第78話

「…………此処は何処だ?」


目覚めた俺の視界に入ってきたのは真っ白い天井だった。 そして消毒の匂い。


……今の状況が把握出来ない。


俺は状況を把握しようとして身体を動かそうとした。


……身体が……。 動かそうとすると身体に鈍い痛みが走る。


やっと身体を動かしてみると俺の身体はベッドに寝ていて、俺の右足はギプスで固められ吊り下げられていた。


……うん。 どうやら此処は病院の病室で、俺は右足を骨折しているみたいだな。 で、身体が痛いのは身体中打撲で痛いんだな。


俺がベッド上でモソモソしていると


「うぅぅん……。 あ、あれ? け、圭介さん……。圭介さん!! 起きたんですね!! は、早くお医者様を呼ばないと!!」


と俺の足元にもたれ掛かる様にして寝ていた刹那が慌てて飛び起きて、ナースコールを連打しだした。


そしてナースコールに反応した看護師が


「丹羽さん? どうしましたか? あの、丹羽さん? ナースコールを連打するのは止めて下さい。 今すぐ行きますから。 だからナースコールを連打しないで下さい」


とスピーカー越しに言ってきたが、刹那には看護師の声は聞こえていなかった。 ずっと必死にナースコールを連打している。


「……刹那、看護師さんが困っているからナースコールを手から離そう。な?」


俺が刹那にそう話し掛けると


「あっ、はい」


と言って刹那はやっとナースコールを連打するのを止めて手からコールを離した。


「け、圭介さん……良かったよぅ。ずっと起きないから心配したんですよぅ」


と号泣しながら刹那が俺に抱きついてきた。


「痛い痛い痛い! 刹那! 身体が痛い! 身体がバラバラになっちゃう! 離れて! 力緩めて!」


刹那に抱きつかれた衝撃で俺の全身に強い痛みが走った。 俺は涙目になりながら刹那に離れる様に懇願した。


「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか! 痛かったですよね!」


全身が痛いです。刹那のせいで……とは口が裂けても言えないよな。 まぁ、大声で言った気がするけど。


それから間もなくして医師と看護師が病室に入ってきた。 そして俺に、今の俺の状態を説明してくれた。


医師が言うには、俺の身体は予想通り全身打撲で右足を骨折しているらしい。 全治2~3カ月との事。


「丹羽さん、運が良かったんですよ。下手すれば貴方死んでましたから」


と医師から怖い事を言われてしまった。 ……てめぇ、何処が運が良かったんだよ?


口にはしなかったが、密かにそう思う俺だった。


「圭介さん、2日間の間寝てたんですよ。本当に目が覚めて良かった……」


刹那が泣きながらそう言って俺の手を優しく握ってきた。




それから刹那から話を聞くと、俺を跳ねた車を運転していたドライバーは俺のお見舞いには来ていないらしい。警察には直ぐに通報したみたいだけど。 全部保険会社に任せているみたいだ。 ……糞が。人を跳ねたんだからお見舞い位来やがれ! 弁護士雇ったろか! とことん戦うぞコラ!


と話を聞きながら思っていると、刹那がニッコリと笑いながら


「圭介さん、弁護士はちゃんと雇ったので安心して下さいね♥️ ウチは圭介さんを跳ねた奴を許す気はありませんよ。 ケツの毛までむしり取ってやります! そして絶対後悔させてやりますから!」


と怖い事を言った。 刹那さんや、貴女女性なんだから、ケツの毛なんて言わないよ?


「圭介さん、これから圭介さんが完治する迄ウチが付きっきりで看病しますから安心して下さいね♥️」


「いやいや、刹那には仕事があるだろう? 俺の事は心配しないで良いから仕事頑張って。あっ、でも寂しいからお見舞いには来て」


「嫌です! ウチが圭介さんを完全看護するんです!」


俺が刹那を説得するのに相当な時間が掛かったのは言うまでもない。



「……分かりました。ウチ毎日お見舞いに来ます。例え仕事が詰まっていても必ず来ますから」


「仕事が詰まっている時は無理しない様にね」


「それは約束しません」


「刹那!?」



閑話休題それはそうと


「今日は帰ります。圭介さん、明日も必ず来ますね」


面会の時間が終わり刹那が病室から名残惜しそうに出ていく。 その時


「……糞が。ウチの大切な圭介さんをこんな目に合わせた奴は必ず親族もろとも潰してやるからな」


ボソッとそう言って刹那は病室を出ていった。



……止めてあげて。 相手も悪気があった訳じゃ無いと思うから。

























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