第35話

2月14日……それはリア充達の祭典。 そしてリア充が生まれる日。 そしてモテない非リア充には地獄の1日。


そう、バレンタインデーだ。


毎年俺や、俺の同僚(赤坂を除く)は苦渋を舐めさせられてきた。 そりゃ会社の女性社員にチョコレートは貰うけど、袋に入った徳用チョコレートしか貰った試しはない。 で、ホワイトデーにはお返しを求めてくる。


この日だけは赤坂を襲撃したくなる。 だって、あいつは手作りのチョコレートをバッグに入らない程貰っているのだから……。 この世のリア充と赤坂死すべし!


でも! 今年は違う筈! 俺にはチョコレートを貰う当てがある! 


そう、我が愛しの恋人 刹那からだ!


今年から俺も晴れてリア充の仲間入りが果たせる!


ついに俺にもスポットライトが当たる時が来たんだ!





朝目覚めたら、隣には刹那は居なかった。 隣に刹那が居ないと何だか寂しさを感じるな。


ベッドから起きてリビングに移動する。 すると


「圭介さん、おはようございます♥️ 朝食の準備が出来ていますので、顔を洗って来て下さいね♥️」


何だかご機嫌な刹那から朝の挨拶。


「ああ。直ぐに行ってくるよ」


急いで洗面所に行き、顔を洗いリビングに戻ってきた。 テーブルの上にはトーストとスクランブルエッグとウインナーがプレートに乗って置かれていた。ちゃんと俺の好きなブラックコーヒーも準備されていた。


「ありがとう。戴きます」


「どうぞ、召し上がれ♥️」


刹那が作ってくれた朝食を食べながら、俺は刹那をチラチラ。 刹那は俺の視線に気付き ? みたいな表情をしていた。


……刹那はいつ俺にチョコレートをくれるのだろう?


それから5分経ったが、刹那に動きはない。そしてさらに10分経ったが、刹那がチョコレートをくれる気配は全く無かった。


「……あのさ刹那」


俺は然り気無く刹那に聞いてみようと声を掛けようとした時、刹那は時計を見て


「あっ! もうこんな時間! 圭介さん、ウチ仕事行ってきますね。それと、今日は少し遅くなるかも知れませんので。じゃあ行ってきます」


と言って大きめの荷物を持って部屋から出ていってしまった。


……チョコレートは? あれ? 刹那からはチョコレートは貰えないのか?


俺は刹那が出ていった玄関を見つめて呆然としていた。 



それから俺は、気落ちしたままゆっくりと会社に行く準備を整えマンションを出た。


……刹那からチョコレートを貰えると思っていたのに。 もしかしたら、今日がバレンタインデーだという事を忘れているのかも。 多忙だからなぁ。 忘れていても仕方がないのかも知れないなぁ……はぁ。


でも、会社に行けば義理とはいえチョコレートを貰えるだろう。 徳用チョコレートだけど。


俺は重い足を引き摺って会社へ向かった。





そして昼休み。 女性社員が例の如く徳用チョコレートの袋を開封し、男性社員に配り出した。


1人、また1人と女性社員からチョコレートを貰う男性社員。 次は俺の番だな。 俺は女性社員に向かって両手を差し出す。 しかし、女性社員は俺をスルーし他の男性社員の元に。


「あれ? 俺には?」


「? 丹羽さんにはありませんよ? だって、私達からは要らないでしょ? あんなに可愛い彼女がいるんだから」


女性社員はそう言って俺の元から去っていった。


「……その彼女から貰ってないんだよ。だから俺にもチョコレートちょうだい……」


俺は小声でボソリと呟いた。


義理チョコも貰えなかった俺は物凄く落ち込んだ。 午後からの仕事に支障が出なかったのは幸いだったけど。 今までならチョコレートを貰えなくても " 今年は0だったか~ " で笑って終わっていたのだが、今回は本気で凹んでいる。 俺ってこんなんだったか?


