第132話

テレッテッテ~♪


軽快な音楽が流れる中、久遠は自分が握っているストップボタンを押していく。


…84…35…28…40…62…3…70……


壇上にあるスクリーンに次々と数字が表示されていく。


" よっし! " や " 全然来ない " や " 後少し♪ " 等の声が会場内から聞こえてくる。


「皆様、リーチになった人は居ませんか? リーチになった人は " リーチ! " と自己申告して下さいね!」


幹事の男性社員がマイクを通して楽しそうにそう言うと、遂に


「リーチ!」


という1人の大きな声が会場内に響いた。 皆が一斉に声のした方に視線をやる。 リーチを宣言したのは営業統括部長だった。 


営業統括部長は誰にでも優しく気さくな雰囲気の55歳ナイスミドルだ。 子供さんは25歳の男性と23歳の女性の2人居る。奥様にも優しく、ハッピーな毎日を送っているとの事。 


俺も営業統括部長を見習って刹那や久遠、瞬を毎日幸せにしたいと思って努力しているんだよ。


「営業統括部長が1番初めにリーチになりました! さぁ皆様もリーチを引き当てて下さいね!」


幹事の男性社員がテンションを高くして笑顔でマイクに向かって声を挙げる。


それから直ぐに続々と会場内から " リーチ! " の声が挙がり出す。 おっ? 俺もリーチだ。


「リーチ!」


俺もリーチと宣言する。 すると真剣にビンゴカードを眺めていた瞬から


「ええっ!? マジ!? お父さんリーチかよ!? 俺はまだ4つしか数字揃ってないよ! 羨ましい~!」


との声が聞こえてきた。


「ははっ。瞬も直ぐにリーチになるさ。一緒に豪華景品をGETしような♪」


「うん! 俺、頑張るよ!」


気合いの入った瞬の声。そして瞬はまた真剣にビンゴカードとにらめっこを始める。 俺と刹那はそんな瞬をニッコリと微笑みながら見つめる。


「圭介さん、ウチも後1つでリーチです♪ 今年は何が当たるんでしょう♪ 楽しみですね♪」


「刹那は運が良いから、案外1等の沖縄旅行チケットがあっさり当たったりしてな♪ ちなみに俺の狙い目は65インチの4Kテレビか最新型ゲーム機だよ」


「圭介さんはテレビかゲーム機が欲しいんですか? テレビは何となく分かりますけど、圭介さんゲームなんてしないですよね? 何故ゲーム機が欲しいんです?」


「や、瞬が欲しがっていたからね。もし当たったら瞬にプレゼント♪」


「やっぱりウチが世界で1番愛している旦那様は最高に素敵です♡ 改めて圭介さんに惚れちゃいました♡ もうベタ惚れです♡」


「俺はもっと前から刹那にベタ惚れだよ。これから先も、いや来世もずっと刹那と人生を共にしたいと思っているんだからさ。刹那が嫌だって言わない限り俺は刹那の隣に何時も居るから」


「そんな圭介さんの事嫌だなんて死んでも言いません! ウチは圭介さんしか愛さない。もし世の中に男性が1人しか居なくなったとして、その男性が圭介さんじゃ無かったらウチは迷い無く1人で生きていく事を選びます! もしその男性に言い寄られたとしたらその場で死にます」


「…ありがとう刹那。俺も同じ気持ちだよ。ずっとずっと俺の傍に居てくれよ」


「はい! 勿論です! 来世もウチは圭介さんの妻です! 約束出来ます!」


「刹那…」


「圭介さん♡」


「……お父さんもお母さんもそんなこっ恥ずかしい事をよくこんな大勢の前で堂々と言えるよな? 俺には無理かも」


そんな俺と刹那を見ながら瞬が呆れた顔をしてそう言っていた。 俺は瞬の頭をガシガシと撫でながら


「瞬も今はそんな事を言っているけど、瞬が本当に好きな人が出来た時にはお父さんとお母さんの今の気持ちが分かるさ」


「そうですよ瞬。貴方にもいずれ本当に好きな人が出来る日が来ます。その時はお父さんやお母さんと同じ事を言っているとお母さんは思いますよ♪」


すると瞬は苦笑いを浮かべながら


「……容易に俺がそんな事言っている姿が想像出来たよ。 だって双子である姉ちゃんが劉にあれだもんな」


と壇上に居る久遠を指差した。 指を差されている久遠はというと、劉ちゃんに向かって誰が見ても分かる位の熱視線を向けながらストップボタンを押している。 熱視線を向けられている劉ちゃんは気付いていないみたいだけどね。


すると会場内に " ビンゴ! " の声が響いた。 おっ、営業統括部長かな? 俺はそう思いながらビンゴの宣言をした人物の方を見た。


ビンゴを宣言したのは営業統括部長では無く、俺の友達(俺が勝手にそう思っているだけかも知れないけど)である営業2課の " 神谷雄二君 " だった。


神谷君の横では自分の事の様にはしゃいでいる水無月朋美さんの姿があった。


「先ず1人目のビンゴは君だね。さぁ壇上に上がってきて下さいね♪」


神谷君は幹事の男性社員に呼ばれて、照れながら壇上へと向かって行った。 水無月さんは 「雄二さ~ん♡」 と眩しい位の笑顔をしながら神谷君に向かって手を振っている。 お~お~。目立ってる目立ってる♪ そりゃ目立つだろうな。水無月さんは超絶美人でスタイル抜群な女性だから。まぁ刹那には絶対に敵わないけどな。 うん。この世で1番綺麗で可愛いのは絶対にうちの刹那だから。そこは譲らないよ神谷君。


神谷君が居る場所から少し離れた所に座っている営業2課の課長の禿げ(俺、あの禿げ嫌いなんだよな~。滅茶苦茶偉そうだし、肥ってるし、頭眩しいし、何かとマウント取ってくるんたよ。あの禿げいつかしばく!)から盛大な舌打ちが聞こえてきた気がした。


神谷君は壇上に上がり、軽く自己紹介をした後、用意されていたBOXに手を入れてごそごそとBOX内を掻き回した後、1枚の紙を摘まんでBOXから引き出した。そして幹事の男性社員に紙を渡した。 幹事の男性社員は紙を拡げて紙に書かれている番号をチェック。


「はい、営業2課の神谷君が当てたビンゴの景品は、なんと最新型ゲーム機です! おめでとうございます! 彼に盛大な拍手を!」


パチパチパチパチパチパチ!!


会場内に皆からの拍手が響く。 あの禿げは拍手していなかったが。


神谷君は最新型ゲーム機の箱を持ったまま皆に向かって頭を丁寧に下げていた。 うん。やっぱり好感が持てる好青年だ。


「くっそ~。最新型ゲーム機はあの兄ちゃんが当てちゃったか~。俺が欲しかったのになぁ。まっ、これも時の運だから仕方ないか。 よっし、気持ちを切り替えて俺は第2候補のマウンテンバイクを狙うぜ!」


と瞬が鼻息荒く息巻いていた。 おう、瞬頑張れ♪ お前の運でマウンテンバイクをGETだぜ! お父さんは4KテレビをGETするぜ!












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