第23話
あれよあれよと言う間に決まってしまった俺の引っ越し。 しかも引っ越し日は今日である。
荷物も纏めれていない。どうしたら?と思っていると
引っ越しの業者さんが俺の部屋にやって来た。
「おはようございます! ○○ヤマトです! 今日は宜しくお願いいたします! では早速今から荷物を運び出す作業に入らせて貰います!」
業者の職員さん(ガタイの良い男の人数名と、結構綺麗な女性1名)が部屋の中に入っていく。 俺はさっき声を掛けてくれた女性職員さんに声を掛けようと(お願いしますの声掛けね)すると
「はい。宜しくお願いいたしますね。あっ、釣具等はうちの人の大事な物なので、慎重に扱って下さいね」
と業者さんの後から声が聞こえてきた。
業者さんが後を振り向くと、そこには刹那がニコニコ顔で立っていた。
刹那の今日の格好は、上下揃いのピンク色のジャージ姿。綺麗なブロンドの髪は1つに纏められて、作業の邪魔にならない感じになっている。 やっぱり刹那はどんな服装をしても絵になる。 俺のジャージ姿なんて、只のオッサンにしか見えない。 まぁ、実際オッサンなのだが(26歳 独身)。
刹那は俺の視線に気付いたみたいで、微笑みながら
「どうですかこの格好? 変じゃ無いですか?」
「とても似合っている。刹那はどんな服装をしてもとても可愛い」
と本音9割 からかい1割の感想を刹那に告げると
" ボッ! " 即座にと顔を真っ赤にして、両手を頬に当ててクネクネしながら
「んもぅ♥️ 圭介さんたら♥️ 圭介さんに褒められちゃった♥️ ウチめっちゃ嬉しい♥️」
と女優らしからぬ顔をして悶えている。
そんな刹那の姿を見て、俺も恥ずかしくなってしまった。
ん? 業者さんがこちらを見て微笑ましそうな顔をしているな。 ……出来れば見ないで戴きたいです。 はい。
流石引っ越し業者さんだ。皆さんテキパキと片付けや運び出しを行っていく。 勿論俺と刹那も片付け作業をしたんだけど、業者さんには敵わない。
業者さんが俺のベッドを外に運び出した時、女性職員さんが " キャッ💦 " と声を上げて顔を真っ赤にした。
それもその筈。ベッドが無くなった場所には、肌色多めの薄い本の刺激的なページが開いたままで鎮座していたのだ。
ヤバい! 確か全部片付けた筈なのに! 一冊残っていやがった!
俺は凄まじいスピードでその本を回収する。
回収した途端に、俺の背後から凄まじい殺気が。
「圭介さ~ん💢 ウチにはこの前全部捨てたって言いましたよねぇ~?💢 何であるんですかぁ~?💢」
俺の背後には鬼…もとい刹那が腕組みをして立っていた。
ち、ちょっと待ってくれ! 俺はちゃんと片付けた筈だ!(誰も捨てたとは言ってない) 弁解しようとした途端、俺の右耳に強烈な痛みが走る。
刹那が俺の右耳を結構な強さで引っ張ったのだ。
「ウチという者が有りながら~💢 他のメスに浮気ですか~💢」
イタタタタッ! み、耳が千切れる! 浮気なんてしてない! しかも、それは只の本だろうが! 本に嫉妬しないで! お願いします! 本当に耳が死ぬ!
痛みのあまり持っていた本を床に落としてしまう。 すると、凄い速さで刹那が本を拾い上げると
「こんな圭介さんを誘惑する本はこうしてやります!」
と言って本を持って庭に出ていった。 俺は痛む右耳を擦りながら刹那の後を追った。
刹那は庭に着くと、ジャージのポケットからおもむろにライター(何故刹那がライターを持っている!?)を取り出して、俺の肌色多めの薄い本に火を着けた。そして地面に落とす。
ギャー! 俺のお宝がぁ!
炎に包まれ灰になっていく俺のお宝。
やがて全部灰になったお宝から目を離した刹那は、俺の方を向いて
「もう浮気は許しませんからね。圭介さんにはウチが居るんだから」
……はい。すみませんでした。
その後刹那がボソッと
「後で全部探しだして抹消しないといけないなぁ。害悪滅ぶべし。 悪鬼滅殺です」
と呟いていたのを俺は聞こえてしまった。
……さようなら。俺のお宝達……。
それから直ぐに刹那の機嫌は良くなり、着々と引っ越し作業は進み、後は大家さんに鍵を返すだけになった。
俺の荷物はもう新しいマンションに運ばれ搬入されている予定だ。
俺は刹那と一緒に大家さんの家に鍵を返しに行く。
大家さんの家に着き、呼び鈴を鳴らす。 暫くして大家さんが玄関に到着した。
「大家さん、鍵を返しに来ました」
「丹羽さん。悪いねわざわざ。 引っ越しは決まったの?」
「はい。今日引っ越しました。今まで御世話になりました」
「そうかい。それは良かった。で、隣の別嬪さんはお嫁さんかい?」
「え? いや」
「はい! 妻の刹那と申します。主人が御世話になりました」
と言って刹那は深々と頭を下げた。 おいおい!? 俺達結婚はしてないだろ!?
「そうかいそうかい。丹羽さんはこんな別嬪さんを貰って幸せだね」
「私も物凄く幸せです♪」
俺を蚊帳の外に追い出して大家さんと刹那は楽しそうに話をしていた。
……まぁ良いか。大家さんなら他者に話す心配はないしな。
大家さんと少し話をした後、大家さんの家を後にして、俺達はマンションへ向かった。
部屋に到着すると業者さんが待っていた。
「荷物の搬入は全て終わりました。此処にサインをお願いいたします」
俺は業者さんが差し出した書類にサインをする。
「ありがとうございました。又のご利用をお願いいたします」
そう言って業者さんは帰っていった。 あれ? 引っ越し代金は? 徴収しないの?
不思議に思っていると、刹那が
「引っ越し代金はウチが払いましたので心配ないですよ❤️」
と笑顔で言ってきた。
「後で返すよ。いくら?」
「要りませんよ。引っ越し代金はウチからのプレゼントです」
「えっ? それは流石に」
「いいの! 圭介さんはウチに甘えてくれたらいいの!」
俺と刹那は少しの間押し問答をしたが、聞く耳を持たない刹那の態度に俺は仕方なく折れた。
「今日は本当にありがとう刹那。 良い物件も紹介してくれたし、本当に感謝してるよ」
俺は刹那に深々と頭を下げた。
「どういたしまして。ウチは圭介さんのお役に立てただけで大満足です♥️」
ふと気付くと、辺りは暗くなっていた。
「刹那、夕食でも食べに行かないか?」
「良いですね♪ じゃウチ着替えてきますね♪」
刹那はそう言って部屋を出ていこうとした。
「送るよ」
刹那に声を掛けると
「直ぐに帰ってきますから大丈夫ですよ❤️」
いやいや、夜道を刹那だけで歩かせる訳にはいかない。
半ば強引に刹那を送って行く事にした。
2人で玄関を出ると、刹那が
「少しだけ待っていて下さいね♥️」
と言って自分はバッグからカードキーを取り出した。
ん? カードキー?
刹那は隣の部屋の前まで移動し、部屋の入り口にカードキーを差し込んだ。
" ガチャッ "
隣の部屋の鍵が開く。 も、もしかして
「あれ? 言ってませんでした? ウチの部屋は此処です❤️」
そう言って刹那は部屋の中に入っていった。
……マジかよ。 何だか刹那に都合の良い様に事が進んでいる様な気がするのだが……?
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