第14話

俺達は今防波堤に来て竿を垂れている。 そう、刹那が溺れていた場所から少し離れたあの防波堤だ。


時間はPM11:30。


あれから俺達は直ぐに準備を終わらせ(刹那が着替えた後、俺がちょちょいと着替えるだけだったので準備は早かった)、俺の愛車に道具を載せて発車する。そして、釣具屋さんで餌と氷を購入して約30分位車で走った場所にある防波堤に到着する。


直ぐにロッド等を車から降ろして準備を終わらせる。 刹那の分も用意していたが、刹那は " ウチは圭介さんの釣りをしている姿を見るだけで満足♥️ " と言ってきたので、自分のだけを準備した。


俺は勢いよく竿を振り仕掛けを海に投げ入れる。そして防波堤に座り当たりを待った。


で、現在に至るという訳だ。


海面を月の光が照らしてとても幻想的な雰囲気だ。


波の音だけで後は何も聴こえない。とてもリラックスできるシチュエーションだ。


すると、俺の隣に座っていた刹那が俺の肩に頭を預けてくる。


「えへへ。何だか物凄くロマンチックだよね♥️ 周りには誰もいない。圭介さんとウチの二人っきり。 騒がしい音も聴こえず波の音だけ。……滅茶苦茶素敵。 ウチ、来て良かった♥️」


「俺も今それを思っていた。 俺も刹那と2人だけで来れて良かったよ」


「「…………」」


本当に周りは静かで波の音だけしか聴こえてこない。


俺と刹那は自然と見詰めあった。 そして、2人の顔の距離がゆっくりと近付いて……


その時、仕掛けの浮きが勢い良く水面下に入ったのを目線の端で確認した。 確認してしまった。


「ごめん刹那! 浮きが沈んだ! 合わせないと!」


俺は急いで竿を持って、タイミングを合わせて竿をしゃくりあげる。


見事針に太刀魚がHITし、俺は慎重にリールを巻き太刀魚を釣り上げる。


おおっ! 結構大きめサイズだ!(俺の指4本分位の幅)


手応えもバッチリだったし、俺は大満足だ。 しかし、刹那は頬を膨らませて


「む~~~っ! もう少しだったのにぃ~~! お魚さんの馬鹿ぁ!」


と怒っていた。



それから暫くの間太刀魚が爆釣し、あっという間にクーラーボックスが一杯になった。


初め刹那は太刀魚が釣れ出して余り構ってやれなくなった為かむくれていたが、クーラーボックスが太刀魚で一杯になるにつれて


「わ~っ! 凄い凄い! お魚さんが一杯だ~! 何だか嬉しくなっちゃった!」


と言って太刀魚の顔を触ろうとした。


「刹那! その魚の顔は触っちゃ駄目だ! 指が切れる!」


俺が少し大きな声で刹那に言った為、刹那はビクッと身体を震わせ触ろうとする手を止めた。


「その魚の歯は滅茶苦茶鋭くて、刃物みたいな感じなんだ。迂闊に触ると、包丁で切ったみたいにスッパリと切れるから触っちゃ駄目だよ」


俺の言葉を聞いて刹那は顔を青くして何度も頷いていた。 良かった。刹那の綺麗な指に傷がいく前に止める事が出来て。


「このお魚さん、そんなに危ないお魚さんだったんだね」


刹那は太刀魚をじっと睨んでいた。




……そろそろクーラーボックスに入らなくなったから撤収するか。もう少し大きめのクーラーボックスを買っておくべきだったと後悔する。


「刹那、そろそろ帰ろうか。もう一杯釣れたから」


その辺に居た蟹を弄って遊んでいた刹那に声を掛ける。


「は~い。蟹さん、またね♪」


刹那は蟹に小さく手を振ってから俺の元にやってきた。


道具を片付け車に詰め込んだ後、時間を確認すると


AM2:00になっていた。 ……道理で眠くなっている訳だ。


俺は車のエンジンを掛けた後、助手席に座った刹那の方を見た。


刹那は助手席に座ったまま幸せそうな顔をして眠っていた。


……何とも可愛らしい寝顔だ。


……俺はつい刹那の頬を軽くつついてしまう。


「……ううん」


俺が頬をつついた途端、フニャリと笑みを浮かべ ムニュムニュと口を動かす刹那。


……やっぱり何度でも言おう! 俺の彼女は滅茶苦茶可愛い!と。


俺は出来るだけ刹那を起こさない様に慎重に車を発車させ家路を急いだ。


車を走らせること30分。 アパートに到着。 駐車場に揺らさない様に車を駐車し、可哀想だが寝ている刹那を揺すって起こす事にした。


「刹那、刹那。アパートに着いたよ。起きて」


刹那の肩を優しく揺すってみると


「う、ううん。 もう起きる時間?」


……寝ぼけているな。


「俺のアパートに着いたよ。さぁ車から降りるよ。起きて刹那」


「……分かった~」


刹那は何とか車から降りたが、何とも足元がおぼつかない。歩きだす刹那にハラハラしながら付き添い、何とか部屋まで誘導した。


「ほら刹那、ベッドに横になりな。眠いだろ?」


「……うにゃ。圭介しゃんは? どこでにぇるにょ?」


「俺の事は気にしないて良いから。早くベッドで寝な」


「うん。圭介しゃん。ありがとう~♥️」


刹那はそう言ってベッドに入った。そして数十秒後、直ぐに寝息が聞こえ出した。


……疲れてたんだな。   俺は刹那の可愛い寝顔を少しだけ眺めた後、リビングの椅子に座って、さっき作ったインスタントコーヒーを一口飲んだ。




チチチチチ……


外から鳥の鳴き声が聴こえてきた。


んあ……今何時だろうか? 俺は腕時計を確認する。


AM6:00を示していた。


……身体が痛い。どうやらコーヒーを飲んだ後そのまま机に臥せて寝てしまったみたいだ。 俺は椅子から立ち上がり肩と首を回した。


" ゴリゴリッ! "


と音がする。結構気持ちいい。


俺は寝室に移動しベッドを見ると、そこには幸せそうな顔をして寝ている刹那の可愛い姿があった。


ふふっ。 気持ち良さそうに寝ているな。 起こすのは可哀想だから、もう少しだけ寝かせてあげよう。


俺は静かに寝室から出る。


さて、朝食でも作るかな? どんなメニューが刹那は喜ぶかな? 和食? 洋食?


そんな事を考えながら俺はキッチンに移動した。

































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