第61話
~🎵 ~🎶
う~ん。何かしっくりこないなぁ。
俺は今ヘッドフォンをして電子ピアノを弾いている。
暇なのか? いやいや、そうじゃ無い。
実は今俺は柄にもなく作曲をしているのだ。
ド素人の俺が何故作曲をしているのかと言うと、刹那に懇願されたからなのだ。
何故こんな事になっているのか……それは先日の夜に遡る。
「ただいま~」
仕事から帰ってきた俺はリビングに鞄を置き、着替えもせずにソファーに座り込む。
そしてテレビを着けて何か面白い番組がしていないかをチェックしだした時
「ただいま帰りました~」
ちょうど刹那が帰宅してきた。
「お帰り刹那」
「ただいま圭介さん。圭介さんも今帰ったんですか?」
多分俺の今の服装を見て言ったのだろう。
「当たり。俺も今仕事から帰ってきた所だよ。…あれ? 刹那、何か元気が無いみたいだけど…どうしたんだ?」
俺は何だか元気が無い刹那を見てどうしたのか聞いてみた。
「あっ、やっぱり分かっちゃいます?」
「そりゃ毎日刹那を見ていたら分かるさ。で、何があったんだ?」
「はい……実は」
刹那の話を聞くと、次の新しい曲をリリースしないといけないのに、歌詞も曲も全く浮かんでこないらしい。 基本的に刹那の曲は自分が作詞作曲しているので、今刹那は大スランプと言えるだろう。
「圭介さん、どうしたら良いんでしょう」
「誰か他の作曲家さんや作詞家さんにお願いしてみるのは?」
「それは何だか負けた感がするので嫌です。今まで自分が作詞作曲をしてきてますから」
「う~ん。じゃあどうしようか?」
2人でソファーに座ってうんうん唸りながら考えていると、急に刹那が何か閃いたみたいな顔をして
「そうだ! ウチの曲を圭介さんが作曲してくれれば良いんですよ! 何で今まで気付かなかったんだろう♪ ウチのお馬鹿さん♪」
などと突拍子の無い事を宣ってきた。
「ち、ちょっと待て! 俺なんかにそんな事出来る訳無いだろ!? 只のサラリーマンだぞ俺は!?」
「え~? でも~。前にウチの為に作曲してくれたじゃ無いですかぁ~」
「あ、あれはあれ、これはこれ! 絶対に無理!」
断固拒否する! 俺の素人作曲なんかで刹那のファンが納得する訳が無いだろ!
「圭介さん! 今回だけ! 今回だけウチを助けると思って! ねっ! お願い!」
刹那は上目遣いで手を合わせてお願いしてきた。
……俺は刹那のこんな仕草のお願い事には弱い。 それを分かっていてやっているのなら、凄い策士だと思う。
「……分かったよ。やるよ。やればいいんだろ? ったく。俺も甘いよな……」
「やった♥️ だから圭介さん大好き♥️」
結局刹那のお願いに負けて作曲する事になってしまった。
「で、どんな曲が良いんだ?」
「う~んとね、今回はバラードでいきたいと思っているんですよ。だから、皆が聞いて泣ける様な曲調でお願いします」
「……泣ける曲ね……。頑張ってはみるけど、駄目でも怒るなよ?」
「大丈夫です! 怒るなんてとんでもない。ウチから無理言って作って貰うんですから。 圭介さんならきっと名作が作れますよ! 確実に!」
刹那の物凄く期待した視線が痛い。
……ま、とりあえず引き受けた以上は頑張りますか。
で今に至ると。
刹那のリクエストはバラード曲だ。 俺は基本的にバラード曲をあまり聴かないので、いまいちイメージが湧かない。 さてどうしようか?
音符を書いては消し書いては消しを繰り返している状態だ。
段々頭が煮詰まってきたな。 少しだけ休憩しようか。
俺はリビングのソファーに座りコーヒーを飲みながら思考を巡らせていく。
……先ずはシチュエーションを考えてみるか。
……泣ける曲なのだから、主人公が最愛の人と死別したなんてどうだろうか? それで、その最愛の人との思い出を考えて涙している……。
……すると、何となくだがフレーズが頭の中に浮かんできた。
お? これはいけるんじゃないか?
