第77話
刹那と結婚式場の話をしてから数日後。
「……何か今日はついていないな。どうしたんだろ俺?」
と呟きながらビジネスバッグを片手に歩道を歩いていた。 ビジネスバッグの中には最新型のコピー機のパンフレットと筆記用具、そしてノートPCが入っているので結構重い。 バッグを持っているのが辛くなる重さだ。
何故にそんな " ついていない " なんて呟いていたのか。 それには訳がある。
朝目覚めたら、隣に居ると思っていた刹那の姿が無かった。 若干焦った俺はベッドから飛び起きて辺りをキョロキョロと見回した。
そこで思い出す。 ……ああ、そうだった。刹那は次のライブの為に早朝からスタジオに行っているんだった。 刹那から聞いていたのに、忘れて焦ってしまったなんて……馬鹿なのか俺は?
ベッドに腰掛け少しだけぼんやりとしていた。 そしてふとベッドの近くに置いてある置時計を見た。
…… 8:20 か……。
……。 ん? な、何だと!? 今8:20だと!? 遅刻じゃないか!?
遅刻ギリギリが9:00だから、後40分しかないじゃ無いか!!
俺は急いでビジネススーツに着替え、寝癖を直す暇も無くマンションを飛び出した。
で、会社に向かって必死にダッシュ。
電車に乗って一息吐きながら腕時計を確認。 …… 9:05 ……はい遅刻確定です……。
諦めた俺は、電車の窓から見える景色をぼんやりと眺める事にした。
そして会社に着いたのが9:30だった。
「丹羽が遅刻なんて珍しいな。刹那さんに起こして貰わなかったのか?」
休憩時間に赤坂が俺に話し掛けてきた。
「刹那は今朝早くにスタジオに行くのを忘れて目覚まし掛けるの忘れていたんだよ。だから起きたら8:20になっていて、慌てて家を出てきたんだ」
「うわぁ、それは御愁傷様だな。 で、お前朝飯食ったのか? さっきから腹の虫がうるさいんだが?」
「……急いでいて食べてない」
「刹那さんに怒られないか? 多分朝飯作ってくれてると思うぞ?」
「……そういえば急いで出る時、視界の端に美味しそうなトーストと目玉焼きが有った気がする……ヤバいな」
刹那は怒りはしないと思うが、折角作った朝食を食べてない事を知れば多分とても悲しそうな顔をするのが容易に想像出来た。
「はぁ~~~~~っ」
ついつい大きな溜め息が出てしまった。
運が悪いのはまだまだ続き、午後からは後輩が仕事でミスをした為、後輩の指導係である俺がそのミスの尻拭いの為に取引先に出向いて頭を下げる羽目になってしまったのだ。 しかも、ミスしやがった後輩は風邪で休みやがっていたから、俺1人で行かないといけなかった。
案の定先方には滅茶苦茶怒られた。 ヤバかった。後少しで取引中止になる所だった。 俺は必死に頭を下げて、何とか許してもらい事なきを得たのだ。
で、冒頭に戻ると。
さぁ、さっさと会社に帰って仕事をしないと。仕事溜まってるからなぁ……。
そんな事を考えながら歩いていると、直ぐ側の路地からいきなり犬に
「ワンッ!!」
「うわっ!? な、何だ!?」
犬に吠えられバランスを崩した俺の右足は
" グニュッ! "
何と犬の糞を思いっきり踏んでしまう。
…………泣きそうだ。 何で今日はこんなに運が悪いんだ?
俺はビジネスバッグからウエットティッシュを取り出して、靴を脱いで踏んだ犬の糞の処理をする事に。
泣きそうになりながら糞をウエットティッシュで拭いていると……
" キキー---ッ!! "
車道からブレーキ音が聞こえてきた。そして
" ドンッ! "
俺の身体を強い衝撃が襲った。 そう、俺は運転ミスをした車に跳ねられたのだ。
俺はその場から吹っ飛ばされる。 そして近くに有った植え込みの中に俺の身体はINする。
な、何が起こったんだ? 何故俺ばかりこんな目に……。
今日は本当に運が悪いなぁ……。
俺の意識はそのままブラックアウトした。
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