第6話

時計の針はPM10:00を指していた。


「刹那ちゃん、もう遅いから早く帰りな」


俺は刹那ちゃんに帰宅する様に声を掛ける。


すると、刹那ちゃんは頬を膨らませ


「何で圭介さんは私を帰らそうとするんですか? もう少し居たっていいじゃないですか」


と抗議の態度を取ってくる。


「いやいや、もうPM10:00だよ? 皆心配するでしょ?」


「心配? 何を心配するんです?」


いやいや、普通心配するでしょ? 20歳の美女が何処の馬の骨とも知れない男の家に夜遅くまで居るんだよ? 俺が親なら心配どころか怒鳴り込みに行くけどな。


「だから、俺は男。刹那ちゃんは女。OK? 今の状況解ってる?」


俺がそう言うと、刹那ちゃんはハッっとした顔をした後、顔を赤らめて


「……私、初めてなので、出来れば優しくして下さいね。少し位なら痛いの我慢しま」


「ストーップ! それ以上は言ってはいけない!」


俺は慌てて刹那ちゃんの発言を止める。


「え? だって、そういう事でしょ? 私、圭介さんとならいつでも……」


「だからストップだってば! 女の子がそんな事を言ってはいけない! 今日はもう帰りなさい」


「む~~~っ! 私は圭介さんの傍に居たいのに……」


「また今度ね今度!」


「今また今度ねって言いましたね? 忘れませんよその言葉」


刹那ちゃんはニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んでくる。 ……しまった。失言だった。


「今の無し!ってのは駄目?」


「当然駄目! です♥️」


「忘れて」


「無理♥️」


「そこを何とか」


「駄~目♥️」


……埒が明かない。 どうしようか……この危機的状況を。


そんな押し問答をしていると、突然刹那ちゃんのスマホが鳴り出した。


「も~っ! もう少しで圭介さんを落とせたのに! 誰!? タイミングが悪いのは!」


ほっ……。助かった。 今は電話してきた人に感謝だな。


プリプリ怒りながら刹那ちゃんは電話に出る。


「はいもしもし💢」


『あっ、刹那? 篠宮です。今大丈夫?』


「大丈夫じゃないです💢 篠宮さんタイミング悪すぎ! もう少しだったのに💢」


『???? 何怒ってるの刹那?』


刹那ちゃんはスマホの受信部分を手で押さえて


「すみません。マネージャーからです。少しだけ話をしますので」


「あっ、うん。気にしないで話をしてね」


「ありがとうございます」


そう言って刹那ちゃんはマネージャーさんとの会話を再開する。


「で、何の用事ですか篠宮さん💢」


『明日のスケジュールについての打ち合わせをしたかっただけなんだけど……ねぇ? 何で怒ってるの?』


「当然ですよ💢 もう少しで圭介さんと……する予定だったのに💢」


いやいや刹那ちゃん? 俺はそのつもりは微塵も無いよ? てか、貴女はそれを言っちゃいけません!


『圭介さん? ああ、あの時の彼? 今彼の所に居るの?』


「そうですよ💢」


『じゃあもしかして…上手くいったの?』


「結婚は駄目でしたが、恋人には成れました❤️ でも早めに結婚まで持っていくつもりです♪」


……お~い。マネージャーさんとそんな話をしていたのかい? てか、君は芸能人でしょうが。俺みたいなモブとそうなっても良いというのかい? 恋人って事だけでも大概なのに。


『……刹那。避妊はちゃんとしないと駄目よ? 貴女はトップアーティスト兼女優なんだから。 妊娠はちゃんと結婚してからよ』


……聞こえてますよマネージャーさん。貴女それで良いんかい! トップアーティストに何言ってるの! そこは怒る所でしょうが!


