第13話

今日は10月22日(金) 明日・明後日は会社が休みだ。


俺は今日の夜にでも夜釣り(太刀魚狙い)に行こうと画策していた。 その為には、仕事を早めに終わらせ定時に退社する必要がある。


俺は会社で扱っている商品のパンフレットを鞄に入れて外回りの営業に向かった。


運が良いことに、午前中の内に何件か契約が取れた(ちなみに俺の会社で扱っている商品はコピー機やその物品だ)のでホクホクだ。 この調子なら定時にには帰れそうだ。


俺は休憩がてらその辺にあった公園のベンチに座り、

自販機で購入した缶コーヒーを飲みながらスマホで今夜の天気と潮の状況を調べていた。


「よっし! 今夜は雨は降らないな。潮の状況も丁度良いし、これなら大きめサイズの太刀魚が釣れそうだな♪ もし釣れたら明日の飯のおかずは太刀魚の塩焼きだな♪」


捕らぬ狸の皮算用という奴だ。でも、そんな事を考えている時が1番楽しい。


「……よし。後何件か回ってから会社に帰りますか。もう少し契約とれたら良いなぁ。ボーナスにも響いてくるし」


飲み干した缶コーヒーの缶を屑籠に入れてベンチから立ち上がろうとした時、俺のスマホから


~🎵 ~🎶


着信音が鳴った。 ん?誰だろうこんな時間に。会社からかな?


スマホの画面を見ると " Shetuna " の文字か。


どうしたんだ? 何かあったのだろうか?


通話をタップし


「もしもし?」


『あっ圭介さん? 今大丈夫ですか?』


「大丈夫だけど、何かあったのか?」


『今レコーディングが終わって休憩中なんですよ』


「お疲れ様」


『ありがとうございます♪ それで……』


「それで?」


『急に圭介さんの声が聴きたくなっちゃって……♥️ お仕事中なのは解ってましたが……掛けちゃいました♥️ 御迷惑…でしたか?』


……可愛いなぁ俺の彼女は。


「や、大丈夫だよ。今丁度休憩中だったから」


『良かった~♥️ お仕事の邪魔したかと思ってヒヤヒヤしてました~』


やっぱり可愛い。


「俺も刹那の声が聴けて嬉しいよ」


『~~っ! ウチも滅茶苦茶嬉しい♥️ 次のお仕事も頑張れそうです!』


「そりゃ良かった。頑張ってね。前みたいにサボっちゃいけないよ?」


『も~っ! もうそんな事しませんよぅ! ちゃんと真面目にやってますぅ! ……圭介さんの意地悪』


……グハッ! 可愛らしく拗ねた刹那の声が胸に響くな。


『あっ、圭介さん、あの、今日の夜は空いてますか?』


「うん? 今夜? 今夜は海に夜釣りに行こうと思ってたんだけど? どうして?」


『明日・明後日と珍しくオフなんで……圭介さんに逢いたいな……なんて思ったりしちゃって……』


……夜釣りは諦めるかな。何時でも行けるしな。


「良いよ。俺も刹那に会いたいし」


『! 良いんですか!? でも、圭介さん夜釣りに』


「良いんだよ。夜釣りは何時でも行けるしね。折角刹那が休みなんだし、逢いたいって言ってくれているんだ。俺は刹那を優先するよ」


『~~っ♥️  圭介さん大好き❤️』


結構大きめの声で喜ぶ刹那。 おいおい、そこスタジオだろ? そんな大きな声出して大丈夫なの?


