第27話

「本番まで後30分です! マネージャーさん! 由井さんにスタンバイする様に声を掛けて下さい!」


「分かりました! 直ぐに準備させますので!」


俺はディレクターさんの指示により急いで刹那の楽屋に向かう。


楽屋の扉を開けて


「刹那! 後30分で本番だから、直ぐに準備して!」


「大丈夫大丈夫♪ メイクもバッチリだし、衣装もこれでOK♪ 直ぐに出れますよ♪ 後は……」


「後は?」


俺がそう聞くと、刹那は俺をギュッと抱き締めて


「圭介さん成分の補充だけです♥️」


と俺に甘えてきた。


「ほら、それは後で補充すれば良いから、今は早く準備をする! 皆に迷惑掛けないの!」


俺は抱き付いている刹那を引き剥がし注意する。


「む~っ!圭介さんの意地悪! いいもん。後でたっぷり圭介さん成分を補充するもん!」


頬を膨らましながら刹那は可愛く拗ねていた。



今日は12月31日。後少しでカウントダウンライブが始まる。 俺は刹那のマネージャー(仮)としてライブに参加している。


何故こうなったのか……それは数日前に遡る。





クリスマスイブの夜 刹那と結ばれてから、刹那の態度と行動が変わった。 今までも俺に尽くしてくれていたのだが、あの夜以降もっと俺にベッタリとなってしまったのだ。


朝目覚めたら必ず隣で寝ているし、自分も忙しい筈なのに、俺の出勤の支度をしてくれる。勿論俺は遠慮したのだが、頑なに譲らない。 " 圭介さんの準備はウチがする! " と言って聞かなかった。 


そういえば、ここ2~3日で刹那の荷物が俺の部屋に増えて来ている気がするのだが? 2~3日前には俺の部屋に鏡台は無かったと思うんだけど。後、ウォークインクローゼットの中に見慣れない女性物の衣類が数着吊ってある。 ……いつの間に持ってきたんだろうか? あっ、衣装ケースの中に女性物の下着が……💦



それから数日が過ぎて、12月28日 御用納めの日となった。


1日仕事を頑張って帰宅すると、部屋の中では刹那が料理を作っていた。 俺の姿に気付くと


「圭介さん♥️ お帰りなさい♥️」


と言いながら俺に抱き付いてきた。


俺は刹那の頭を優しく撫でてから


「ただいま刹那。今日仕事は?」


「もう少しでカウントダウンライブでしょ? だから今日仕事は夕方迄だったんです。少しでも休みを取る為に」


「そうなんだ。仕事お疲れ様」


もう一度刹那の頭を優しく撫でる。


「えへへ♥️ やっぱりウチ圭介さんに頭を撫でられるの好き♥️」


と顔を少し赤らめて微笑んできた。 やっぱり俺の彼女は最高に可愛い。


上目遣いで俺を見てくる刹那。俺はそのまま刹那の唇に自分の唇を近づけて…… その時


~🎶 ~🎵


刹那のスマホから着信音が鳴り響いた。


刹那は頬を膨らませ


「誰💢 空気を読まない人は💢」


と怒りながら通話をタップして話し始めた。 この場合、空気を読むのは不可能に近いと思うのだけれど。



「もしもし💢 あっ、篠宮さん? どうしたんですか?」


どうやら電話の相手はマネージャーの篠宮さんみたいだ。


「うんうん。……え~~っ! どうするんですか!? カウントダウンライブ迄もう少しなんですよ!?」


……何かトラブルがあったみたいだな。刹那の焦った声が聞こえてくる。


「……どうしよう。 あっ♪ これはチャンスかも……♥️ 篠宮さん、少しだけ待って貰っても良いですか?」


刹那はスマホを押さえて俺に


「篠宮さんが盲腸で入院したみたいで、今動けない状態らしいんです」


そりゃ大変じゃないか!?


「で、篠宮さんが当面の間別のマネージャーをつけるって言ってきてるんです。でもウチ、篠宮さん以外のマネージャーは嫌なんですよね」


まぁ、慣れたマネージャーさんの方が良いよな。


「で、ウチ思っちゃったんです」


何を?


「圭介さん、もう今年はお仕事終わりですよね?」


「ん? 今日で終わりだけど?」


「お願いなんですけど、篠宮さんが退院するまでの間、圭介さんがウチのマネージャーさんをして貰えませんか?」


は? ……刹那さんや。今何と仰いましたか? 理解出来ないんですが?


俺のポカーンとした顔を見て、刹那が


「だ~か~ら~! 圭介さんがウチのマネージャーをして下さいって言ってるんです!」


「いやいや、俺に刹那のマネージャーなんて出来る訳無いだろ!?」


「何でですか!?」


俺は即座に反論


「大体マネージャーなんてやった事無いし、俺に刹那のスケジュール管理なんて出来ないよ! 自分の管理も出来ないのに!」


「大丈夫です! 圭介さんはやれば出来る子です! マネージャーの仕事内容は篠宮さんに教えて貰えば万事OKですよ!」


「お前なぁ、簡単に言うけど」


「それとも何ですか? ウチが他のマネージャー(男性)と仲良くしても良いと圭介さんは言うんですか?」


何故別のマネージャーが男性マネージャーになっているんだよ? 女性かも知れないだろ!?


「ねぇ圭介さん……駄目?」


くっ! 涙目で可愛く上目遣いで見て来るなよ。反則だろ!


「わ、分かったよ! やるよ! やれば良いんだろう?」


根負けした俺は自棄になって答えた。 すると刹那は物凄い笑顔で


「やった♥️ これで暫くの間圭介さんと一緒だ♥️ 仕事するのがめっちゃ楽しみ♥️」


……はぁ。やっぱり俺は刹那には勝てないとこの時再確認した。


「刹那、スマホ貸して」


刹那からスマホを借りて篠宮さんと話をする。


「もしもし丹羽です。刹那から聞きました。当面の間は俺が彼女のマネージャーをする事になりました」


「ごめんなさいね。あの娘言い出したら聞かないから。明日にでもマネージャーの仕事をノートに書いて渡すので宜しくお願いしますね」


「はい。引き受けた以上全力を尽くしますので」


そして少し篠宮さんと話をしてから通話を終了した。


刹那にスマホを返すと、刹那は満面の笑みで


「じゃあ明日から宜しくお願いしますね マネージャーさん♥️」


と言ってきた。


























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