第81話

入院してから早いものでもう1ヶ月が経とうとしている。 俺の右足は吊り下げられた状態からやっと解き放たれた。 医師から松葉杖を使えたら歩いてもOKの診断を受けたのだ。 いやぁ~長かったなぁ。 これでもう看護師さんに俺のモスラを見られなくて済むぜ!


ああ。日差しが眩しい。 顔に当たる風も気持ちいい。


今俺は病室から出て病院の中庭に来ている。 久しぶりの外だ。 今日は天気も良く快晴である。 散歩にはうってつけの陽気だ。


……キコキコキコ


ん? 何の音かって? それはあなた、あれの音ですよ。 そう車椅子の車輪が廻る音ですよ。


「圭介さん♥️ 今日はお天気も良くてお散歩には丁度良いですね♥️ 吹いてくる風も気持ちいい♪」


そう。俺は今松葉杖で歩いているんじゃ無くて、車椅子に乗った状態なのである。 そして車椅子を押しているのは我が最愛の妻 刹那である。


「………刹那。俺、車椅子じゃ無くて松葉杖を使って自分で歩きたいんだけど?」


車椅子を押しながらニコニコしている刹那にそう言ってみたが


「メッ! 圭介さんは昨日やっと右足を吊り下げなくても良くなったばかりなんですよ? もし圭介さんが松葉杖を点きながら歩いて転けたりしたらどうするんですか? だからしばらくは松葉杖を使うのはウチが認めません! メッ! です」


と優しく怒られてしまった。


「なぁ刹那」


「なんですか?」


「しばらくって何時まで?」


「う~ん。そうですね~。病院を退院するまで?」


いやいや、それじゃリハビリにならないだろ?


「幾らなんでも退院するまでは長すぎるよ」


リハビリもしなくちゃいけないんだからと刹那に抗議してみた。


「じゃあ圭介さん的には何時から松葉杖を使いたいんですか?」


「出来たら明日から?」


「……圭介さん。 メッ! 明日からは絶対に認めません!」


と刹那は俺の額を人差し指で押しながら怒ってきた。 駄目ですかやっぱり?


「……後1週間したら松葉杖を使って歩きましょうね。ウチも歩く時は付き合いますから」


「何で1週間後なんだ?」


「ん~。ウチの気分かな?」


気分で俺の松葉杖スタートを決めないで欲しいのだが……。



刹那に車椅子を押されながら中庭の舗道を散歩していると


" 見ろよ。由井刹那だ。 "


" マジで!? 何でこんな所で由井刹那が車椅子を押しているんだ!? "


" あの車椅子に乗っているオッサンは誰だ? "


" あの野郎が由井刹那が記者会見で言っていた旦那じゃないのか? "


" うわぁ……不細工な面してやがるな。 あのオッサンじゃ由井刹那みたいな超絶美女には不釣り合いだな "


" あのオッサンより俺の方がイケメンじゃね? あのオッサン相手なら由井刹那をワンチャンNTR出来るんじゃね?"


" 言えてる-W-W-W "



と此方を見ていた若造2人が話しているのが聞こえてきた。


お~お~💢 好き勝手言ってやがるなこの糞餓鬼どもが💢 確かに刹那と俺とは顔面偏差値が天と地程の差があるけど、刹那を愛する気持ち・態度・覚悟はお前ら糞餓鬼には絶対に負ける気はしないんだよ! ブッ殺すぞ糞餓鬼どもが💢


若造2人の言葉にイライラムカムカしていた俺に刹那が


「……圭介さん、ちょっとだけ圭介さんの傍を離れますね。ごめんなさい」


と言って車椅子のブレーキを掛けて俺の悪口と刹那をNTRするって話で盛り上がっている糞餓鬼どもの元へ歩いていった。 しかも早足で。


えっ? 刹那? おいおいおい! 一体何をするつもりだ!? 馬鹿な真似は止めるんだ!?


刹那は糞餓鬼の元に着いた途端、刹那をNTRするって言ってた糞餓鬼の胸ぐらを " ガシッ!! " と掴み上げ


「おいコラ💢 黙って聴いてりゃ好き勝手抜かしてくれたな💢 圭介さんの顔よりイケメンだ? 寝ぼけてんじゃねーぞてめぇ💢 自分の面を鏡でよ~く確認して、全面的に整形してから出直して来やがれ💢 それにウチをNTRするって? 世界が滅亡しても絶対にありえねーよ糞が💢 てめぇに粗末なミミズが付いてるからそんな発想に至るんだろうがよ? だったらウチが今すぐに去勢してやるよ💢 ミンチが良いか? それとも切り取って犬の餌にしてやろうか? あ"あ"?」


とまくし立てた。


いきなり刹那みたいな超絶美女に凄まれ睨まれ死ぬほど罵倒されたら、特殊な性癖が無い限りは滅茶苦茶ビビるだろう。 ほら、刹那に罵倒された糞餓鬼だって今現在進行形で顔色を青くしてビビり散らかしているから。


「す、すみませんでした。調子に乗りました。勘弁して下さい……」


糞餓鬼2人は刹那に深々と頭を90°下げて謝罪した。


「次にウチの大切な旦那様の悪口をまた言ったら、今度こそ社会的にも男としても機能出来ない様にしてやるからな? 分かったな?」


「「…………」」


「返事はどうしたぁ💢」


「「は、はいぃぃぃ!!」」


「分かったら今すぐに目の前から消えやがれ糞餓鬼どもが!!」


刹那に怒鳴られた糞餓鬼2人は脱兎の如くその場から逃げていった。


…………滅茶苦茶ビビった。 刹那ってキレたらあんな感じになるんだな。 極力刹那を怒らせない様にしないとな……。


糞餓鬼どもが居なくなった後、刹那が俺の元に帰ってきた。 そして


「お待たせしました圭介さん♥️ 本当にごめんなさい。勝手に圭介さんの傍から離れてしまって。もう離れませんから安心してくださいね♥️ 圭介さん、愛しています♥️」


と俺に抱き付きながらそう言ってきた。


「アッ、ハイ。オレモセツナヲアイシテマスヨ」


と俺はそう言うしか無かった。 でも刹那を愛しているのは事実だ。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る