退社時に、赤坂が声を掛けてきた。 両手に紙袋を持ち、紙袋の中にはチョコレートが一杯入っていた。


「丹羽、どうしたんだ? 滅茶苦茶暗いじゃないか」


「モテるお前には一生分かんねーよ」


「……丹羽、それは嫌みか? お前だけには言われたくないぞ?」


「ああっ? お前、俺に喧嘩売ってるのか? 今なら2割増しで買うぞゴラァ!?」


「……荒れてるなぁ。何が有ったんだよ? 俺で良かったら話聞くぞ?」


赤坂のその言葉に甘えて、俺は刹那からチョコレートを貰えなかった事、女性社員からもチョコレートを貰えなかった事を話した。


 自分で思う。なんて女々しく小さい人間だろう……と。 たかがチョコレートを貰えなかっただけの話なのに。


しかし赤坂は首を傾げて


「おかしいな? 刹那さんがお前にチョコレートをくれない訳が無いんだけれどな?」


「実際何も無かったんだから。もう諦めるさ。しつこく言って刹那に嫌われたく無いからな」


話を聞いてくれた赤坂に礼を言って、俺はマンションに帰宅した。



「……おかしいな? 刹那さんは確実に丹羽にチョコレートを渡す筈なんだけどなぁ? だって、チョコレートを買って「圭介さん♥️」って言いながらニヤニヤしている姿を俺デパートで見たしなぁ?」





マンションに着き、部屋の鍵を開けて中に入る。


「ただいま……」


返事は無い。まだ刹那は帰ってきていないみたいだ。


俺は着替えを済ませて、リビングの照明を着けずにソファーに座りテレビを着ける。


正直何を観ていたか憶えていないけど。


すると、玄関の方から扉が開く音がした。 どうやら刹那が帰ってきたみたいだ。


刹那はリビングの照明を着けて


「圭介さん? 明かり位着けてテレビを観て下さいね。目が悪くなりますよ?」


と言ってきた。


「別に良いだろ。そんな気分だったんだから」


「? 変な圭介さん。 あ、あのね」


刹那は後に手を回してもじもじしながら


「こ、これ! 受け取って下さい! ウチが心を込めて作りました!」


と言って箱を差し出してきた。


? 箱? 刹那が作った? 何を?


俺は刹那から箱を受け取り、中身を見た。


!? これは……チョコレート!? しかもかなり大きめのハート形だ。 ハートの中央には " 大好きな圭介さんへ " の文字が書いてあった。


「あのね、ウチ圭介さんに喜んで貰おうと思って、一生懸命頑張ったんだ。でも、納得出来る物が出来なくて。だから今まで掛かっちゃったんだ。本当は今朝渡す筈だったんだけれど。ってあれ!? け、圭介さん!? 何で泣いてるの!? ウチ何か間違えた!?」


チョコレートを受け取った俺の姿を見て、刹那は盛大に慌てている。 刹那の言う通り、俺は涙を流していたみたいだ。自分では気付いていなかったけど。


俺はソファーから立ち上がり、刹那を少し強めに抱き締めた。


「間違っていないよ。ありがとう刹那。物凄く嬉しいよ」


俺の言葉を聞いて刹那はホッとした表情を浮かべ


「良かった~♪ 圭介さん、ハッピーバレンタイン♥️」


暫く刹那を抱き締めた後、刹那が


「あ、あのね////// メインのチョコレートは渡したから、今度はサブのプレゼントなんて い、如何ですか//////?」


ともじもじしながら俺に小箱を渡してきた。


小箱には 0.01㎜ と書いてある。


こ、これって……//////


「け、圭介さんが考えている通り……です////// 受け取って……貰えますか//////」


「勿論! 喜んで戴くよ!」


俺は即答する。


「♥️」


……明日の朝、ちゃんと時間通りに起きれるだろうか? 少し心配。























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