第5話

それからリビングでお互いの事を少しの間話をした。


「刹那ちゃんの誕生日って5月だったよね?」


「そうですよ。誰かに聞きました?」


「テレビで自分が言ってたじゃないか」


「あっ。そうでした テヘッ♪」


刹那ちゃんは舌を出しおどけてみせた。 うん。可愛いな。


「何日なんだい?」


「はい。5日です。こどもの日ですね。憶えやすいでしょ?」


祝日だから憶えやすいな。とりあえず忘れない様にメモ帳に書いとかないと。


「圭介さんの誕生日はいつですか? 私、全力でお祝いしちゃいます♡」


「や、俺の誕生日は良いよ憶えなくて」


「何でですか!」


「今さら祝って貰う歳じゃないし」


「む~~~っ! 教えて下さい~! 私どうしても知りたいです! だって、大切な彼氏の誕生日ですよ! お祝いするのは当然じゃないですか! だ~か~ら~! お~願~い~! 教えて下さい~!」


刹那ちゃんは俺の袖口を掴んでグイグイと引っ張って抗議の態度を取ってきた。 止めて、袖が伸びるから!


しかしだな……。 た、大切な彼氏…… 何だか照れるよな。こんな可愛い娘に彼氏だなんて言われたら。


……結局、滅茶苦茶食い下がってくる刹那ちゃんの勢いに負けた俺は観念して


「分かったよ。教えるから。俺の誕生日は10月23日だよ。はい教えたよ。これで良いかい?」


俺がそう言うと、刹那ちゃんは自分のバッグからメモ帳を取り出して真剣な顔でメモをしだした。


「よしっと! これで絶対に忘れません! ……って、圭介さん誕生日もうすぐじゃないですか。 これはいけません! 早く準備をしないと」


「俺の誕生日は祝わなくって良いって。ほら、ね、急な事だったし、もう日も無いからさ」


そう、確か刹那ちゃんを海で助けたのが8月の前半。それから数週間が経って、今は9月の中旬である。 まぁ、俺の誕生日まで後1ヶ月程はあるんだけどね。


「いいえ、まだ時間はあります! ほら、1ヶ月は余裕がありますよ!」


刹那ちゃんは壁に掛けてあるカレンダーをバシバシ叩いて俺に言ってきた。 そしてグイッと俺の顔の近くに自分の顔を近づけてきた。


っ! 刹那ちゃん! 顔近い近い! 


その時、フワッと何とも言えない甘い香りがした。 俺が今まで嗅いだことの無い甘い香り。 俺の顔が一瞬にして赤くなったのが分かる。


「ち、ちょっと近い! 刹那ちゃん無防備過ぎ!」


刹那ちゃんに注意を促すと、刹那ちゃんは自分の今の距離に気付いたみたいで真っ赤な顔をして バッ! と顔を遠ざけ


「ご、ご免なさい! 興奮しちゃって……つい。 はしたなかったですね//////」


はにかみながらエヘッ♪ みたいな顔をする刹那ちゃん。


……何だこの可愛い生き物は? 思わず抱き締めたくなる……っていかんいかん! 気をしっかり持て丹羽圭介!


