第128話
日曜日。 もう少しで12時になるかという時間。
今日は刹那が仕事で居ないから、子供達と俺の分の昼食を作ろうとキッチンへ移動する。
すると、リビングで久遠と瞬がテーブルでワイワイと話しながら何かを見ていた。
「2人共何を見てるのかな?」
「あっ、お父さん。 これだよ」
久遠は1冊のアルバムを手に取り俺に見せてきた。
「おっ、アルバムか。懐かしいな。どうしたんだこれ?」
「瞬ちゃんとたまにはリビングを掃除しようかなって話になって、リビングを掃除していたら本棚の中にあったから休憩がてらに見てたの」
アルバムに挟んである写真には若い頃の刹那と俺の姿が写っていた。 刹那は今も昔も若々しくて変わらないな。 むしろ今の方が綺麗になっている様に見えるのは俺の気のせい? それに比べて俺はというと……自分でも老けたなぁと思ってしまう。 昔の写真は髪が黒々としているのに、今はあちらこちらに白髪が混じる様になってしまっている。 ……白髪染めでもしようかしら?
「ねぇお父さん、この写真はお母さんとお父さんが何歳位の時の写真なの?」
と久遠が1枚の写真を指差してそう聞いてきた。
「どれどれ……これはお母さんが20歳位の時の写真だよ。ちなみにお父さんは25歳だったかな」
久遠が指差した写真には嬉しそうな表情で太刀魚を目の前にぶら下げている刹那の姿が写っていた。
この写真は確か刹那と初めて夜釣りに出掛けた時の写真だな。 あの時、偶然にも俺の車の中にカメラがあったから記念に撮ったんだったよな。
「その時、お母さんはそのぶら下げている魚の事を知らなくて、素手でその魚の顔を触ろうとしたんだよ。お父さん、焦ってお母さんに注意したけどね」
うん。懐かしいな。
「お父さん、その魚太刀魚だよね?」
「おっ、良く知ってるな瞬」
「切り身しか見た事ないけどね。 ねぇお父さん、もし太刀魚の顔を不用意に触ったらどうなるの?」
「……太刀魚の歯によって切れます。もうバッサリと。下手すれば指が無くなります」
「「怖っ!?」」
久遠と瞬の2人は自分の身体を抱き締めて身震いした。 いや、脅しじゃ無くて本当だからね。
「じゃあお母さんはお父さんが注意したから怪我しなくて済んだんだ」
「そういう事」
「美味しいお魚なのに危険なんだね。クーも気を付けないと。もしかしたら劉ちゃんに太刀魚の塩焼きとか作ってあげる機会があるかも知れないから」
うんうん。そうだね~。その時は十分気を付けるんだよ~。 多分太刀魚の頭を触る事は無いと思うけどね~。スーパーで売っている太刀魚は大半切り身だから。
「じゃあさじゃあさ、この写真は何時の写真?」
瞬が指差した写真には刹那がステージ衣装を着て、大勢のファンの前で歌っている姿が正面じゃ無くて横から写っていた。
「ああ、それはカウントダウンライブの時の写真だね。 お父さんその時お母さんのマネージャーを臨時で勤めたんだよ。だからお母さんの姿は正面じゃ無くて横から写っているだろ? お父さんが舞台袖から撮影したからだよ」
「ねぇ何でお父さんはお母さんのマネージャーを臨時で勤めたの? お母さんのマネージャーは確か劉ちゃんママだよね?」
久遠が興味津々な様子で身を乗り出して聞いてきた。
「あの時劉ちゃんママが盲腸で入院して動けない状態だったから、お父さんがピンチヒッターで急遽頼まれたからだね。 いやぁ、あの時は本当に大変だったなな。何せする事が初めてな事ばかりだったから。周りの人に迷惑掛けない様にするのに必死だったのを憶えてるよ」
「でもちゃんとピンチヒッター勤めれたんでしょ?」
「勿論。頑張ったからね」
「お父さん何気にスペック高いよね。 何してもそつなくこなすんだから」
「褒めてくれてありがとうね久遠。それとも皮肉かな?」
「勿論褒めたんだよ♪」
「じゃあこの写真は何時の写真?」
久遠が指差した写真には刹那と俺、そしてお義母さんと顔が腫れているお義父さんが賑やかな顔で写っていた。
「その写真はお父さんが初めてお母さんの実家がある愛媛県に行った時の写真かな」
「もしかして娘さんを自分のお嫁さんに下さい!って挨拶しに行ったの!?」
久遠が少々興奮気味でそう聞いてきた。
「その通りだね」
「キャー♪ 一世一代のイベントだ~♪ で、じいじとばあばはどんな反応だったの?」
「始終ニコニコして直ぐにOKをくれたよ」
「そうなんだ~♪ 良かったねお父さん♪」
「本当にね♪」
すると瞬が
「お父さん、何でじいちゃんの顔腫れてるの? もしかして怪我してたの?」
と聞いてきた。
「それはね、お爺ちゃんがお父さんにケジメだっていって、お父さんを1発殴ったんだ。 ほらドラマとかで良く有るだろ? あれだよ。 そうしたらお母さんとお婆ちゃんが激怒しちゃってさ。お爺ちゃんを2人でフルボッコにしちゃったんだよ。だからお爺ちゃんの顔が腫れているんた」
「……お母さんとばあちゃんって過激だなぁ。じいちゃんが不憫だ」
瞬が写真の中のお義父さんに同情の言葉を掛けた。
ふと時計を見ると、12:30になっていた。 通りで腹が空いた訳だ。
「さて、お父さんはお昼御飯を作るとするよ。久遠と瞬もお腹空いただろ?」
「「うん!」」
「リクエスト何かあるかい?」
「「オムライス!!」」
「了解。少し待ってな。 あっ、アルバムの写真の事が知りたけりゃお母さんが帰ってきたら聞いたら良いよ。詳しく教えてくれる筈だよ」
「「分かった!」」
俺はキッチンに移動し、久遠と瞬のリクエストであるオムライスを作り始めた。
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