第11話

土・日が終わり、月曜日。 また長い5日間が始まったな。 ……はぁ。仕事ダルいなぁ。


愚痴を漏らしつつ仕事に行く準備を整えてアパートを出る。


駅に着くと、丁度のタイミングで赤坂に出会った。


「よう。おはようさん」


「おす。またダルい5日間が始まったな」


「同感だ。それはそうと、丹羽は土・日何してた?」


「俺か? マイロッドを磨いたり、今の時期に釣れるスポットをネットで検索していたが? あっ、それと部屋の掃除をしていたな」


「……彼女と遊びに行ったりは?」


「ん? してないな」


俺がそう言うと、赤坂は自分の額に手を当て盛大に溜め息を吐いた。 おい、その溜め息は失礼じゃないのか?


「何で溜め息吐いてんだよ?」


「普通、土・日の休みには彼女と遊びに行くだろうが!」


「………」


「……そうだった。丹羽は今まで彼女居ない歴=年齢だったもんな」


「ほっとけ」


「折角 超が付く程の美女が彼女になったんだからさぁ、デートに誘う位しろよ」


「……赤坂、誘わなかったじゃ無く、誘えなかったんだ。よく考えてみろ俺が刹那をデートに誘えない理由を。先ずは何の知識も無く刹那をデートに誘ってみろ。……つまらなすぎて刹那に幻滅される」


「……あ~。そうだな。間違いないな」


「そしてもう1つ」


「もう1つ?」


「彼女の職業は?」


「芸能人」


「そう、芸能人だ。だから俺と遊んでいる時間は無いと思うんだよ」


「……仰る通りでございますな」


「だから俺は休みを自分の趣味につぎこんだという訳だ」


赤坂は俺の言葉を聞いて黙ってしまった。


「……会社行くか」


「……そうだな。行こうか」


こうして片やイケメンのサラリーマンと片や冴えないサラリーマンは会社に仕事をしに向かうのだった。



会社に着いてタイムカードを押す。 さて仕事をしますか。


俺の部署は営業部第1科。 基本的に外回りで、ウチの会社が取り扱う品物をセールスする。


今日は珍しく外回りが無く、部署内にてデスクワークをしていた。 因みに赤坂も同じ部署でデスクワーク中。


……社内のチャイムが12時を知らせてきた。 もうお昼休みなんだな。 昼飯でも行くか。


俺は赤坂を誘って会社近くにある定食屋に行こうとした時


『 営業部第1科の丹羽圭介さん。お客様がロビーでお待ちです。ロビーまで御越しください 』


と社内アナウンスが流れてきた。


……お客様? 俺に?


「お前に客なんて珍しいな。誰だろうな?」


アナウンスに気付いた赤坂が声を掛けてきた。


「俺にも分からん。 とりあえず行ってみるわ」


「面白そうだから俺も付いていって良いか?」


「おう。客の対応終わったらそのまま飯に行こうぜ」


そう言って俺と赤坂は1階にあるロビーに向かった。


1階ロビーはかなりザワザワしていた。 何があったのだろうか? 俺はザワザワしている事が気にはなったが、とりあえず俺の客の対応をする為にロビー内にある受付に向かった。


「営業部第1科 丹羽圭介です。俺にお客様だと言われたんで来たんですが?」


「丹羽さん、そこのソファーでお客様がお待ちです」


俺はソファーの方を見ると、そこには予想していなかった人物が座っていた。


「刹那!? どうしたんだ!?」


「あっ、圭介さん♥️ 来ちゃった♥️ 今日はウチお弁当を作ってきたんです♪ 一緒に食べませんか?」


やっと分かった。ロビーでのザワザワは刹那のせいだった。


「丹羽、刹那さんが何故此処に居るんだ?」


少し遅れてやって来た赤坂がびっくりした様子で聞いてきた。


「刹那がお弁当を作って来てくれたらしい。赤坂、悪いけど……」


「分かったよ。俺だけで飯行ってくるわ。刹那さんに宜しく言っといてくれや」


「分かった。すまんな」


「気にすんな。じゃあな」


ヒラヒラと手を振って赤坂はロビーを出ていった。


「圭介さん、どこでお弁当食べますか?」


「や、純粋にお弁当は嬉しいが、刹那 仕事は?」


「今日はウチPM6:00にスタジオに入れば良いんです。 それまでフリーだから大丈夫です♥️」


「それなら良いけど。来るなら先に連絡欲しかったな」


「ごめんなさい♪ ウチ圭介さんを驚かせたくてアポ無しで来たんです。驚きました?」


「物凄く驚いたよ。俺にお客様って聞いて降りてきたら刹那が居たんだから」


「えへへ。作戦大成功です♥️」


「ああ。やられたよ。でもお弁当だなんて、刹那 大変じゃなかったか?」


「いいえ? 楽しかったですよ。 それに……」


「それに?」


刹那は顔を真っ赤にして俯きながら


「圭介さんの事を思いつつお弁当を作るのは物凄く幸せだったから……♥️」


俺は思わず赤面してしまった。 俺の事を思いつつお弁当を作るのは物凄く幸せって……滅茶苦茶嬉しいけど恥ずかしいな。



周りが一層ザワザワしだした。


" あれって歌手の由井刹那じゃないのか? "


" 馬鹿。違うだろ? だってあの娘 ブロンドヘアだし、目の色も青だぜ? "


" そうだよな。由井刹那は髪の色は黒だし、目の色も黒だったからな。 しかし……滅茶苦茶似てるな? "


" あの娘営業の丹羽の彼女みたいだな "


" あいつには勿体ないぜ。俺、口説いてみようかな? "


等々。 これはまずいな。


「刹那、外に公園があるからそこに行こう」


俺は刹那が持ってきた荷物(中身は多分お弁当だろう。結構重みがある)を片手に持ち、もう片手で刹那の手を握ったり


「け、圭介さん!? 圭介さんがウチの手を!? めっちゃ嬉しいんですけど!?」


「さぁ行こう」


俺と刹那はロビーを出て近くにある公園に向かう事にした。 すると刹那が


「あっ。圭介さん、少しだけ待って下さい」


移動しようとした俺を制止した刹那はさっきザワザワ言っていた社員に向かって歩いていき、その社員に


「私はいくら口説かれても貴方になびく事は死んでもあり得ませんから。悪しからず。 それに、貴方は鏡で自分の顔を確認してから発言した方が良いですよ? 良い眼科知っていますから、その眼科に行くのをオススメします。じゃあ失礼しますね」


ニッコリと微笑みながら言い放った。 そしてその社員の元を離れて戻ってきた。


「圭介さん、お待たせしました。じゃあ行きましょう❤️」


刹那は俺の手をギュッと握り歩き出した。 俺は刹那と一緒にロビーを出て公園に向かった。


……しかし、刹那 滅茶苦茶キツい言葉を放っていたな。 あの社員、固まったまま泣いてたし……。







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