刹那ちゃんに手を伸ばし掛けたのを何とか押し留めれた俺。 危なかった~。


「で、でも、やっぱりお祝いはどうしてもしたいので、準備はしますよ。 圭介さんが断っても絶対にします! 良いですね?」


物凄くやる気満々の刹那ちゃんを見て


「……分かったよ。じゃあ楽しみにしてる。でも、無理は禁物だからね」


と釘を刺しておいた。


「はい! 了解です! うふふっ! プレゼント何にしようかな~♡ お料理も頑張らなくちゃ♡」


……本当に分かっているのだろうかこの娘は? 滅茶苦茶無理しそうだな。心配だよおじさんは……。


後色々話をしていると


~🎵 ~🎶


俺のスマホから着信音が鳴る。


画面には " 赤坂 晃 " の文字が出ていた。


「ちょっとごめんね。 同僚から電話が掛かってきた。 出ても良いかな?」


刹那ちゃんに断りを入れた後、通話をタップする。



『丹羽~! 聞いてくれよ~!』


相変わらず大きな声がスマホから響く。 あ~煩い! 耳がキンキンする。


「赤坂、もう少し声を小さくして喋れ! 耳が痛い!」


赤坂の声は刹那ちゃんにも聞こえていたみたいで、賑やかな人ですね。と笑われた。


『お、おう悪い。 聞いてくれよ丹羽』


「何があったんだ?」


『それがさぁ、今日ライブのチケット先行受付だったじゃん』


「そうだったな。で? それがどうしたんだ?」


『……買えなかった』


「え?」


『買えなかったんだよ~! 予約開始してから30分間電話が繋がんなくてさ、ようやく繋がったと思ったら、どの席もSOLD OUTだって……。 死にたくなる……』


……あらら。気合い入ってたもんなぁ。絶対手に入れるって。


すると、俺の表情を見た刹那ちゃんが


「圭介さん、どうしたんですか? 浮かない顔してますが?」


と小声で聞いてきた。


「赤坂ごめん。直ぐにかけ直すから良いか?」


『あ、ああ。じゃあまた後で話聞いてくれよ』


俺は赤坂との通話を一回終了させる。


「別に通話を終わらさなくても良かったんじゃ?」


刹那ちゃんが俺に申し訳なさそうに聞いてくる。


「人と話をする時に、他の人と話ながらなんて失礼だろ? 話に身が入らなくなる。俺はそう思っているんだ。だから赤坂との通話を一回終了させた」


「……そうなんですね。私も見習わないと」


感心した表情で何度もウンウンと頷く刹那ちゃん。


そこまで感心されると何か恥ずかしいな。


「あ、さっきの話ね。俺の同僚に赤坂って奴が居るんだけど、そいつ刹那ちゃんの大ファンでさ。 今日刹那ちゃんのライブチケットを予約しようと頑張ったみたいなんだけど、全部売り切れて取れなかったらしいんだ。だからその愚痴を俺に聞いて欲しくて電話してきたという訳」


「ふ~ん、そうなんですね。 私チケット用意しましょうか?」


刹那ちゃんの申し出に俺はビックリした。


「えっ!? 良いのかい? かなり入手困難なチケットだよ? 大丈夫なのかい?」


そう訪ねると、ニッコリ微笑みながら


「大丈夫ですよ。だって、私のライブチケットですよ? 準備出来ない訳ないじゃないですか」


……そうでした。俺の目の前に居るのは 由井刹那さん御本人でした。


「じゃあお願いできるかな?」


「了解です! 任せて下さい!」


「ありがとう! 御礼に今度お願い事を1つ聞くから」


「っ! な、何でもですか!?」


「おう。俺に出来る事なら何でも聞くよ」


「言質とりましたからね! 後で無し!なんて駄目ですからね!」


「分かってるよ。約束は絶対だ」


「分かりました! 必ず用意します! 期待していて下さいね! 良い席を二枚用意しますね!」


「や、チケットは一枚で良いよ。赤坂の分だけで十分」


俺が刹那ちゃんにそう言うと、急に刹那ちゃんの機嫌が滅茶苦茶悪くなり、頬をぷ~っ!と膨らませている。


「ど、どうしたんだ!? いきなり機嫌が滅茶苦茶悪くなったけど!」


「……やっぱりチケット用意するの止めようかな?」


そ、それは困る!


「い、いやそれは大いに困る! 用意してくれるんじゃなかったの?」


「だって……圭介さんのチケットはいらないって言うから……」


「だって俺がライブに行きたいんじゃなくて、赤坂が行きたいんだから」


「……私のライブ来て下さい」


「だからね、ライブに行きたいのは俺じゃなくて」


「来て下さい! じゃないとチケットの話は無し!」


え~っ。 俺が難色を示していると、物凄く拗ねた顔で


「く~る~の~! 来てくれないと嫌なの~!」


と駄々をこねだした。


……もう一度言おう。 何だこの可愛い生き物は。


「……分かったよ。行くよ。だからチケット」


俺は仕方なく折れた。そうしたら刹那ちゃんの機嫌が滅茶苦茶良くなって


「やった~! 圭介さんが来てくれる! 私滅茶苦茶頑張る! チケットはちゃんと二枚用意しますね!」


全身で喜びを表す刹那ちゃん。


……俺、この娘には勝てないかも知れない。


その後ニコニコ顔の刹那ちゃんの横で赤坂に電話を掛ける。


『もしもし……』


「赤坂? 喜べ。俺の知り合いにって痛い!」


知り合いって言ったのが気に入らなかったのか、刹那ちゃんが俺の腕をつねってきた。地味に痛いから止めて下さい。


『どうした?大丈夫か?』


「大丈夫だ。で、話の続きな。知り合いって痛い! っ。知り合いに由井刹那さんのチケットを譲ってくれる人が居るんだけど、お前チケット要るか?」


『お前の 痛い! って言葉が物凄く気になるが。是非ともお願いします!』


「じゃあお願いしとくわ。でも、席に文句つけるなよ」


『当然! 文句なんてつけないよ! 丹羽、ありがとう! この恩は必ず返すからな!』


「期待しないで待ってるよ。じゃあまたな」


『ああ。またな。本当にありがとうな!』


そう言って赤坂との通話を終了させる。


「刹那ちゃんや。通話中に腕をつねるの止めてくれるかね?」


「だって……知り合いじゃないもん。彼女だもん」


そんな拗ねた反応を見せる刹那ちゃんが可愛かった。
























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