第109話

今日は朝から何故かソワソワ。 誰よりも早く起きて、誰よりも身支度を早く済ませ、皆が起きてくるのを待っている。


背広もクリーニングに出した物を着用済み。シワも噛んでない。 寝癖も直して、普段は付けない整髪剤で軽く髪型も整えた。 体臭も口臭もチェック済み! ちゃんとマウスウォッシュもしたし、いやらしく無い位に香水もつけたし、デオドラントスプレーもバッチリ! これで準備万端な……筈。



そう、今日は久遠と瞬の小学校の卒業式なのだ。 俺は2ヶ月前から会社に有給休暇の申請を入れ、確実に2人の卒業式に出席出来る様に手筈を整えていた。


俺は某アニメの司令官宜しく、両手を顎の所で組み合わせて少々貧乏揺すりをしながらソファーに座っている。



「……圭介さん。いくら2人の卒業式が楽しみだとしても、今の時間から準備して待っているのは早すぎるとウチは思うんですが……。 今何時だと思っているんですか?」


寝ぼけ眼で目を擦りながらベッドから起きてきた刹那が俺に呆れた声でそう訊ねてきた。


「……? 6:30だけど? 何か問題でも?」


「……まだ今日の主役の2人も寝ていますよ。早すぎですって」


「いやいや刹那さんや。今日みたいな大切な日だからこそ、早起きをしてちゃんと準備をして挑まないといけないと俺は思うのだよ。 いざ卒業式の時間になって忘れ物に気付いたり、人様に見せられない様な格好をしている事に気付いたりすると取り返しのつかない事になりかねないからね」


「……ウチ思うんですけど」


「何をだね?」


「……確かにちゃんと準備するのは必要だと思いますが、圭介さんの今の姿はハッキリ言ってやり過ぎだと思いますよ?」


刹那に諭され、俺は初めて冷静になった。


……確かに早すぎたかも。 良く考えたら、卒業式に出るのは俺じゃ無くて久遠と瞬だ。 俺と刹那は保護者席で2人の晴れ姿を見る立場だった。


「……だよね。 確かに早すぎたよ。……何を1人で舞い上がっていたんだろ。うわぁ恥ずかしい//////」


俺は羞恥のあまり両手で顔を隠して蹲ってしまった。


「ふふっ。圭介さんの気持ちは分かります。 我が子の晴れ姿を楽しみにしているんですよね。 気が逸るのも当然だと思いますよ。 でも、少し落ち着いて下さいね」


「……ふぁい」




それからまもなく久遠と瞬が起きてきた。


「ふぁぁ。おはようお父さん、お母さん」


「おはようお父さん、お母さん。あれ? お父さん、もう着替えてるの? 早くない?」


「ふふっ。実はね、お父さんは」


「ち、ちょっ、刹那!?」


「? どうしたの?」


「? 何々?」


「お父さんってば、2人の卒業式が楽しみ過ぎて待ち切れなくって、6:30前から早起きしてお着替えして身なりを整えていたのよ♪」


「刹那、そんな事2人に言わなくても良くない?//////」


刹那に自分の愚行を暴露された俺は、羞恥心で真っ赤になってしまった。 するとそんな俺に久遠と瞬は抱き付いてきて


「お父さん、クーと瞬ちゃんの卒業式を楽しみにしてくれてありがとう♪ 中学生になったらもっともっと頑張るからクーと瞬ちゃんの事を見ててね♪」


「お父さん、ありがとう♪ 俺、卒業式、お父さんやお母さんが恥ずかしくない様にちゃんとやるから」


「…ああ。2人共、小学校最後の卒業式だ。楽しめよ」


「「うん!!」」



そして時間は流れて卒業式本番。


久遠と瞬が体育館に入場してきた時点で俺の涙腺は大決壊。 横に座っていた刹那がそっとハンカチを手渡してくれた。 ……お父さんは感動で涙が止まりませんよ。


そして卒業式代表送辞を久遠が勤めた事で、また止まっていた涙が溢れる溢れる。


2人の卒業式が終わる頃には刹那が貸してくれたハンカチはびしょびしょになっていた。



久遠、瞬。 次は中学校だ。 中学生活楽しんで!














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