第42話

丹羽純平 俺の親父だ。親父の職業はサラリーマン……なのだが、筋肉質な身体付きをしている。 例えるならば、スーツを着た熊と言えるだろう。


「あの○EXUSは俺の車だよ」


「お前の車か! お前、軽自動車じゃなかったか?」


「最近変わったんだよ」


「あれって新車? それとも中古車?」


「新車だよ」


「……お前思い切ったな。ローンか」


「……一括だよ」


俺がそう言うと、親父は絶句した。


「お前そんな金何処に有ったんだよ?」


親父が俺に聞いている姿を見て、栞が親父に


「その○EXUSって車、そんなに凄いの?」


と何気なく聞いた。 親父は興奮気味に


「栞は知らないと思うが、圭介の車は新車で購入すると1000万円を超す車なんだよ」


それを聞いて栞は滅茶苦茶ビックリしていた。


「兄ちゃん本当なの!?」


「あ、ああ。本当だ」


そこで栞は何かを察したみたいで


「兄ちゃん、もしかしてその車を購入したのって」


「……刹那だよ」


「やっぱりね。だと思った。 刹那さん、兄ちゃんに甘過ぎませんか?」


栞は刹那に向かって苦笑しながらそう言った。


「別に甘いなんて思ってませんよ? 私は圭介さんが喜んでくれるなら何だってしますけど?」


賑やかに笑う刹那。


「ん? 所でこの美人のお姉さんは誰だ?」


やっと親父が刹那に気付いて俺に聞いてきた。


「彼女は」


俺が刹那を紹介する前に


「初めましてお義父様。私、圭介さんと結婚を前提にお付き合いをさせて戴いています 由井刹那 と申します。ご挨拶が遅くなってしまい誠に申し訳ありませんでした」


と親父に深々と頭を下げて挨拶をした。


「や、こ、これはご丁寧にどうも。圭介の父親の丹羽純平です」


親父も刹那に頭を深々と下げて挨拶をする。


互いの挨拶が終わり、親父は俺に


「圭介、お前いつの間にこんな美人さんを彼女にしたんだ?」


「去年の9月頃だよ」


「……彼女を脅したのか? それとも弱みでも握ったか?」


何て酷い言葉だ! 憤慨した俺が否定しようとすると


「違います! 私から告白したんです! 弱みを握ったなんてとんでもない! ……圭介さんに謝って下さい!」


凄い剣幕で親父に噛み付く刹那。


刹那の勢いに、親父は素直に


「圭介、失礼な事を言って済まなかった」


と頭を下げてきた。 親父が素直に謝るのは本当に珍しい。俺は正直ビックリしていた。


「それはさておき、圭介さっきの質問の続きだが、あの車は本当に一括で支払ったのか?」


俺は少し躊躇ったが、正直に話す事にした。


「誕生日のプレゼントに刹那に買って貰った」


「……は? もう一度言ってみろ」


「だから刹那に……」


俺がそう言った途端、親父の雰囲気が一気におかしくなる。


「圭介! 歯ぁ食い縛れ!!」


俺は親父に思いっきり頬を殴られた。


殴られた勢いで俺はその場に倒れこんだ。


「圭介さん!!」


「兄ちゃん!!」


「お父さん!? 何やってるの!?」


刹那は直ぐに俺に走り寄ってきて俺を抱き締めてきた。


痛~っ! 頬がジンジンしている。それに鼻から熱い物が出ているのが分かる。多分鼻血だ。


「圭介! 見損なったぞ!! 女性にそんな大金貢がせるなんて! 根性が腐ったか!! この下衆が! 一回死ね!!」


親父は憤怒の表情で俺に向かって罵詈雑言を入れる。


俺は半分意識が飛びかけ、そして直ぐに気絶した。



……はっ!? 俺は一体どうなったんだ!?


意識を取り戻した俺の今の状況を説明すると、鼻にティッシュを詰めた状態で刹那の膝枕で寝ていた。


そして俺の目の前では、両頬を真っ赤に腫らした親父が土下座をしていた。


一体どんな状況なんだ? 何故親父が土下座をしているんだ?


俺は栞に説明を求めた。 刹那には聞けそうにない。何故なら、刹那は俺を膝枕しながら親父を凄い形相でずっと睨み付けていたからだ。


栞の説明では、俺が気絶してから直ぐに刹那が物凄い形相で親父の両頬を往復ビンタしたらしい。 そして


「圭介さんが下衆ですって!? 何をたわけた事を! 圭介さん程紳士的な男性はいません! 私が圭介さんに貢いだ? あれは誕生日プレゼントです! あのくらい私の稼ぎなら余裕で稼げます! 私が勝手にプレゼントとして買った物なので、とやかく言われる筋合いはありませんよ! お義父様、私は貴方を許せそうにありません!」


刹那はそう言った後、もう一度親父の両頬を張り倒したらしい。


お袋が親父に刹那の職業を説明すると、納得したみたいで、親父は俺を膝枕している刹那の前に土下座をした。


という事らしい。


俺は思った。刹那を本気で怒らせてはいけないと。



その出来事から少しして、冷静になった刹那が親父に平謝りをしている。


「本当に申し訳ありませんでした! 頭に血が登っていたとはいえ、お義父様に対して大変失礼な事をしてしまいました! 何とお詫びをすればいいのか」


親父も刹那に平謝りをしている。


「私こそ事情も知らずに圭介の事を罵ってしまい誠に申し訳ない事をしてしまった。本当にすまなかった」


平謝りをし合う2人。端から見れば異様な光景だ。


するとお袋が


「両方が謝ったんだからもうこれでおしまいね」


と纏めてくれた。 流石お袋だ。



……所で、肝心な何かを忘れている様な気がするのだけれど。 何だっけ?











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る