第7話

俺の元にチケットが届いた翌日


「お、赤坂おはよう」


「丹羽おはよう」


出社したらオフィスに赤坂が居たので声を掛けた。


「早いな。何か良い事有ったのか?」


「いや別に? でも、今日早めに出社したら良い事が有りそうな予感がしたから早めに出社してみた」


「赤坂、その予感は当たりかもな。ほら」


俺はバッグからチケットを取り出して赤坂に手渡した。


「刹那さんのチケット! ありがとう丹羽! って! おおおっ!? こ、これは!?」


赤坂は自分の目が飛び出そうな程驚いていた。 何だ? 何をそんなに驚いているんだ?


「お、おおお……お前! このチケット何処で手に入れた!」


「何処でって……話したろ? 知り合いが譲ってくれたんだよ。 どうしたんだ?」


俺がそう言うと、赤坂は勢い良く俺の肩を掴んで揺さぶってきた。 赤坂、肩痛い! 痛いって! それに揺さぶるの止めろ! 吐く! 吐いちゃうって! 此処で吐いたら大惨事になる!


「お、落ち着け! 揺さぶるの止めろ!」


「落ち着けだと!? 落ち着ける訳ないだろうが! このチケットはプレミアムチケットだぞ! しかも一般販売していない限定チケットだぞ!」


赤坂は滅茶苦茶興奮して喋ってくる。しかも大量に唾を飛ばしながら。


……うへぇ、バッチい。


「へ、へぇ。そんなに凄い物なのか? 良かったな」


「……お前のその無知さに呆れるぜ」


「お褒め頂き光栄です」


「褒めてねーよ! ったく。お前って奴は……」


呆れられてしまった。渾身のギャグだったのに。


「てか、そのチケット一般発売してないんだろ? 何でお前がそれを知ってるんだ?」


「知ってて当然だろ! ファンの間では常識だぜ。ごくごく親しい間柄の人にしか配られないとネットに書き込みされる位のお宝だぜ? お前のその知り合いって、まさか刹那さんの関係者か!?」


……親しいどころか御本人様ですよ旦那。


「たまたま知り合いになった人だよ。その人に今回の話をしたら快く譲ってくれたんだよ。しかも二枚」


「……どんな人物だよ。と、とにかく滅茶苦茶嬉しい! ありがとう丹羽!」


「どういたしまして。喜んでくれてなによりだよ」


「早速有給届け書かないと。丹羽、お前も有給届け書けよ! 一緒に行くんだろ?」


「あ、ああ。そのつもりだ。約束したからな。ライブに必ず行くって」


「誰と?」


「そのチケットくれた人とだよ」


刹那ちゃん本人と。半分脅迫だったけど。


「よっしゃ~! 当日が楽しみだ~!」


赤坂はチケットを持ったまま奇妙な踊りをその場で披露していた。


……有給休暇届け書かないとな。



ライブは10月15日(金) PM6:00 からスタートだ。 場所は武道館で行われる。 会社が終わってから行ったのでは遅すぎるので、その日は朝から休みを取って行かないといけない。 俺的にはなるべく有給は使いたくないのだが、刹那ちゃんとの約束だから仕方がない。