「大丈夫です。そこはちゃんと分かってますから。きちんと籍を入れてからママになりたいので」


……ツッコマナイゾ……フルスルーヲキメルゾ……フルスルーダ。


嬉しそうに話をする刹那ちゃんとマネージャーさん。そして現実逃避をする俺。


『それはそうと刹那、明日はAM5:00から仕事だからもう帰って休みなさいね? 貴女隈が出来た顔で仕事するつもり?』


「え~っ!? でも~っ!」


『でもじゃありません! プロなんだから、仕事はきちんとしないとね』


「う~っ! 分かりましたよ。今日は帰って休みますよ」


『よろしい。じゃあ明日4:00に迎えに行くからね』


「は~い。それじゃ篠宮さん、お休みなさい」


『はいお休み。ちゃんと帰りなさいよ』


「分かってますって」


そう言って刹那ちゃんとマネージャーさんとの電話は終了した。



「は~~っ。仕方がないので今日は帰りますね」


「お、おう。気を付けて帰るんだぞ。 てか、刹那ちゃんはどうやって来たんだ? 電車か? それとも誰かに送ってもらったのか?」


「自分の車で来ました。そこの駐車場に停めてます」


免許持ってたのか。


「じゃあ駐車場迄送るよ」


「ありがとうございます圭介さん♥️ 優しいから大好きです♥️」


そうして俺達は部屋を出て駐車場へ向かった。


「忘れ物は無い?」


「圭介さんとの熱い夜の思い出を忘れて来ましたが」


「それは忘れ物とは言わない」


「テヘッ♥️」


……全くこの娘は……。


階段を降りて駐車場についた。


駐車場には俺の愛車(軽自動車)とLのエンブレムの高級車と後数台の普通車が駐車されている。


俺はLのエンブレムの高級車に近付き遠目から眺めた。


は~~っ。良いなぁこの車。一度で良いから運転してみたいよなぁ。 憧れちゃうよなぁ。 まぁ、俺の安月給じゃ夢のまた夢だけどな。 だってこの車約1000万円位するんだもんな。 持ち主はどんな人なんだろうなぁ。 社長さんかな? それともプロ野球選手? とにかく羨ましいなぁ。


はっ! いかんいかん。刹那ちゃんをお見送りしないと。


「刹那ちゃん、刹那ちゃんの車はどの車なんだい?」


「私の車ですか? これです」


刹那ちゃんはバッグから鍵を取り出してボタンを押す。


すると、Lのエンブレムの高級車のロックが開いた。


……もしかして。


「せ、刹那ちゃん。もしかしてこの車って」


「私の車ですが?」


「…………マジか」


この車の持ち主は刹那ちゃんでした。


俺は一時の間固まってしまった。


……ヤベーッス。 マジヤベーッス。


「圭介さん? 圭介さんてば? お~い!」


刹那ちゃんは俺の顔の前で手を振っている。


はっ! いかん。トリップしてた。


「凄いね。こんな車に乗ってるんだ……」


「圭介さん、もしかしてこの車欲しいんですか?」


「そりゃ欲しいさ! 憧れの車だからさ!」


俺が勢い良くそう言うと、刹那ちゃんはニヤニヤしながら


「へ~っ♪ 圭介さんは車が欲しいんだ~♪ 成る程成る程。良い事聞いちゃった♪」


とボソボソ呟いていた。


「ん? 何か言った?」


「べ~つ~に~♪ 何にも言ってませんよ~♪」


「そう?」


「はい♥️」


刹那ちゃんが運転席に乗り込む。 エンジンをスタートさせ、発車準備が完了する。 やっぱりこの車のエンジン音……最高だな。


すると、刹那ちゃんが慌ててウインドウを開けて


「圭介さん! 連絡先の交換してない! 交換しましょう!」


あっ。そういえば忘れてた。連絡先の交換より衝撃的な出来事が盛りだくさんだったからな。


俺達はお互いのスマホをフリフリして連絡先を交換した。


「じゃあ今度こそ帰りますね。 圭介さんまた来ます♥️ その時こそ……グフフ」


……女の子の笑い方じゃないぞそれ。


まもなくして刹那ちゃんが運転する車が駐車場を発車した。


車が見えなくなるまで見送る。


さて、俺も寝ますか。明日は気晴らしに釣りでも行こうかな? 会社休みだし。


俺は部屋に戻りベッドに入った。




後日俺の元に封筒が届いた。中には刹那ちゃんのライブチケットが二枚入っていた。


……ん? 何だかこのチケット、キラキラしているんだが? 気のせいか?
















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