「じゃあ今晩何時に会おうか? 刹那の都合の良い時間で良いよ」


『それじゃあですね~、PM8:00に圭介さんのアパートに行きます。その時間で良いですか?』


「大丈夫だよ。じゃあ今晩ね」


『はい♥️ 楽しみです! 圭介さんお仕事頑張って♥️』


「刹那もね」


刹那が電話を切るのを待ってからスマホをポケットにしまい


「じゃあもうひと頑張りしますか」


俺は意気揚々と営業の続きに出掛けた。






時間は流れてPM5:00


今日の業務は終了っと。 定時に帰れるな。


デスク上に出していた荷物を鞄に片付けて退社しようとすると


「お~い丹羽、仕事終わったから飲みに行かないか?」


と赤坂が声を掛けてきた。


「悪い。今日はパスで」


「お? 何か用事か?」


「ああ。今晩刹那が家に来るんだ」


「ほほう。という事は、今晩はお楽しみですね?」


俺は無言で赤坂の頭を思いっきりシバいた。


「痛っ! 冗談だって。怒るなよ」


「シバくぞこの野郎」


「シバいてから言うなよ。じゃあ仕方ないな。俺一人寂しく飲みに行ってくるわ」


「悪いな」


「良いって良いって。じゃあ刹那さんによろしくな」


笑いながら赤坂は俺の元を離れていった。


さて……帰って部屋の掃除でもするかな。




帰宅して早速部屋の掃除を始めた。 ……この部屋の惨状は刹那には見せられない。 ゴミを纏めてゴミ袋に入れる。 散らかっていた衣類を洗濯機の中に放り込む。 そしてお宝を箱の中に押し込みベッドの下に箱ごと押し込む(刹那にはこのお宝は見せられない。見つかる訳にはいかない。絶対にだ!)。


よし、粗方片付いたな。 後は刹那が来るのを待つだけだな。


気付いたらPM7:30になっていた。 刹那が来るまで後30分ある。 その間ネットサーフィンでもしていようか。


俺はスマホを取り出してウェブを開いてネットサーフィンを始めた。


それからキッチリ30分後


" ピンポーン "


部屋のインターフォンが鳴った。 どうやら刹那が来たみたいだ。


俺はネットサーフィンを中止し、玄関のドアを開け


「いらっしゃい。時間ピッタリだな」


玄関にはニコニコ顔の刹那が立っていた。大きなバッグを持って。


「中に入りなよ」


「お邪魔しま~す♥️」


「はいいらっしゃい。って大きなバッグ持ってるな。重いんじゃ無いのか? こっちに貸して。運ぶから」


バッグを受け取ろうと手を伸ばすが


「大丈夫ですよ。中身は衣類ですから」


と断られた。 本当に大丈夫なの?


中に入ってきた刹那の一言目が


「……掃除しました?」


よく気付いたな。


「そうだけど何で分かったんだ?」


「だって、前に来た時と物の配置が違うんだもの」


どうやら刹那はこの前来た時、部屋の中の構造を憶えていたみたいだ。


……あの時お宝出しっぱなしにしてなかったよな?


内心心配になっていると、リビングの中央まで移動した刹那が


「……圭介さん? 肌色一杯の薄い本が見当たらないんですが、捨てました? ウチ的には嬉しいんですが//////」


……やっぱり出しっぱなしにしていたんだ。恥ずかしい! 俺は顔を両手で隠してしまった。



すると刹那は荷物を置いた後真っ直ぐに洗濯機に向かい、洗濯機の中を覗き込み


「駄目ですよ? 洗濯物はちゃんと直ぐに洗わないと。不衛生です」


そう言ってテキパキと洗濯機(家の洗濯機は乾燥機付のドラムタイプ)に洗剤を入れてスイッチを入れた。


「も~っ。これはウチがしっかり圭介さんの身の回りをお世話しないと駄目ですね。 ゴミ部屋になっちゃう」


お小言を俺に良いながらも何だか嬉しそうな刹那。


……すみません。でも、一人暮らしの男の部屋なんてこんな物だと思うんだけどなぁ。 赤坂の部屋なんて俺の所より汚いし。


次に刹那はキッチンに移動してシンクの中を見て


「圭介さん! お皿やコップは使ったら直ぐに洗って下さい! 次に使う時に困りますよ!」


と腰に手を当てて注意をしてきた。


「ご、ごめんなさい」


「も~っ!だらしないんだから」


……何だか雰囲気は恋人じゃなくて新妻だな。



それから2時間後、洗濯物も綺麗に乾燥し片付けた後(夕食は刹那が作ってくれた)


「じゃあ準備しましょうか」


刹那は持ってきたバッグを開けて中身を取り出し始めた。


「? 何の準備を?」


もうPM10:00を過ぎている。


「何のって、圭介さん今日夜釣りに行く予定だったんでしょ? その準備です」


確かにその予定だったけど。 刹那がバッグから取り出した衣類は 長袖のシャツ ジーンズ 帽子 ライフジャケットだった。


「圭介さん、お部屋少し借りますね。着替えをしますから。圭介さんも準備をしてください。 あっ、覗いても良いですよ? むしろウェルカムです♥️」


刹那は衣類を持って隣の部屋に入っていった。


「覗きません!」


俺は顔を真っ赤にして刹那にそう言った。


……準備するか。


俺はロッドとクーラーボックスを取り出して準備をしだした。 着替えは刹那が絶賛着替え中の部屋の中にあるので、後にする事にした。















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