら?」


「丹羽久遠と言います♪」


「丹羽課長の娘さんね。そう言えばお母さんそっくりね♪ よし、おばちゃんサービスしちゃおう♪」


そう言っておばちゃんは久遠のカレーにトンカツをなんと5枚もプラスしてくれた。


「ありがとうございます! 嬉しいです!」


久遠はホクホク顔でテーブルに座る俺の元にやって来て、俺の隣に座り美味しそうにカレー(トンカツ5枚付き)を食べ始めた。 赤坂に感謝しないとな。


カレーを食べ終わった久遠は赤坂に感謝の言葉を述べてから帰っていった。


久遠が会社に来たのはビックリしたけど、たまにはこんな事があっても良いかな? と思った日だった。







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