第16話

車を走らす事約30分。ようやく目的の場所に着いた。


こ、此処は!?


刹那が今日俺と一緒に行きたかった場所とは、Lのエンブレムの高級車のディーラーだった。


刹那は慣れた様子でディーラーの駐車場に車を停める。


車のメンテナンスに来たのかな? 乗っていた限りでは特には異常は感じなかったと思うんだけど。


それに、俺と一緒に来たかったの意味が分からない。


そう思っていると、店の中から店員さんが出てきて


「由井様、お待ちしておりました」


と深々と頭を下げてきた。


「店長さんこんにちは。お願いしていた件は大丈夫ですか?」


出迎えてくれたこの男の人はどうやらこの店の店長らしい。 刹那が質問すると


「はい。準備はしてあります」


と笑顔で答えていた。 やっぱり車のメンテナンスをお願いしているのかな?


すると刹那は


「じゃあ圭介さん、行こっか。降りて店の中に入るよ」


「ああ。分かったよ。しかし、何だか緊張するな。恥ずかしい事に、俺ディーラーなんか来た事ないんだよな」


「へ~っ。じゃあ初体験だね❤️ 大丈夫。緊張する様な事は1つも無いよ」


俺達は車を降りて店の中に入っていった。


……あれ? 店に入る前に振り向いたが、刹那の車には誰も近付こうとしていない。 メンテナンスじゃ無いのか?




店内には色々な高級車が展示してあった。


うわぁ、すげえ! どれもこれも乗ってみたい車ばかりだ。 あっ、あれなんか約1000万円するやつだぞ!


……俺みたいなモブには一生乗れない車だな。


子供の様に眼を輝かせて車を眺めていた俺に、刹那が


「圭介さん、とっても嬉しそう♪ 何か気に入った車あった?」


「そりゃ勿論! RCも格好いいし、他の車種も滅茶苦茶素敵だ。 でも、1番良いなと思ったのはLXかな。アウトドアには持ってこいの車種だよ。……良いなぁ。 でも俺には一生無理な感じだよ」


興奮気味でそう答えると、刹那は店長を呼んで


「すみません。うちの人があのLX?を気に入ったみたいなので、あれにしますね」


と笑顔で言った。


……へ? 刹那さん? 今何と仰いました?


「せ、刹那さん? 何だかあの車を購入する様に聞こえましたが? しかも、俺が気に入ったからだとも……」


驚いた俺は刹那にそう訪ねたら、刹那は当たり前かの様な感じで首をコテンと傾げて


「はい。そうですが?」


……いやいや! 流石にそれは無い! だって、1000万円以上する車だぞ! 何で当たり前かの様に俺に買ってくれようとしているんだ!?


「刹那、それはいくらなんでも」


「今日圭介さんのお誕生日ですよね? だからBIRTHDAYプレゼントです! 私からの贈り物受け取って下さいね♥️」


……忘れてた。そうだ。今日は俺の誕生日だった。 刹那の気持ちは嬉しいけど、あまりにもプレゼントが高額過ぎる。


「気持ちは嬉しいけど、あまりにも高額」


そこまで言った時、滅茶苦茶嬉しそうな顔で


「前に圭介さんウチの車を見て欲しがっていたじゃないですか。圭介さんの車古かったし、丁度良いかな?と思って。 それとも他の物が良かったですか? 一軒家とかマンションとか」


と言ってきた。


刹那の突拍子もなく、有無も言わせない感じの発言に、俺は


「……車でお願いします」


としか言えなかった。 だって車を断ったら、この娘は本当に一軒家やマンションを買いかねんから。


「ありがとうございます。お支払方法ですが」


店長の言葉に刹那はカードケースから黒いクレジットカードを取り出して


「これでお願いします。支払い方法は分割払いで」


「畏まりました。お買い上げありがとうございます」


……すげえ。ブラックカードなんて初めて見た。 あのカードって無制限だったよな?


店長はブラックカードでの支払いの手続きを終えた後


「手続き諸々を含めて約2ヶ月後の納車になりますが、宜しいでしょうか?」


俺は全力で首を縦に降った。 絶対に金額は聞かない! 多分金額を知ってしまったら死ねる自信がある。


俺は刹那に


「俺の為にこんな高額なプレゼントをありがとう。でもね、これはちょっとやり過ぎな所があると思うぞ。 誕生日のプレゼントなんて、気持ちばかりの物で良いんだから」


「だって……圭介さんが喜ぶと思って……ウチ ウチ……」


俺の言葉に泣きそうになっている刹那に


「……今回はありがたく受け取るよ。でも、次からはこんなプレゼントは無しだよ?」


俺は刹那の頭を優しく撫でた。


「……うん。次からは気を付けるから。ごめんなさい圭介さん」


刹那は俺に抱きついてきて、俺の胸の辺りに自分の頭をくっ付けてスリスリしてきた。……何気にくすぐったい。


俺は今回のプレゼントのお礼を兼ねて、刹那を優しく抱き締めた(分不相応ってやつだけど)。



「ふぇっ!? け、圭介さん!? あ、あの、その、えっ!? ウ、ウチめっちゃ幸せなんですが!?」


抱き締める腕の中で刹那は顔と耳を真っ赤に染めてアワアワ言っていた。



最高のプレゼントをありがとう刹那。今年の誕生日は一生忘れられない誕生日になったよ。



でも、今の愛車はどうしよう?


「今乗っている車はどうしようかな。売りにだそうかな?」


ボソッと言った言葉が聞こえていたらしく


「愛着があるかも知れませんが、そうですね。売りに出しましょう」


状態回復した刹那がそう言ってきた。


「そうだな。そうするか」


帰ったら売値をネットで検索してみるか。年式古いから多分二束三文だろうけど。


さらば我が愛車よ。お前の事は多分忘れないと思う。


今までありがとう。



でも……LXに釣り道具を載せるのは勇気がいるなぁ……。















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