第22話

俺 丹羽圭介は只今窮地に立たされている。


非常に困った事になった。


どんな事で窮地に立たされているのかって?


それは……。


もしかしたら俺はもう少しでホームレスになるかも知れないのだ。


事のあらましは数日前の11月15日に遡る。






11月15日は家賃の支払日だ。俺が住んでいるアパートは、今時珍しく手渡しでの家賃支払いなのだ。 毎月15日に大家さんの家に持っていく事になっている。


俺は家賃を封筒に入れて大家さんの家に向かう。


" ピンポーン "


大家さんの家の呼び鈴を鳴らす。 暫く待っていると、大家さんが出てきた。


大家さんは高齢者で足が悪く、歩くのに時間が掛かる。


「丹羽さん。悪いね。待たせちゃって」


「いえいえ。お気になさらず。 これ、今月の家賃です」


俺が家賃を手渡すと、大家さんは申し訳なさそうな顔をして


「ありがとうね。 ……丹羽さん。大変言いづらい事なんだけど」


「? どうしましたか? 何かありましたか?」


少しの沈黙の後、大家さんが


「私ね、今月いっぱいで息子の所に引っ越す事にしたんだよ。 だから、今丹羽さん達が住んでいるアパートを取り壊す事になったんだ。もう維持も出来ないしね」


……何ですと~!?


「だから、悪いんだけど今月いっぱいには引っ越しをして貰いたいんだ。勝手な事を言っているのは分かっているんだけどね……ごめんね」


「……分かりました。そちらの事情もありますし。気にしないで下さい」


俺がそう言うと、大家さんは泣きそうな顔をして


「本当にごめんね」


と頭を下げてきた。 俺は笑顔を作り


「大丈夫ですよ。住む所は直ぐに見つかりますよ。 じゃあ俺はこれで失礼しますね」


家の中に入っていく大家さんの姿が見えなくなってから、俺は盛大に溜め息を吐いた。



「……はぁ。どうしよう」




で、現在に至る……と。


次の日直ぐに仕事終わりに物件を探しに行ったのだが、なにせ家賃がどこも高い。 今の物件と同じ条件で探すと、最低でも1ヶ月10万円はした。 何件も廻ってみたが、やっぱりどこも一緒だった。


ヤバい。ヤバいぞ! このままでは本当にホームレスになってしまう。


俺が部屋の中で頭を抱えていると


~🎵 ~🎶


俺のスマホの着信音が鳴った。


「……はい。丹羽です」


名前を確認せずに電話に出る。


『あっ、圭介さん♥️ 刹那です♪ ってあれ? どうかしたんですか? 声が死にかけてますけど?』


電話の相手は刹那だった。


声のトーンが物凄く低い俺に気付いた刹那は心配した声で聞いてきた。


「……うん。実はな」


俺はここ数日の出来事を刹那に説明する。


『……そうですか。それは大変な事になりましたね(ニヤリ)……』


「そうなんだよ。どうしよう刹那。俺このままじゃ、ホームレスになってしまう。 刹那ともお別れしなくちゃいけなくなる」


『それはあり得ません! ウチは圭介さんとは死んでも別れません! それは絶対です! ……任せて圭介さん! ウチ、良い物件知ってますから!(思ったより早くなったけど、計画を実行に移すチャンスよ!)』


刹那は自信満々にそう言ってきた。


「凄い自信だな? じゃあお願いします。本当にありがとう」


『圭介さんの為ですもん♥️ ウチ、張り切っちゃいます♥️ 圭介さん、明日の夜空いてますか?』


明日は金曜日だから、夜は空いているな。


「ああ。大丈夫だ。でも、夜は不動産屋は閉まっているんじゃ?」


『大丈夫です! ウチの親戚がオーナーの物件を見に行くんで』


「それって迷惑にならないか?」


『任せて下さい』


電話を通してドヤ顔している刹那の姿が想像出来た。


「じゃあ宜しく頼むよ」


『はい♥️』





そして次の日の夜。俺は刹那に連れられて物件を見に来ていた。


……刹那さんや? 俺が想像していた物と違うのだが?


刹那が連れてきてくれた物件は


建物は10階建てで、都心部から約10分の所にある。 玄関はオートロック仕様。 地下駐車場があり、住民専用のジムも付いていた。 部屋の鍵はカードキーで、部屋の中はダイニングキッチン バスルーム 10帖程の広さの洋室が2つ ウォークインクローゼット がある部屋だった。


「どうですか圭介さん♥️ 気に入りましたか?」


ニコニコ顔の刹那。


「……刹那、俺には無理だ」


「え~っ? 何でですか?」


「此処の家賃は絶対俺には支払えない。 ざっと見積もっても○○万円はする。絶対」


顔色を蒼くした俺がそう言うと、刹那は


「えっ? そんなにはしませんよ? 叔父さんが言うには、家賃は1ヶ月50000円って言ってましたよ?」


しれっとそう言ってきた。


!? 1ヶ月50000円だと!? 冗談だろ!? 


そんなに安くて良いのか!? 滅茶苦茶高級な部屋だぞ!?


目を白黒させていると、刹那が


「圭介さん、決めちゃいましょうよ❤️ こんな物件他には無いですよ?」


と耳元で囁いてきた。


俺は熱に浮かされた感じで、つい


「此処に決めちゃうか……」


と言ってしまった。 すると刹那は自分のスマホをバッグから取り出して何処かに電話をし始めた。


「あっ、叔父さん? 刹那です。彼が此処にするっていったから。 うん、うん。その条件でお願い。じゃそういう事で宜しくね」


電話を切った後、刹那が笑顔で


「じゃ決まり♥️ 圭介さん、明日早速お引っ越しだね♥️ 明日ウチ オフだからお手伝いしますね♥️ 早く明日にならないかな~♥️ あっ、契約とか諸々はウチに任せてね♥️」


俺は刹那に言われるがままに頷き、夢心地の状態でアパートに戻った。





~刹那side~


「叔父さん、ありがとう❤️ おかげで圭介さんの新しいお部屋が決まったよ❤️」


『刹那ちゃんには敵わないな。 前々からの計画だとしても、結構強引だったんじゃ?』


「そんな事無いよ? 何か圭介さんが住んでいるアパートが突然取り壊しになるらしくて。ウチとしては渡りに船だったよ」


『本当なら家賃50000円はあり得ないんだからね? 実際家賃は○○万円なんだよ? 刹那ちゃんの頼みだから50000円にしてるんだから。 他の人には内緒にしてよね?』


「分かってるって。叔父さんには感謝してる。ありがとうね」


『まぁ、こっちも刹那ちゃんにはいつも御世話になってるからねぇ。刹那ちゃんのお蔭で商売繁昌してるし』


「Win-Winでしょ?」


『そういう事かな。 お父さん(兄貴)に宜しくね』


「は~い♪ 契約は後日するから」



マンションのオーナーである刹那の叔父は芸能人である刹那のお蔭で商売(アパレルショップ経営)が右肩上がりであり、刹那には頭が上がらないのであった。


だから刹那のお願いは断れないのであった。




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