俺はソファーから立ち上がり、電子ピアノの前に座ってヘッドフォンを装着し、頭の中に浮かんできたフレーズを弾いてみる。
……意外と良いな。 忘れない内にっと。
俺はそのフレーズを楽譜におこしていった。
それから役3日程費やし(仕事から帰ってからの作業になるのでそんな時間になってしまった)やっと曲が完成した。 3日で作り上げた曲だから、クオリティは期待しないで欲しい。まぁド素人が作り上げた曲だから誰も期待してはいないだろうけど(刹那以外は)。
俺が作曲している間、家事等は刹那がこなしてくれた。
「よし完成だ。多分これで大丈夫だろう」
俺は完成した曲を電子ピアノで弾いてみた。
…🎶 …🎵 …🎶
俺的には泣ける曲が出来たのでは?と思っている。実際俺は曲を弾きながら涙を流がしたのだから。
「ついでだから歌詞も考えてみるか」
俺はこの曲に歌詞を付けてみる事にした。作詞家じゃないから適当な歌詞なのだが。
意外と歌詞は簡単に出来上がり、3時間程で完成した。
" 私は貴方の事を忘れない。 忘れる事なんて出来ない、 今日は貴方の誕生日。私は1人部屋でケーキの蝋燭に火をつける。 貴方との思い出が鮮明に思い出され、涙が溢れて止まらない。 何故今此処に貴方は居ないの……? いつまでも一緒に居るって約束したじゃない……。 初めて会った8月の海。 一緒に過ごしたクリスマス。 あんなに楽しかった日々の中に貴方はもう居ない……。 叶わない願いだけど、もしも願いが叶うなら、もう一度貴方に会いたい。もう一度貴方の声が聞きたい。もう一度貴方に触れたい。 もう一度貴方の笑顔が…… "
俺は完成した楽譜を刹那に見せた。
「やっと出来たよ。本当にド素人の作った曲だからな。期待だけはするなよ?」
「ありがとうございます♥️ 大丈夫ですよ。圭介さんが作ってくれた曲だから、きっと素敵な曲に仕上がっています♪ 弾いてみても良いですか?」
「ああ。それと、はい。遊びで歌詞も付けてみた」
楽譜とは別にさっき作った歌詞も刹那に渡した。
「では早速……」
刹那は電子ピアノの前に座って曲を弾きながら歌い始めた。
ある程度曲を弾きながら歌っていた刹那だったが、急にピタリとピアノを弾くのを止めてしまう。 そして俯いたと思ったら、刹那の身体がプルプルと震えだした。
やっぱり。プロからみたら、こんな曲や歌詞は酷すぎて駄目なんだろうな。多分期待していた物と違うから落胆で身体が震えているのだろう。
「だから言っただろ? 俺には作曲なんて無理だって。なんか御免な。がっかりさせて」
俺は刹那に声を掛ける。すると刹那はピアノから離れて俺に抱き付いてきた。 しかも泣きながら。
「圭介さん…えぐっ…ぐすっ…う、ウチを1人にしないで……いつまでも一緒に居て……ひっく…圭介さん……死んじゃやだ……うぇえええん💧」
どうやら刹那は曲と歌詞に感情移入してしまったみたいだ。
俺は刹那を慰めるのに一苦労した。
結果から言うと、俺の作った曲は採用された。 刹那が求めていた曲調だったみたいだ。 この曲は刹那がもう少しアレンジを加えて仕上げるみたいだ。
でも歌詞は没になった。 なんでも、刹那曰く
" あんな悲しい歌詞は駄目です! 現実になったらウチ、生きていられないから "
との事だった。
それから後、刹那は無事に新曲をリリースした。
歌詞は綺麗さっぱり書き換えられ、恋人を思うラブソングに変わっていた。
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