第91話
お袋と一緒に病院からマンションへ帰った俺達。
その日お袋は刹那にべったりだった。 病院で刹那にアドバイスをした事をもう一度伝えたり、マンションの中を掃除したり、刹那の身の回りの世話をしたりと何だか滅茶苦茶張り切っていた。
お袋が動いている事に申し訳なくなった刹那が動こうとすると
「刹那さんは今が一番大切な時なんだから、私に任せておいて♪」
と言って刹那をソファーに強引に座らせた。
刹那はおろおろして
「お義母様にそんな事をさせるのは本当に申し訳ないので、私も何か……」
とお袋に声を掛けるが、お袋はニッコリと笑いながら
「いいからいいから♪」
と刹那の申し出を断っていた。
俺はというと、お袋のパシりを命じられる。
「圭介、今日の夕食の食材を買ってきて。 とりあえず買ってくる食材はメモしてあるから。あんたにはしっかりと動いて貰うからね!」
とメモを渡され外に放り出されてしまった。 それを見た刹那が
「私も圭介さんと一緒にお買い物へ……」
と言って俺に付いてこようとするが、お袋が一言
「圭介に行かせたら良いのよ。刹那さんはゆっくり休んでて」
と有無を言わさず刹那を引き留めた。
「でもお義母様……はい。分かりました」
お袋に反論出来なかった刹那は申し訳なさそうな顔をして俺に
「じゃあ圭介さん、お買い物宜しくお願いします」
「ああ。任せておいてくれ。刹那はゆっくり休んでて」
刹那が見送る中、俺は近所のスーパーに買い物へ出かけた。
スーパーで食材をメモ通りに色々買い込みマンションに帰宅。 両手に中身が沢山入った買い物袋を持って移動したから腕がパンパンになってしまった。 う~ん。これはもっと筋トレをしないといけないなと実感した。
玄関のドアを開け
「ただいま。ふぅ。重い」
「圭介さんお帰りなさい♥️ ウチも運ぶの手伝いますね」
刹那が俺が持っている買い物袋を受け取ろうと手を伸ばした時
「圭介、あんたはそのままその食材を冷蔵庫まで運んでよ。刹那さんを使うんじゃないよ!」
とお袋に一喝されてしまった。 確かにこんな重たい物を妊婦に持たせる訳にはいかないな。
「刹那、大丈夫だから休んでて。ありがとう気遣ってくれて」
俺は刹那に笑顔でそう言った。 でも実の所、腕がかなり限界を迎えつつある。 正直早くこの買い物袋を下ろしたい。 俺は大急ぎで買い物袋達を冷蔵庫に運んだ。
買ってきた食材を冷蔵庫に全部詰め込んだ後
「お袋、後は何をすればいいんだ?」
「ご苦労様。今は特に無いよ。あんたも用事が出来るまで休んでて」
「了~解。じゃあ御言葉に甘えるとしますか」
俺は申し訳なさそうにソファーに座る刹那の横に座った。 そして両腕の筋肉を揉みほぐす。 結構キテるな……何とも情けない事で。
腕の筋肉を揉みほぐしていると、刹那が俺の腕をそっと取り
「圭介さんお疲れ様でした。ウチも手伝えれば良かったんだけれども」
と言いながら俺の腕を揉みほぐしてくれる。
「大丈夫だよ。大切な妊婦さんにあんな重たい物は持たせれないって。でもありがとう刹那気遣ってくれて」
「圭介さん……♥️」
それから刹那と2人で会話を楽しんだ。
まだまだお袋からの指令は無いみたいだから、今の内にまだ連絡出来てない所に電話しとくか。
俺はスマホを取り出して電話を掛ける。
「圭介さん? 誰にお電話ですか?」
「ん? えっとね」
『もしもし。兄ちゃんどったの?』
俺が電話をしたのは栞だ。
「今大丈夫か?」
『うん。大丈夫だけど? 何かあった?』
「お前に伝えときたい事があってさ」
『何よ?』
「あのさ、実はな」
『実は?』
「刹那が妊娠した。今妊娠2ヶ月目」
『……兄ちゃん、季節外れのエイプリルフールだね?』
お袋と同じ反応の栞につい笑ってしまった。
「いやいや、本当の話なんだが?」
『……兄ちゃん。嘘吐くならもっとましな嘘吐きなよ』
完全に俺の言う事を信用してないなこいつ。
俺はスマホを刹那に渡した。 いきなりスマホを渡された刹那は " え? " みたいな顔をしている。
「? ウチ? 何故?」
「悪いんだけど、栞の奴 俺の話を嘘だって決めつけてるんだよ。だからさ刹那が説明してくれた方が良いかなと」
「成る程。電話の相手は栞ちゃんでしたか。分かりました。ウチが栞ちゃんに説明しますね」
俺の行動を理解してくれた刹那はスマホを耳に当てて
「もしもし栞ちゃん? さっき圭介さんが言った事は本当の事だよ。 さっきまで私病院に行ってたの。 今お義母様も側にいるよ」
『…えっ? 刹那さん? 刹那さんが言うなら…本当の話? ……えーーーーーーっ!?』
おいコラ💢 会話丸聞こえだぞ! 俺が言った時は信じなかったのに、刹那の言葉なら何故直ぐに信じるんだよ!
慌てた栞は
『彼方君! 刹那さんが妊娠したって! 今2ヶ月目だって!』
『えっ!? マジで!? 姉ちゃんが妊娠!?』
栞の後から彼方君の声が聞こえてきた。 ん? おやおや? お前らもしかして……?
俺は刹那にスマホを返してくれとジェスチャーし、刹那からスマホを受け取る。そして
「なぁ栞、お前彼方君と付き合ってるのか?」
『!? な、なななっ! 何故兄ちゃんがそれを!?』
やっぱりそうだったか。
「お前の後から彼方君の声が聞こえてきたんだよ」
「えっ? そうなんですか? 栞ちゃんと彼方のアホが?」
『姉ちゃん!? アホは酷くね!?』
電話口から彼方君の声が聞こえてきた。
俺と刹那は顔を見合せてニヤニヤ。 とりあえず2人をからかう事にした。
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