俺と赤坂はその日の内に有給届けを会社に提出した。





そして月日が立ち ライブ当日を迎える。


朝早くから赤坂に叩き起こされ、色々準備をして


今俺達は武道館の前に来ていた。


「いやぁ緊張するな丹羽!」


「何でだよ?」


「馬っ鹿お前! 刹那さんのライブだぞ!? 緊張しない訳ねーだろ!? しかもプレミアムチケットだぞ! 一番良い所で刹那さんを見れるんだぞ?」


「分かった、分かったから。余り大声出すな恥ずかしい」


「お、おう。悪い。確かに大声出すのはマナー違反だな」


物凄く居心地が悪いな。それもその筈だ。赤坂の馬鹿が大声でプレミアムチケットの事を言ったから、周りのファンの視線が俺達に集中していたからだ。


「さ、さっさと移動するぞ」


「お、おう。じゃあ行くか」


俺達は入場する為に入場口に行き、係の人にチケットを見せた。すると


「こ、これは!? 申し訳ありませんが、あなた方は別の入場口に移動して下さい」


と係の人に言われてしまう。 それからすぐに違う係の人がやって来て、俺達を違う入場口に案内してくれた。


……何か入口に  Staff Only って書いてあった様な気がするのだが? しかも、警備態勢がハンパない。


俺達はそのまま係の人に案内されて席に移動した。





……うわぁ。何だ此処は。


俺達が案内された場所は、ステージのバックヤードだった。


そのバックヤードの隣の空間に何故か高級そうな椅子が2つ。


その場所からはステージが本当に近くで見れる。しかも、少し隠れている場所だったので他の観客からは俺達の姿は見えない様になっていた。


「此処に座ってご観覧下さいませ。ではごゆっくり」


そう言って係の人は去っていった。


「「…………」」


俺達は今の状況に絶句していた。


……刹那ちゃん。確かに俺はチケットを取ってとお願いしたよ? でも……これは流石にやり過ぎなのではないかい?


赤坂を見ると……あっ、やっぱりこの状況についていけれてないな。 完全にフリーズしている。


「おい赤坂帰ってこいよ。 とりあえず椅子に座ろうぜ? 立っているのも何だし」


赤坂の身体を揺さぶり現実に引き戻し、俺は赤坂に椅子に座る様促した。


「はっ! そ、そうだな。折角だから座るか……」


俺と赤坂は用意された椅子に座る。


……滅茶苦茶座り心地の良い椅子だな。まるで身体全体を包み込んでくれるみたいな感じだ。これなら長時間座ってられる。


赤坂も俺と同じ意見だったみたいだ。 だらしない顔をしている。


「な、なぁ丹羽、このチケットいくらで購入したんだ? 物凄く高かったんじゃないのか?」


不意に赤坂がそう聞いてきた。


「買ってない。貰った」


「は? 今何て言った?」


「だから、貰ったんだよチケット」


「……信じられない」


俺もだよ。


そんな話をしていると


『長らくお待たせいたしました。由井刹那 武道館ライブ 開演致します!』


とアナウンスが聞こえた。 いよいよだな。


俺達はステージの方に視線を送る。 すると、いきなり視界が真っ暗になった。


照明が落ちたのか? でも、妙に目の当たりに柔らかい感触があるな。しかも俺の後から滅茶苦茶甘くて良い匂いがする。


「圭介さん♥️ 来てくれてありがとう♥️ 目一杯楽しんでね♥️ 私頑張っちゃうからね♥️」


目の前が真っ暗になったのは、照明が落ちたのではなく、このライブのヒロインの刹那ちゃんが俺の目を両手でふさいだ為だった。


刹那ちゃんは俺の耳元でそう囁くと、元気良くステージに掛けていった。


……止めて下さい。心臓に悪いですので。


ふと赤坂の方を見ると、赤坂は物凄く驚いた顔で俺を見ていた。


「もしかして……お前の知り合いって……刹那さんなのか?」


「……そうだな。すまん。あの時黙ってて。俺にチケットくれたのは 刹那さんだ。」


赤坂は冷たい視線で


「……ファンに殺されろ」


と言ってきた。


なんか酷くない? お前の為にチケット頼んでやったというのに。 殺されろは無くない?


刹那ちゃんの天使の歌声で1曲終了後



「皆さ~ん! 今日は私 由井刹那 のライブに来てくれてありがとう~! これから約2時間、全力で皆さんと楽しんでいきたいと思ってるから、私についてきて下さいねー!」


刹那ちゃんのMCからライブがスタートした。


ワァァァァァァーー!!


会場のボルテージは初めからクライマックスの勢いだ。


当然俺達のテンションも上がっていた。


それから2曲 3曲と刹那ちゃんは歌っていき、次のMCに入った。


「今日は私、滅茶苦茶テンション上がってます! 何故かって? それはですね、皆さんとライブを楽しめれているのも勿論なんですが、今日この会場に私の大切な人が来てくれているからなんですよ~♪」


刹那ちゃんのその発言が導火線になり、会場のファンは絶叫。


「誰なんだ!刹那ちゃんの大切な人って!」


「見つけ次第シメる!」


「そいつが羨ましい~!」


等々。色々な声が飛び交う中


「あっ、でも私は皆さんファンの方々が1番大好きですので、その人を苛めないで下さいね~♪」


と一言。


「「「「「分かった~~~♪」」」」」


とファンの方々が大声を上げた。


……皆凄いな。皆刹那ちゃんの事が大好きなんだなと思った。


それからアンコールを含めて約2時間半。


ライブは最高に盛り上がった。

































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